6ー21 海水浴
「いくよ~、ナル~」
海の色によく似た青いビキニを着たミナが、ナルを背中に背負って走っている
細くしなやかな脚が軽やかに砂を蹴り、腰の両脇に結ばれた小さなリボンが、走るたびに揺れていた
「ミナ、わたしまだ体が痛いのよ」
「ゆっくり、もっとゆっくり~」
ナルは淡い桃色のビキニを着ていた
小柄な体によく似合う可愛らしい水着で、胸元には少し大きめのリボンがついている
二人とも麦わら帽子をかぶっていた
その後ろから、少し大きめのバッグを持ったリンがゆっくりと歩いてくる
リンは白いフリルのついたビキニを着て、その上に薄手のパーカーを羽織っていた
すらりとした立ち姿に白い水着がよく映え、パーカーの隙間からのぞく控えめなフリルが、どこか大人びた上品さを感じさせた
砂浜まで降りてきたミナとナルは、先ほどとは変わった浜辺の様子に目を見開く
そこには大きなテントが張られ、その下にはハンモックが3つ吊るされていた
その横には小さなかまどが用意され、上には金網が載っている
さらに、串に刺した肉や野菜が並べられていた
ミナが歓声を上げる
「おおー! すごい!」
「すごいことになってるよ、ナル!」
ミナの背中で、ナルも声を上げた
「すごいじゃん!」
「きっとレアルだよ!」
「さっすが、わたしのパパ!」
「って、ナル、本気であのおじさんをパパにする気?」
「何言ってんのよ」
「レアルよりいい物件なんか、あるわけないわ」
「ミナのパパにもなるんだよ」
「あんたも協力しなさい」
「父親って……物件なの?」
「最近のナル、いろいろとおかしくない?」
「魔女とは、かくあるべしよ」
「リンの教えじゃない」
「最近のリンは、そんなことないじゃん」
「その代わり、ナルが昔のリンみたいになってるよね?」
「本当にやめてよ」
「平和に暮らそうよ」
「あんたが彼氏を探してる間に、わたしはパパを探しただけでしょ」
「何が違うっていうのよ」
「全然違うでしょ!」
「パパって普通、探すものじゃなくない?」
「だって、ちょうどいい感じに落ちてたんだもん」
「リンだって、本音はレアルが好きなんだよ」
「だったら、わたしたちのためにも、くっつけた方がいいじゃない」
「リンが嫌がってるじゃん!」
「もうやめなよ」
「あれは本当は嫌じゃないけど、嫌がってるのよ」
「前にリンが言ってたわ」
「あれが乙女心ってやつよ」
「つまり、本当はまんざらでもないわけ」
「押し方の問題よ」
「リンが言ってたのは、そういうことじゃないんじゃないの?」
「ナルって、本当に中身は女の子?」
「最近、違う生き物なんじゃないかとすら思うわよ」
「何よ、失礼ね!」
「違う生き物なんて言ったら、ミナの方がそうでしょ」
「最近のミナの魔力、人間のレベルじゃないわよ」
ミナは海の浅瀬まで歩いてくると、ナルをそっと降ろした
ナルが嬉しそうに声を上げる
「わー! 気持ちいい~」
「冷たいんだね~」
ミナもすぐ横に座り、浅瀬に腰を下ろす
「本当だ! 気持ちいいね~」
それからミナは、改めてナルに言った
「人間のレベルじゃないって、わたしだけじゃなくない?」
「ナルも最近、急に魔力量が増えたよね」
「わたしには分かるんだよ」
「ナル、人を見る目つきが変わってるもの」
「何にも怖くないって目で見てる」
「わたしの気持ち、今なら少しは分かるんじゃない?」
「まあね」
「わたしも化け物の仲間入りかしら」
「化け物も悪くないよ」
「大切な人が弱くても、守れるもの」
「リンのこと言ってる?」
「そんなこと聞いたら、きっと怒るよ」
「リンって負けず嫌いだもの」
「うん、そうだね」
「かわいいよね」
「そうだね、かわいいね」
