第十四話 新たな日常③
「お次のお客様どうぞ。おまたせしました」
ミナとナルがしばらく列に並んでいると、店員に声をかけられた
「やっときた~」
ナルが待ちかねたように言った
テラスの二人席に座ってメニューを見る
「わー!なんか色々あるね、フルーツとか乗ってるんだ」
「うん、どれも美味しいよ。好きなの頼みなよ」
「ごちになりま~す」
「お金払うのリンだけどね」
ナルは木苺ののったふわふわパンケーキを選んだ
ミナはトッピングのないプレーンのものを頼む
「ミナって食べ物のお店に詳しいよね」
「ま、暇だからさ」
「一人の時間ってなにしてるの?」
「んー…散歩?」
「色んなお店フラフラしてたけど、飽きてきたな~」
「本とか読めば?面白いの教えるよ」
「読むのも嫌いじゃないけどさ。わたしはナルから内容を聞く方が好きだな」
「一人でじっとしてるってのが性に合わないみたい」
「じゃ二人で読めばいいじゃん」
「あー、それはそうかもね」
「じゃ、ナルの部屋でわたしも一緒に読んでもいいの?」
「いいよ」
少しナルを伺うようにミナは見つめた
「なんか…わたしへの好感度がずいぶん上がってない?」
ナルが少しむっとした顔になる
「また餌付けとかいうの?そんなんじゃないから」
「ちがうよ、嬉しいな~って」
その時、店員が料理を運んできた
「おまたせしました」
二人の前に注文したパンケーキが置かれた
ナルが驚いた声をあげた
「ぶあつーい。知ってるのと全然ちがーう」
「ふわふわでおいしいよ」
「いただきま~す」
ナルはフォークをとってパンケーキを口にいれる
「ん!すごい!口の中で溶けるみたい!」
「おいしすぎるよ~」
「うん、出来立てじゃないとこうはいかないんだって」
「すごいね、ありがとうミナ!大好き」
「餌付けしちゃった?」
「ちょっと!それ言わないって言ったじゃん」
「ごめんね」
パンケーキを口にいれながらナルが言った
「今日は許してあげる、特別だからね」
「ありがとうね〜。食べたら、また本の続き読むの?」
「読むよ!ここまできたらマリーを見届けるわ」
「そっか、パンケーキわたしの分、半分あげようか?」
「いいの?」
「うん、そんなにお腹すいてないから」
「ありがとう~、なんか最近優しいよね」
「こうしたほうがナルが懐くからね~」
「しつこいよ!」
ミナはいたずらっぽく笑ってから言った
「これあげるから、許してね」
そう言ってミナはナルに手を差し出し、ナルに何かを手渡す
「なに?ネックレス?」
「そう、わたし特製のお守り」
それは白い丸い石が付いたネックレスだった、白い光を放っていた
「きれい…」
「さっき作ってたやつでしょ?貰っていいの?」
「ナルのために作ってたんだから、貰ってよ」
「うん、ありがとう」
すぐにナルはネックレスを自分の首に付けた
「どう?」
「似合ってるよ。かわいい」
二人は食べ終わると組合に向かって帰る
「ちょっと待っててね」
ミナがふいにそう言って走り出した
すぐ前にあった店に入る
ナルが一人で待っていると、見知らぬ男性に声を掛けられた
「こんにちは」
「へ?」
「君一人?待ち合わせ?暇だったら、一緒に遊ばない?」
「だれ、あなた?遊ばないわよ」
迷惑そうにナルが男を見る
「いいじゃん、絶対楽しいからさ」
そういって男はナルに手を伸ばした
次の瞬間、一瞬小さく何かが光って破裂するような音がした
そして男の腕はナルに触れる前に跳ね上がる
気が付くとナルを庇うようにミナが前に立っていた
「汚い手で触んなよ!」
次の瞬間、男の叫び声が響いた
男の腕は皮膚が大きくはがれ、血が滴り落ちていた
「ちょっとミナ、やりすぎだって」
「手加減したよ、腕はちゃんと繋がってるでしょ」
「あんた、早くわたしの前から消えないと後悔するよ」
男は小さく悲鳴をあげて逃げて行った
「ちょっと、ミナ!なんであんなことするの?」
「ナルのこと触ろうとしたからさ…」
「だからって、やりすぎだよ。あの人怪我してたじゃない」
少し間があった
そして、ミナはナルの方を向いて両手を合わせて大げさに頭を下げる
「そうだよね。ごめん」
「わたし手加減が下手でさ〜。次から気を付けるね。練習しとく」
「リンに頼んで、あの人を探して、謝罪して、治療費も渡すよ」
「嫌な思いさせて、ごめんね」
「あ、うん」
「でも…わたしを守ろうとしてくれたんだよね」
「ごめんね、わたしも気をつけるね」
「謝りにいくなら、わたしも一緒に行くよ」
「それに、急に女の子に声かけて体を触ろうとしたんだから、あっちだって悪いよ」
ミナは疲れたように言った
「ナルが誘ってるからな~」
「ナイトの私は気が休まらないのよ」
「なによそれ!?誘ってないわよ!」
そこでナルは気づく
ミナは大きな紙袋を持っていた
「なにを買ったの?」
「いいものだよ」
組合に戻りナルの部屋に入る
ナルは鼻をくんくんさせてから言う
「なんか、ミナが持ってる袋からいい匂いしない?」
「へへ、ジャーン」
ミナは紙袋の口を広げてナルに差し出した
「なになに、おいしそう!」
「パースニップチップスだよ〜、最近油で揚げた料理が流行ってさ。最新なんだから!」
「パースニップ?」
「野菜の名前、薄く切って油で揚げるチップス。おやつに良いよ」
「こんなの聞いたこともないよ!」
「わたし、飲み物貰ってくるから。先に食べててよ」
ミナは部屋から出て、組合の食堂に向かう
少ししてミナは帰ってきた、手には紅茶のポットとカップを持っている
小さな銀のトングも二つ持ってきていた
「ただいま~」
「おかえり~」
ナルは本を読みながら待っていた
「あれ?食べてないの?」
「一緒に食べようよ」
ミナは少しだけ口元が緩む
「うん」
ミナは紅茶を注いで、紙袋を破って食べやすいように広げた
パリっという音が部屋に響く
「おいしい~、これ止まらないね」
「でしょ、ちょっとはまってるの。他の野菜を使ったのもあるんだよ」
「そうなの!? 全部食べてみたい~」
「次は違う種類を買ってくるよ」
「九巻貸してよ、わたしも読むから。マリーを奪い合う男二人の修羅場を堪能するわ」
二人は本を読みながらナルの部屋で過ごす
時間がゆっくりと流れるようだった
やがて日が沈み、外が暗くなったころナルが背伸びする
「おわった~」
ナルがミナを見ると、床の絨毯の上ですやすやと眠っていた
「あれ、ミナ寝てるじゃん」
ミナは気持ちよさそうに眠っていた
「起こすのも可哀そうだよね~」
そういってナルはミナに毛布を掛ける
「わたしも、もう寝よっと。体拭いて歯磨かなきゃ」
組合で暮らすようになってから少しずつ
ナルの日常はここに移っている
その傍にはいつもミナがいた




