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6ー15 空飛ぶアッシー君

リンとミナは大きな荷物を足元に置き、ナルが部屋から出てくるのを待っていた


二人とも白い半袖のワンピースを着て、麦わら帽子を手にしている


「ナル~、まだ~?」


バタバタと慌ただしい音が、ナルの部屋から聞こえてくる


それからすぐに扉が開き、ナルが大きな荷物を抱えて廊下を走ってきた


ナルも二人と同じ服を着ていた


「お待たせ~」


ミナがナルの荷物とリンの荷物を見て言った


「ナルもずいぶん持ってきたね」

「二人の荷物、すごい量じゃない」

「本当にそんなに必要なの? どうやって運ぶのよ」


ナルがにやりとする


「へへ、それは大丈夫なのよね~」


するとリンが言った


「荷物の量は問題ありませんよ」

「運んでくださる方を呼んでありますから」


ミナがリンを見る


「運んでくれる人?」


リンは、ほんの少しだけ視線をそらした


「レアルです」


ナルが横からにやにやしだす


「リンからレアルに声をかけたんだよね~」

「手紙で聞いてるよ~」


「移動手段として協力をお願いしただけです」

「手紙とはなんのことですか?」


「わたし、レアルと文通してるんだよね~」

「それって、誘ったって言うんじゃないの?」


文通と聞いた瞬間、リンの目元がぴくりと動いた


少し間が空く


「言いません」


三人は久しぶりの旅行に出かけようとしていた


行き先は、リンが所有する島


今は8月


北国のセルレア王国にも、夏の暑さが訪れていた


ミナが麦わら帽子をかぶりながら言う


「海、楽しみだな~」

「わたしたち、初めて見るじゃん」


ナルも麦わら帽子をかぶった


「うん! 本当に楽しみだよね~」


「そうですね」

「海も、楽しみの一つではあります」


リンは少しだけ表情を緩めた

けれど、すぐにいつもの調子へ戻る


「ですが、遊びに行くわけではありません」

「わたくしは島で、様々な魔法薬の材料を育てています」

「島の周囲の海にも、魔法薬の材料となる生物が生息しています」

「それらを直に見て学ぶための合宿ですからね」

「勘違いしないように」


「はいはい、分かってるって~」


するとテラスの方から、風を切るような低い音が聞こえてきた


ナルがすぐに駆け出す


「来たんじゃない?」


「ナル、家の中で走ってはいけません」


リンの注意も聞かず、ナルはテラスへ飛び出して空を見上げた


ミナとリンも、そのあとに続く


空には、大きな翼のついた円盤型の船が浮かんでいた


ナルが大きく手を振る


「レアル~! こっち~!」


風に乗って、レアルがふわりとテラスへ降りてきた


「少し約束の時間より早かったかな」


「ちょうどぴったりだよ」

「さすがレアル!」


レアルはナルに手を振り返し、それからリンへ顔を向けた


「招待してくれてありがとう、リン」

「君から頼ってもらえるとは思っていなかったよ」


リンは不機嫌そうに答える


「勘違いしないでください」

「島まで荷物を運ぶのに、あなたの船が適していると判断しただけです」


「理由は何でも構わないさ」

「君に呼んでもらえたことが光栄なのだから」


「余計なことを言わないように」


そのやり取りを見て、ナルが嬉しそうに笑う


「よかったね、レアル」

「リンから呼んでもらえて」


「ナル、あなたも余計なことを言わないでください」


レアルは笑いながら、ナルへ小さな白い紙袋を差し出した


「これは君へのお土産だよ」

「前に君がアイデアを出した、飴の試作品だ」

「ハッカを入れたから清涼感があるよ」


ナルは嬉しそうに受け取った


「わ~、ありがとう~!」

「仕事は大丈夫だったの~? 忙しいんでしょ?」


「君たちのためだ、何を置いても駆けつけるよ」


「さっすがレアル~」

「それでね、この前さ~」


ナルはそのまま、親しげにレアルと話し始めた


その様子を、ミナが驚いた顔で見ている


ミナは隣で頭が痛そうにしているリンへ耳打ちした


「ナルが……おじさんと急接近してるんですけど」

「なにあの笑顔。すごく嬉しそうなんですけど」

「どういうこと? また悪食のせい?」


リンは眉間にしわを寄せた


「いいえ」

「あれは違います」


「え!」

「それじゃ、ナルって年上好きだったの?」

「親子くらい歳が離れてるじゃん」

「いつの間にこんなことになってるのよ」


リンはさらに頭が痛そうに、指で眉間を押さえた


「それも違います」

「あれは父親への憧れのようなものでしょう」


「は?」

「何それ、パパ活ってこと?」

「なんか貰ってたし」


「どこでそんな言葉を覚えたのですか」

「それも違います」


「だったら何なの?」

「何であんなことになってるのよ」


するとレアルは怪訝そうな顔をしていたミナへ歩み寄ってきた


予想外の接近に、ミナがたじろぐ


レアルはミナの前まで来ると、片膝をついた


その姿を見て、ミナはすぐに察した


あ、これ、手の甲に口づけするやつだ


ミナは反射的に手を引っ込めた


「わたし、彼氏いるんで!」

「そういうの結構です!」


そう言われたレアルは、すくっと立ち上がった


「失礼」

「誤解させてしまったね」

「ミナ、君にもきちんと挨拶をしておきたかっただけなのだ」

「許してくれ」

「これはお土産だよ」

「お近づきのしるしに」


レアルは、大きなピンクのリボンがついた水色の箱を差し出した


ミナは不審そうに箱を見つめる


するとナルが言った


「もらっときなよ」

「レアルは、わたしたちに変な下心なんてないわ」


ナルにそう言われ、ミナは戸惑いながら両手で箱を受け取った


ナルが小走りで駆け寄ってくる


「何をもらったの? 開けてみなよ」


「え……」


ミナは遠慮するようにレアルを見た


レアルは笑顔でうなずく


ミナはリボンをほどき、箱を開けた


中には、細かい装飾が施された小箱が入っている


その蓋を開けると、澄んだ音色が鳴り始めた


オルゴールだった


しかも、この曲には覚えがある


「この曲……ユアンの……」


ミナの声が、少しだけやわらかくなった


「ユアン君に曲を提供してもらってね」

「一緒に作ったんだよ」

「我が領地の新しい特産品さ」


ミナの顔が、ゆっくりと笑顔になる


そして、嬉しそうにレアルにお礼を言った


「ありがとう! すごく嬉しい!」


リンの大きなため息が聞こえた


「あなた、外堀から埋めようとしていませんか?」

「わたくしに期待するなと、何度言えば分かるのです」



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