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赤さびの魔女【ナル・ラピスクロニクル】  作者: うめやす.
2章_魔女の姉妹弟子
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第十三話 新たな日常②

今日は休日の朝だった


ナルは部屋にこもって、マリー・マリンの放浪伝記第八巻を読んでいた

マリーはリックの告白に曖昧な態度をとっていて、旅と女の幸せのあいだで揺れている


「お願いマリー……わたしを置いていかないで……」


ナルは本を抱えるようにそうつぶやいた

今日はこのまま、最終巻の十巻まで読み切るつもりだった


その時、扉がノックされる


「ナル~、入ってもいい?」


ミナの声だった


「いいよ~」


返事をすると、すぐに扉が開いた


部屋に入ってきたミナは、ベッドの上のナルを見て一瞬止まる

ナルはうつ伏せに寝転んで本を読みながら、赤いショートパンツに薄いキャミソール姿で、足をぱたぱたと揺らしていた


「なにその格好」


「え? 部屋着だよ」


「ナルってそんな格好してたっけ」

「前はもっとぶかぶかしたの着てたじゃん」


「最近はこういう方が楽でいいの」


「ふーん」

ミナは少しだけ考える顔になった


「で、なんの用?」


「あ、そうそう、朝ごはん食べに行こうよ」


「待って、今いいところなの」

「マリーが危ういのよ」


「マリー? ああ、いつもの本の話?」

「手が離せないなら、ナルの分も貰ってこようか?」


「ありがとう! 助かる!」


「はーい」


ミナが出ていき、しばらくしてまた扉がノックされた

「ナル~、入るよー」


戻ってきたミナの手には、バゲットパンに切れ目を入れてベーコンや野菜を挟んだものが二つあった

その一方で、ナルは正座して腕を組み、目を閉じたまま深刻な顔で黙り込んでいた


「なにしてるの?」


「悩んでるの」


「それは見たら分かるけど、なにを?」


「九巻を読むかどうか」


「読めばいいじゃん、好きなんでしょ?」

「いつも楽しそうに話してたじゃん」


「マリーがリックとキスして八巻が終わったのよ」


「リック? 誰それ」


「お金持ちで、さわやか美男子で、優しい王子様」

「マリーにアプローチしてるの」


「へー、マリーってその王子様と結ばれてハッピーエンドになるんだ」

「良かったね」


ナルが怒ったようにミナに言った

「よくないでしょ!」

「マリーが旅やめちゃうじゃん!」


「やめればいいじゃん」

「マリーって女ひとりで定職もなく放浪してるんでしょ?」

「そんな人がそんな王子様に好かれるとかラッキーじゃん」


「なにそれ! 見損なったわミナ!」

「あなた夢より男を取るような女だったの!?」


「わたしは初恋もしたことがないのに、ナルにそんなこと言われたくないよ」

「ナルなんかソラと付き合えてたら、自分の夢とか考えもしないで幸せに暮らしてたよね?」

「絶対そうだったよね!」


「嫌なの!」

「マリーはわたしの憧れなの! ずっと放浪しててほしいの!」


「マリーだっていつまでも若くないんだから、そんな無茶できないでしょ」


「なによあんた! 前はもっと尖ってたじゃない!」

「最近腑抜けてきたんじゃないの!?」


「わたしは最初からこうだよ!」

「あれは魂混ざってて、あんた達の恋愛バトルに巻き込まれただけでしょ!?」


「恋愛バトルなんかしてないもん!」


「ナルこそ、失恋してからやさぐれて、リンに似てきたんじゃないの!?」

「あんな大人になりたいわけ!?」


二人は息を切らせながら睨み合った

その時、ミナの手にあるバゲットにナルの目が止まる


「あれ? ミナ、それなに?」


「え? 朝ごはんだよ」

「もらってくるって言ったでしょ」


「わぁ~、美味しそう~」


「でしょ! これさ、最近開店したお店のパンで、すごく美味しいって評判なの」

「パンに挟む具も選べてさ、特製のソースが特に美味しいんだって」


「えぇ~、ありがとう~、ミナ大好き~」


ミナは少し疲れた顔で言った

「ナルさぁ、ほんとそういうところ気をつけなよ」

「全部そこから始まってると思うよ」


「ん? なんの話?」


「美味しいもの食べさせてくれるからって、好きになっちゃだめって話」


「あ! そうなのよ!」

「マリーがさ、リックに見たこともない料理食べさせてもらったの!」

「それからマリーの様子がおかしくなったのよ!」

「ほんとずるいよねリックって!」


「えっと……そうじゃなくて……」


「気持ちは分かるけど、マリーなら、はねのけてくれると思うの!」


「……分かってはいるんだ」

「そうだね、はねのけてほしいよね……」


「でしょ!」


「じゃ、食べようか」

「美味しいよ、きっと」


「うん!」


二人は大きく口を開けてバゲットにかじりついた


「おいしい~、すご~い、こんなの食べたことない」


ミナがナルを見ながら言う

「ねえ、ナル」


「ん? どうしたの?」


