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赤さびの魔女【ナル・ラピスクロニクル】  作者: うめやす.
2章_魔女の姉妹弟子
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第十六話 ルッツとマリー

理想と現実

三人は馬車に揺られて髪を切るために目的地に向かっていた


「ねぇリン、美容院っていつ着くの?遠くない」

ナルが少し不満を漏らす


もう三時間以上馬車に揺られているのだ


ミナも少し疲れたように言う

「もっと近所にあるんだと思ったよね~」


リンが答えた

「あなた達の髪を切れる人間はこの国には一人しかいません」


「どういう意味?」

ナルが首をかしげる


「魔女の髪を自分以外が切るというのは危険な行為です、うかつに切れば手が魔力で変質します」


ミナが聞いた

「変質って、食べ物の味が変わるみたいなことが起こるの?」


「はい、あなた達の髪を切ったりすれば手を失うかもしれませんね」


「なにそれ、怖いんですけど」


ナルが自分の髪をつまみながら言った

「ずっと自分で切ってたからな~、知らなかったよ」

「じゃ、いまから会う人は切れちゃうってこと?」


「そうです、彼女はA級魔法使いの一人。わたくしの古い友人です」


「なんでその人は切っても平気なの?」


「彼女の持つスキルは守護、あらゆるものから身を守れます」


「守護?」

ナルとミナは顔を見合わせる

二人が読んでいる本の主人公マリーのスキル名だった


すると馬車が止まって扉が開けられた


「ついたようですね」

リンは立ち上がり馬車から降りていく


二人もそれに続いた


小さい石造りの家があった

庭が綺麗に手を入れられていて、花々が彩っていた


「すてき~、おとぎ話に出てくる家みたい」

ナルは感動して声に出す


その横でミナは胸に手を置いて見入るように庭と家を見ていた

「いいね…こういうの…」


ふとナルはミナを見た

ミナの目はキラキラと輝いて見えた

「ミナ、こういうの好きだったんだ」


「そうかもしれない…」

ミナはそう言いながらも、目を離そうとしなかった


門扉を開けて中に入ると、すぐに家の主が迎えてくれた

金色の長い髪を結んだ女性だった、リンと同じくらいの歳だろうか


「ひさしぶりね、リン」


「変わりなさそうですね、マリー」


ナルとミナはまた顔を見合わせた

「マリー!?」


リンは二人を紹介するように言った

「この二人が手紙に書いた子達です、こちらがミナ、こちらがナル」


マリーは二人を見て名乗った

「わたしはマリー・マリン。よろしくね」


ナルが目を輝かせて言った

「やっぱり!本物だ!」


ミナも目を丸くする

「ってか実在したの?フィクションじゃなかったの?」


そこでマリーの顔が少しひくついた

「ひょっとして…あなたたち…読んだ?」


ナルが目を輝かせて言った

「うん!マリー・マリンの放浪伝記、わたしの憧れなの!」

「本物!?ここに住んでるの!?旅は続けてるの!?」


「いやぁ…ははは」

ナルの質問責めに、マリーは困ったように笑う


すると建物から一人の男性が出てきた

「マリー、お客さんかい?」


落ち着いた声で口ひげを蓄えている

すらっと足が長く、優しそうな表情と目が印象的だった


ナルがうかがう様に男性をみる

「あれ?男の人?マリーと暮らしてるの…?」


「やあ、リン。遠いところよく来てくれたね」


「あなたもお変わりないですね。ルッツ」


「ルッツ!」

ナルとミナの声が重なった


ナルが問い詰めるように言った

「ちょっと待って!ルッツと暮らしてるの?なんで?振ってたじゃん」


するとマリーが叱るようにルッツに言った

「ほら!あなたがあんな本を書くからでしょ!」


ルッツは困った顔をして笑った

