第十一話 巣立ち
怖くはない
一人じゃないから
雲ひとつない晴れた早朝に、ナルの声が響いた
「いってきます!」
ギルドの前で、ナルはミナとソラに向かって笑顔でそう言った
ミナが少し涙をためて言う
「いってらっしゃい、気を付けてね」
ソラはバスケットをナルに差し出した
「いってらっしゃい。これ、お弁当。あとで二人で食べて」
ナルは嬉しそうにそれを受け取った
「うん、ありがとう!」
変装したくせ毛の方のミナも、適当に手を振る
「ありがとね~」
二人は組合に向けて歩き出した
姿が見えなくなるまで、ミナとソラは見送ってくれている
何度か振り返って、ナルは大きく手を振った
ふと気づくと、隣を歩くミナは元の姿に戻っていた
ナルをちらりと見て、ミナが言った
「ふんぎり、ついたっぽいじゃん」
「そうかもね」
「これからどうするの~?」
「分かんない。とりあえず、リンのところで頑張ってみようかな」
「そのうちムキムキになっちゃうね」
「え~、それは困る~」
「でもさ、組合の周りって美味しい食べ物屋さん沢山あるんだよ」
「え! そうなの?」
「しかもリンの弟子は無料なんだから! なんでも食べれるの」
「ほんとに!? リンの弟子ってそんな特典ついてたの!?」
「でも無料って変じゃない? リンが後から払ってるとか?」
「さぁ~、どうなんだろうね」
「でもこの服だって無料で貰えたよ」
「その服も弟子特典で貰ったの!?」
「うん。リンの弟子はなんでも無料なの」
「なにその好待遇! もっと先に言ってよ!」
「衣食住には困らないんだよね~。筋トレさせられるけど」
「なんで筋トレなんだろうね。魔法と関係なくない?」
「リンは筋肉が好きなだけでしょ。趣味とか?」
「なにそれ……わたしたち、リンの趣味のためにムキムキにされるの?」
「そうなる前に卒業しなきゃね~」
「ミナってさ、目標とかあるの? やりたいこととかさ」
「ん~? あるように見える~?」
「見えない」
「せいか~い」
「そういうナルはどうなの?」
「わたしはちょっとだけあるよ」
少し意外そうに、ミナが食いつく
「え? なになに?」
ナルは少し上を見上げてから言った
「わたし、生まれてからこの町しか知らないでしょ。だから違う世界を見てみたいなって」
「旅行したいみたいな?」
「そういうことかも」
「でもいいね、それ。わたしもこの町しか知らないもんな~」
「ミナも一緒に来る?」
「え? いいの?」
「いじわるしないならね」
「わたしのは愛情だよ~」
「好きな子いじめるみたいな?」
「子どもみたい。 まずはそれから卒業したら?」
「ナルだってそれ系じゃん」
「ソラのこと、からかいまくってたくせに」
「あれはソラ君も喜んでたからいいの」
「あー……そうかもね」
「一皮むいたらナルのこと超好きだったし。足で踏まれても喜びそう」
ナルが肘でミナの横腹をこずいて言う
「そういうこと言わない!」
ミナはナルを横目で見ながら言った
「ってかさ~、ナルって実は泣き虫だよね」
「またそういう……」
「ナルがいい人を見つけるまでは、わたしが傍にいてあげるよ」
「え?」
「すぐ泣いちゃうからさ、誰かついててあげないとね~」
「けっこうあんたに泣かされてる気がするんですけど」
「え~、ちがうよ~。勝手にナルが泣くんだよ~」
「わたしにも選ぶ権利くらいあるからね。でも、覚えといてあげる」
ミナが少し意外そうに、きょとんとした顔でナルを見た
「………わたし、女は恋愛対象じゃないよ?」
「あたしもよ! そういう話してなくない!?」
「冗談だって~。でも、わたし安心したな」
「なにがよ?」
「わたし、あっちのミナのおまけみたいなものだったけど。ちゃんとナルには届いてたんだな~ってさ」
「な、なによ……気持ち悪いわね」
「ナルがおねしょした時、イナクにばれないように一緒に拭いてあげたのも覚えてるよ~」
「すごい焦ってたよね~」
「変なこと覚えてんじゃないわよ!」
「それに、わたしは一回だけでしょ!?」
「ミナの方がおねしょ多かったじゃん! 手伝ってあげたでしょ」
「え~、そうだったかな~?」
大きなため息を、ナルがつく
「たしかに…あんたには腐れ縁みたいなものを感じるわ」
「腐ってないよ~。新鮮だってば」
そんな話をしているうちに、組合が見えてきた
ナルは内心、このくせ毛のミナに感謝していた
ただ、素直に態度に出す気にはなれなかった
組合に入ると、すぐにリンの声が届いた
「ナル~」
リンは走りながら、ナルたちに向けて嬉しそうに手を振っている
「なんかリン……はしゃいでない?」
「いつもと違うんですけど……ちょっと怖いね」
「ナル、ミナ、お帰りなさい」
少し息を切らして、リンは二人の前に来る
「た、ただいま」
こんな人だっけ?とナルは少し後ずさった
するとリンは、何かを探すようにきょろきょろと首を動かす
「あら?」
リンはナルの後ろを覗き込むように見る
「あら? あらら?」
「一人ですか?」
ナルが、何か文句ある? と顔に書いてあるような顔で返事する
「そうだよ」
その瞬間、ぱっとリンの顔が笑った
ナルを抱きしめ、小躍りするように言う
「そうです、魔女に男など不要です。堕落のはじまりなのです」
「ナルなら分かると信じていましたよ。共に魔道を歩みましょう」
ナルは無表情で答える
「そうだね……歩んじゃおうかなぁ、魔道」
「さあ、今日は薬学を学びますよ。魔女の薬は豊富で奥深い。覚えることが山ほどあります」
「もちろん、お茶の用意もしてありますよ」
「ほんとに! やったー」
リンはナルの背中に手を回し
導くように共に歩き出す
生涯独身、恋人不要の
魔道の道へ