「わたしさ、美味しいお店、沢山知ってるよ」


「え! そうなの?」


「うん、いくらでも美味しいもの食べさせてあげる」


「ええ! なになに? そんなに優しかった? ミナ」


「わたしが……食べさせてあげるよ、全部」


「ありがとう~、どうしたの? 急に」


「いや……それしかないのかな~……って」


「なにそれ? 変なこと言うね」


嬉しそうにパンを頬張るナルを見ながら、ミナは心の中で思った

ナルは……わたしがなんとかしなきゃ


「それで?」

「最後まで読むの? その本」


「ん~、それが問題よね~」


「キスまでしておいてさ、はいさよなら~とはならないでしょ」


「やっぱりそうだよね~」


「別にいいじゃん」

「好きな旅を沢山してから、好きな王子様と結婚するんでしょ」

「理想の結末ってやつじゃないの?」


「やだよ~……マリーはそんなんじゃないの」

「ずっと男なんかいらないって言ってたもん」


「その前に失恋でもしてたんじゃないの?」

「ナルみたいなもんでしょ」


ナルは力なく横に倒れ込んだ

「やっぱそうなのかな……」

「そんな気はしてたのよ……なんかマリーの言うこと分かるな~ってさ~」


「どうせだったら、最後まで読んでマリーを理想にしたら?」


「やだよ~、マリーが寝取られるなんて」

「読みたくな~い」


「寝取られるってなによ」

「そこまで読んでやめるのって気持ち悪くないの?」


「気持ち悪い~い、でも読みたくなぁい~」


「ってか、わたしもここまで聞いちゃったら気になるよ」

「ナルが読まないなら、わたしが読むからね」


「だめ! 汚れるから」


「なによそれ!」

「だったら読みなさいよ! それで結末教えて」


「わかったよ…」


朝食を食べ終えると、ナルは第九巻を手に取って読み始めた

ミナは絨毯を整えてから、自分の鞄を開ける


中から白い布を取り出して床に広げ、その上に小さな石や紐、金具を並べ始めた


それを横目で見て、ナルが聞く

「なにそれ?」


「アクセサリー作り」

「リンに教わったばかりじゃん」


「魔具のこと?」

「自分の魔力を封じ込めて、お守りにするやつね」


「そうそう、ちゃんと作ってみようと思ってさ」


「ふーん、出来たら見せてね~」


それから、部屋には静かな時間が流れた


ナルは読書

ミナはアクセサリー作り


やがて、部屋の掛け時計が十二時を告げる

それと同時に、ナルは読んでいた第九巻をぱたりと閉じた


「はぁ~」


大きなため息が漏れる


「読み終わったの?」


「うん」


「どうだった?」


「なんか元カレのルッツが出てきて、揉めてた」


「えぇ…なにそれ」


「やっぱお前が忘れられないとかなんとか言って、リックと殴り合いになってた」


「修羅場じゃん……マリーも隅に置けないね」


「旅とかどこいったのよ~……ただの現実逃避だったのぉ~」


「マリーって元カレとなんで別れたの?」


「なんかすれ違い……みたいな?」

「お互い忙しくなって、疎遠になって、ちょっと喧嘩しちゃって、勢いで別れた~みたいな感じ」


「うわぁ……憧れの人、庶民的だね~」


「もうわたし、最終巻読みたくないよ……マリーが男まみれだよ……」


「いや、そこは読んでよ! わたしが気になるじゃん」


「ミナ、なんかお腹すかない?」


「うん、すいてきたね~」

「何か食べる?」


「おいしいもの! たべた~い」


「ふふ~ん、ちゃんと探してあるよ」

「ナルの胃袋はわたしが管理するからね」

「ついておいでよ、お店近いから」


「やったー! はやく行こうよ」

ナルは勢いよく扉へ向かう


「ちょっと待って!」


「え? なに?」


「そんな格好で行くつもり?」


ナルは部屋着のままだった

「あ! そっか。危ない危ない」


そう言ってナルは慌てて服を着る

「お待たせ! 行こうよ!」


二人は部屋を出て、組合の裏口から外へ出た


「なに食べさせてくれるの?」


「ふわふわパンケーキだよ~」


「パンケーキ? それなら前にリンも……」


「ちがうんだな~。出来立てじゃないと出せない味なんだから」


「パンケーキって色々あるの?」


「そういうこと」

「一番美味しいパンケーキを食べさせたのはわたしだからね」

「ちゃんと覚えなさい」


「なによそれ、なんかバカにされた気がするんだけど」


「そんなことないよ~」


「だって、前に『餌付けされた』とか、わたしに言ってたじゃん」

「実は傷ついてたからね」


「ごめんって」

「ナルに口悪いって怒られてから、気を付けてるじゃん」

「最近はそうでもないでしょ?」


「まぁ、そうだけどさ」


そうこう話しているうちに、目的の店に着いた

店はかなり混み合っていて、順番待ちの列までできていた


「もう甘い匂いがするね!」

ナルが興奮気味に言う


「うん、期待してね! こっちだよ」


二人は列の一番後ろに並び、順番を待った……


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