「あはは、立ち話もなんですから。中へどうぞ、ハーブティーを入れますから」


室内は素朴だが落ち着いた雰囲気だった

静かに時が流れているような感覚がした


ルッツがハーブティーの用意をする

ポットからカップに注がれる音がするといい香りが広がった


テーブルに腰かけてナルは腕を組み背筋を伸ばし目を閉じていた

ルッツが椅子に腰かけるのを待っていたかのように言った

「それで?ルッツ!どういうことか説明して」


謎の上から目線にルッツが戸惑う

「え、僕たち初対面だよね?」


「いいえ、私は本で会ってるわ。話が違うわ。どういうことか説明しなさい」


ルッツは少し困ったように語り出した

「あれはマリーを主人公のモデルにしただけのフィクションなんだよ」


ナルが立ち上がって声を荒げた

「なんですって!だましたわね!」


「ちょっとナル、落ち着いて」

ミナがそれを制止する


ルッツは困った顔をして言う

「最初は軽い気持ちで書いたんだけど、なんか人気が出ちゃってさ」


「ほんと、あの本のおかげで変なイメージつくし迷惑よ」

マリーが少し不機嫌そうに言った


ナルがマリーに確認する

「え!それじゃ旅は?放浪は?」


「そんなことするわけないでしょ」


「そんなぁ~」

ナルはへなへなと力を失うように机に倒れ込んだ


ミナが聞いた

「ってことはリックもいないってこと?」


「リックはいるよ」


ルッツの声にナルががばっと身を起こした

「いるの!?」


「うん、本当は僕の兄上だけどね」


「お兄さん?」


「兄弟でマリーを取り合ったってこと?」


「まぁ、そうなるね」


そこでリンが会話に入ってくる

「この方はルッツ・セルレア、現王リックの弟。王弟殿下です」

「そして我が国の王がリック・セルレアです」


ナルが思わず声をあげた

「王様!? その弟?」


ミナがあきれたように言う

「なにそれ……王様とマリーを取り合ったの?」


ルッツは少し慌てて言った

「本を書いた頃は王様じゃなかったんだよ」

「連載の終わりの方でリックが王様になっちゃってさ」

「本当はあの本の結末は僕と結婚するはずだったんだけど、待ったがかかってね」


マリーが呆れたように言う

「処刑されちゃいますよ~って印刷所に泣きつかれたのよね」


「マリーが僕を選んだことをリックはいまだに根に持っててさ、こんなところに暮らしているのさ」


ミナが疲れたように言った

「なにそれ…なんか夢壊れるんですけど」

「ってかさ、なんでみんな三角関係なの?そういうものなの?わたし絶対やだ…」


リンが当たり前のように言った

「恋愛は基本サドンデス方式です。大抵横やりが入ります」


「リンが言うとなんか説得力あるね…」

「ってことは、A級魔法使いが二人も、しかも王弟殿下が世俗から離れて暮らしてるの?そんなことが許されるわけ?」


ルッツは少し笑ってから言った

「まさか、この国にそんな余裕はないよ」

「ここは国境さ。すぐ近くに第一軍の陣がある」

「僕は第一軍の長官をやってるんだ」


ナルが聞く

「軍人ってこと?」


「そうだよ、マリーもそうさ」


ナルはショックを受けたように言う

「マリーが…軍人…?」


マリーがナルに反応する

「すごい心の乱れ方ね。なにか軍に思うところがあるのかしら」


リンが割って入るように言った

「ナルの父親は名誉の負傷で退役した軍人でした」

「彼女の心が乱れるのはそのためです」


ナルが驚いた顔で声を荒げる

「なんでリンがそんなこと知ってるのよ!」


マリーはリンに目線を移し少し間があった

「ずいぶんと未熟な弟子ね」

「きちんと教育してるの?」


リンは目を離さずに答える

「ナルは優秀です」

「まだ弟子になってから日が浅いだけです」


「そんな悠長なこと言ってられるの?」

「こんなんじゃ、処分って話にもなりかねないでしょ」


マリーがそう言った瞬間、場の空気が変わった

