第十五話 王宮からの招待
どんな宝石も
毒があれば砕かれる
朝日が部屋に差し込む
その光で、ミナは目を覚ました
すぐに、自分にかけられた毛布に気づく
「あれ? わたしいつのまに寝ちゃったんだっけ」
そこはナルの部屋だった
昨日、一緒に本を読んでいて、そのまま眠ってしまったらしい
部屋を見回すと、ナルの姿はなかった
代わりに、ベッドの上のメモ書きが目に入った
メモにはこう書いてあった
朝ごはん買ってくるね
寝るなら歯を磨こう!
文字の横に、虫歯になって苦しんでいるような顔のイラストが描いてある
メモの横には歯ブラシが置いてあった
「ナルって絵上手いじゃん」
ミナが部屋にある小さな流しで歯を磨いていると、ナルが帰ってきた
「ミナ、おはよ~」
「おふぁよ」
歯ブラシをくわえたまま、ミナは答えた
「ね、見てみて! これ」
そう言ってナルが差し出してきたのはサンドウィッチだった
「あれ? これって前にソラが作ってくれたやつ」
「そうなの! 作り方が広がって、近くのパン屋でも始めたんだって」
「早く食べようよ!」
「うん」
そう言ってミナは水で口をすすいだ
サンドウィッチは、以前ソラが作ってくれたものにそっくりだった
ミナはそれを見て言う
「なんか懐かしいね」
「わたしはたまに作ってもらってたから、そうでもないよ」
ミナは少し目を細める
「これ見てると胸がざわざわする気がする」
「女の嫉妬パワーって凄かった、トラウマよ、ほんと」
「なんの話?」
「わたしがナルを襲ったときの話、これ食べてたじゃん」
「あんまり思い出したくないんだけど」
「わたしだってそうだよ」
ナルはサンドウィッチを見ながら言った
「けっきょく、あれって何だったの?」
ミナは少し考えてから答える
「わたしの魂が主導権取り戻したけど、あっちも抵抗してて」
「混ざり合ってグラグラしてたら、ナルが愛しのソラを誘惑しはじめて、パーンってなった感じ?」
「誘惑なんかしてないから」
「この前やってたって認めてたじゃん、悪い魔女だって」
「そういう意味じゃないわよ、わざとやったりしないから」
「そうかなぁ」
ミナはナルが脱いでベッドに置いてあった部屋着を見た
赤い小さな布がそこにはあった
「なんかナルの部屋着も怪しくない?」
「なんの話?」
「だって昔からナルの部屋着ってブカブカのパジャマだったじゃん」
「なんでちょっと目を離した隙に露出急増してんのよ」
「なによそれ、変な想像しないでよ」
「単に楽だから着てるだけだから」
「ふ~ん」
少し間が空く
ミナが口を開いた
「そういえば今日の訓練って外に行くんだっけ?」
「うん、休み前にリンが言ってたね。どこ行くか知ってる?」
「知らな~い、リンのことだからどうせろくでもないでしょ」
「今日は筋トレしないよね? なしの日なんだから」
「どうだろうな~、リンって隙あらば筋トレさせるから」
そこでミナは、昨日の本の話を思い出した
「あ! そういえばマリーはどうなったの?」
「両方とも振って旅に出たよ~」
「うそでしょ!? なにそれ!?」
「やっぱりマリーを信じてよかったわ、旅を選んでくれたの」
ミナは納得いかない顔になる
「ほんとに!? なんで? 九巻ではマリーだってどっちにするか揺れてたじゃん」
「二人ともあんなにマリーのこと好きで、尽くしてくれて、殴り合いにまでなったのに、当のマリーは一人でどっかいっちゃうの?」
「なんでそんなことすんの!? ひどくない?」
「なによその言い方、マリーに男なんかいらないのよ」
「あっちが勝手にやってただけでしょ、マリーが頼んだわけじゃないから」
ナルは少し得意そうに言った
「ミナって意外と恋愛脳だよね~」
ミナが少しむっとした顔をした
「ナルにだけは言われたくないよ!」
「勝手にやったとか酷くない!? 気を持たせるような態度してたじゃん、マリーが!」
「そんなことしてないわよ、勝手にそう受け取ったんでしょ」
「ナルってひどい~、酷いよ! 勝手にとか酷くない!?」
「やっぱり! やっぱりそうなんだ!」
「本当は、あっちから来させれば『わたしは悪くないよね〜』とか思ってたんでしょ?」
「わたし疑ってるからね!」