すると、二人の上に大きな影が落ちた
二人が振り向くと、レアルが大きなパラソルを砂に差し、日陰を作っていた
レアルは青い短パン型の水着をはいていた
「二人とも、その水着がよく似合っているね」
「とてもかわいいよ」
「あまり陽に当たりすぎるのはよくない」
「女の子なのだから、肌を守らないとね」
二人はレアルを凝視していた
その視線に、レアルが眉をひそめる
「どうしたのかね?」
ナルが叫ぶように言った
「レアル! めっちゃマッチョじゃん!」
「ウエスト細! 何その逆三角形!?」
ミナは驚いた顔で呟いた
「プロフェッサーの顔に……バーバリアンの体がくっついてる」
「鍛えているからね」
「見苦しければ、何か上に羽織るよ」
ナルが反応する
「いや、違うよ! どんどん見せなよ!」
「需要あるよ、それ!」
「絶対リンは好きでしょ!」
「あの人、筋肉大好きだもん!」
そこにリンが、のろのろと歩いてきた
「何を騒いでいるのです」
「荷物をわたくしだけに運ばせて、ずるいですよ」
レアルがリンの方を振り向いた
上半身裸のレアルが視界に入った瞬間、リンは小さな悲鳴を上げた
「きゃっ」
そして、慌てて目をそらす
ナルがにやりと笑った
「リン! どこ見てるのよ」
「レアルに失礼でしょ?」
レアルがすぐに反応した
「すまない、見苦しかったね」
「すぐに何か上に羽織るよ」
「リン! 見苦しいものだって、あなたは言うつもりなの?」
「リンの美学なんて、そんなものだったのかしら!?」
ナルの挑発に、リンが歯ぎしりした
ナル……分かっていてやっていますね
覚えてなさいよ
リンは何事もなかったように背筋を伸ばす
そして、レアルの顔だけに視線を集中させて言った
「見苦しいなんてことはありませんよ」
「こんなテントまで持ってきていたんですか」
「相変わらず、あなたは準備がよいですね」
しかし、レアルの顔を凝視しているうちに、リンの頬はどんどん赤くなっていく
これではだめです
こんなにレアルの顔を凝視していては、同じことではありませんか
リンは慌てて視線を下げた
そこには、レアルの鍛えられた腹筋があった
さらに顔を赤くしたリンは、とうとう下を向いてしまった
ミナが驚いた声を上げる
「リン……顔を赤くして、なんかかわいい」
ナルがほくそ笑む
「やっぱりね」
「リンも実は、男慣れしてないのよ」
「ずっと男を遠ざけてたんだから、そりゃそうよね」
「もっと早く気づくべきだったわ」
レアルがリンを心配して近づいた
「大丈夫か?」
「具合でも悪いのかね?」
下を向いたまま、リンが叫ぶように言った
「そ、それ以上、近づかないでください!」
「ぐ、具合が悪いのです!」
ナルが言った
「えー、リンは具合が悪いの~?」
「レアル~、悪いんだけど、リンをハンモックまで連れていってくれる~?」
「横になれば、きっとよくなるよ~」
レアルはリンに歩み寄り、手を差し出した
「やはり、具合が悪かったのか」
「さあ、手につかまって」
「あちらで横になるといい」
差し出された手を前にして、リンは思わず一歩後ずさる
視線を落としたまま、薄手のパーカーの裾をぎゅっと握った
その手が、かすかに震えている
そんなリンを見て、レアルがさらに心配する
「震えているじゃないか」
「無理をしてはいけないよ」
レアルはリンの返事を待った
だが、リンは視線を落としたまま動けなかった
「失礼するよ」
そう断ってから、レアルはリンの肩に優しく手を置き、ハンモックがあるテントへ連れていく
ミナが言った
「何あれ……」
「リンって、本当は全然経験ないんじゃないの?」
「そのようね」
「いいことを知ったわ」
「ナル……なんか顔が怖いよ」