その場にいた全員がミナの方を見て身構える


ミナは目に見えるほどの魔力を身にまとっていた

「いま…なんて言ったの?おばさん」


慌ててナルがミナに叫んだ

「ちょっと!ミナ!やめなさい!」


そう言われて、ミナは少しずつ自分を抑えるように魔力の放出を止める


マリーとルッツはミナに身構えて警戒を崩さない

その表情には戦慄した色が現れていた


ルッツが問いただす

「なんだそいつは! 答えろ!リン」


マリーは答えにたどり着いた

「まさか、1年前の白い脅威? なんで生きてるの」


リンは薄く笑いながら言った

「マリーのおかげで、手間が省けましたね」

「彼女はサラが残してくれた子供ですもの」

「わたくしが蘇らせました」


ルッツが声を荒げた

「なんだと!?」


マリーも訴えるようにリンに言った

「そんなことが許されると思ってるの!?」

「リン!いくらあなたでも見逃せないわ!」


「ならば、戦いますか?わたくし達と、この場で」


マリーとルッツは顔をゆがませて答えない


「賢明な判断です。あなた達では決して勝てない」

「わたくしは今日ここに取引にきたのです」


ルッツは警戒を崩さない

「取引…だと」


「わたし達の味方になってください。第一軍もろとも」


「なにを言ってる…お前は反乱でも起こす気なのか」


「ちがいますよ、ルッツ陛下」


二人の表情がゆがみ、リンをにらみつけた


「わたくしはあなた達の味方なのです」


「その気になれば、叶わぬと諦めた夢すらも叶えられる、そんな味方」

「魔女を喜ばせれば、ご褒美があるものです」


「わたしたちは素朴な魔女です」

「ただ平和な日常を守って欲しいだけ」

「あなた達はその後ろ盾となってくれればいい」


少し間があった

ルッツはリンを睨みつけながら確かめるように言った

「その先には…なにがある?」


リンの口元が緩んだ

「無欲を装っておとぎ話のような小さな家に住む必要もなくなる」

「わたくし達を満足させてくれれば」

「御心のままに…ルッツ陛下」


ルッツは吐き捨てるように言う

「魔女め…」


そこで静かになった

リンと、ルッツ、マリーはただ睨み合う


そのやりとりを見ていたナルがミナに耳打ちする

「ちょっと…ミナが怒ったから凄い話になっちゃってるじゃん」


「これってわたしのせいなの?絶対違わない?」


「ねえ、今のってどういう意味?この人たちと仲悪いの?」


ミナがあきれたように小声で返す

「え?分かってなかったの」


「なによ、ばかにしないでよ」


「だったら分かるでしょ?」


「でも味方になろうって言ってたのにピリピリしてるんだもん」


「王様にしてやるから味方になれって言われたらそうなるでしょ」


ナルが目を丸くする

「え!ルッツって王様になるの?」


ミナが肩をすくめる

「いや。本当はなりたい…みたいな」


そこでリンから突っ込みが入った

「二人とも、全部聞こえてますよ」


そこでマリーが笑い出した

「あはは、私たちの負けだね」


制止するようにルッツが反応する

「マリー!」


マリーは楽しそうに言う

「ルッツ、その顔じゃバレバレだって」


ルッツの目は別人のようにギラギラとした野心がむき出しになっていた


リンが静かに薄笑いを浮かべながら言った

「素敵な旦那さまねマリー。羨ましいわ」


「あげないよ」


「もちろん盗ったりしませんよ、わたくし達、お友達でしょ」


マリーは眉をひそめた

「あんたに言われると不安になるわね」

「用が済んだなら帰ってよ」


「もう一つ大事な用があります」


マリーが警戒するように聞く

「なによ」


「この子達の髪を切ってくださいな。可愛くしてくださいね」


「……は?」

マリーは拍子抜けして間の抜けた声を出した


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