「なんの話よ! いまは本の話でしょ?」
「あんた意外とのめり込んじゃうタイプ?」
ミナはむすっとした顔になって言った
「十巻、わたしも読むから、貸して」
二人は朝食を食べ終えて、いつもの内庭に向かった
そして開口一番、リンが言った
「髪を切りにいきますよ」
ナルはきょとんとする
「髪? 美容院に行くとか?」
「あなた達は王宮に挨拶に行くことになりました」
「王宮?」
「はい、A級魔法使いであるあなた達を、わたくしの弟子として紹介します」
「国王陛下からの招待です」
ミナが少し面倒くさそうに言った
「王様? なんか肩がこりそう、あんまり行きたくないな~」
「わたしも行きたくないかも……」
ナルも続く
リンは淡々と答えた
「そうはいきません、本来A級とは国を支える柱です」
「わたくしたちの国は小国です。魔法の力のみで存続していると言っても過言ではない」
「あなた達も、自分の立場を自覚しなければなりません」
「そして、疑われないようにふるまわなくてはなりません」
ナルが聞く
「疑われる?」
「わたくしとあなた達で、三人のA級魔法使いが魔法省に集まっています」
「これを危険視する者もいるのです」
「この国のA級は、あなた達を含めて事実上九名しかいませんから」
ミナが少し投げやりに言った
「ようするに、怖くないよ~って愛想をふりまきにいくってこと?」
「そうです」
「それで、なんで美容院なの?」
「見た目が良いと殿方に受けがよくなります。敵が減ります」
「そんなことで減るの?」
「減ります」
「あなた達には、まだ子供っぽさが残る可愛い女の子になってもらいます」
ミナが言った
「なにその設定……なんか嫌なんですけど」
「でも、ナルは得意かも、そういうの」
「得意なわけないでしょ!」
リンは気にせず続けた
「わたくし達が味方につけるのは貴族達です」
「彼らは御しやすそうな女とみれば、自分の子息に嫁がせて取り込もうと考えます」
「彼らにそう思わせ、ここでの訓練を花嫁修業と勘違いさせなさい」
「そうすれば彼らは、わたくしたちの側に立ってくれます」
リンは二人を見た
「あなた達もしばらくの間は、ここで自由に生活していたいでしょう?」
ナルは少し困ったように言った
「そうだよね……自由とかなくなるのは嫌だな」
「あ! でも、筋トレはしなくてよくなるのでは」
ミナが頭の後ろに手を置いて、伸びをするように言った
「一つ聞いてもいい? リン」
「はい」
「わたしたちがその気になったらさ、そんな面倒なことしなくてもよくない?」
リンは黙ってミナを見つめている
「そのほうが、早かったりして」
ナルが少し慌てる
「はやいってなに? 怖いこと考えてる?」
リンの口元が少しゆるんだ
「そういうことを、怖がる人たちがいるのです」
「覚えておいてください」
「わたくしなら、あなた達の今の生活を守れます」
「それに、あなた達はわたくしの溺愛する愛弟子です」
「うかつに手を出せば、それこそ……その気になる」
「そう思われる程度には、わたくしは怖がられていますよ」
ミナが肩をすくめる
「なんかリンって嫌われてそうだよね。わたしたち巻き込まれてたりして」
「まぁ酷い。わたくし意外と人気なのよ」
「どういう人気なんだか」
ナルが言った
「とにかく、怖がられないようにふるまえばいいんでしょ?」
「そうです。難しく考えないでください」
「わたくしが会話します。あなた達は黙って挨拶だけすればいい」
「自分の名前を言って、こう礼をする」
そう言ってリンは、袖を広げるような挨拶のポーズを見せた
「あとは普段通りで良いですよ、ご馳走がありますから、それを食べていてください」
「ほんと!? 王宮のご馳走ってこと? すごそう!」
ナルが目を輝かせると、ミナがすかさず言った
「そういうのをナルに食べさせたら、裏切っちゃうかもよ」
「なによそれ! そんなことしないわよ!」
リンまでうなずく
「たしかに……懸念は感じますね」
「リンまで酷くない? わたしそんなんじゃないから!」
ミナとリンが笑い出す
ナルもつられて笑った
少し不安はあるけれど
ナルは、ここでの生活が気に入ってきていた
今の生活を守りたいと、ナルは思った




