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6ー13 ミナのボーイフレンド

リンは大きなため息をついた


そして、呆れたように言った


「わたくしとしたことが、うかつでしたね」

「招き入れる前に対処するべきでした」

「この男は、もうミナの囚人です」

「誘惑できるのは、ミナだけですね」


リンは、ユアンの姉の記憶をちらりと見る


それから、もう一度残念そうにため息をついた


「さすがに、そんな悪趣味なことはできません」


リンは、ほかの女性を使ってユアンを誘惑することを諦めた


「悪い子ではなさそうですし」

「いじわるしちゃいましたからね」

「少しだけサービスしますか」


すると、ユアンの口元がわずかに笑った


リンはユアンへの干渉を解き、ゆっくりと目を開けた


少し遅れて、ユアンの目にも焦点が戻る


「あれ……? ここは……」

「なんで僕……」


リンは優しく笑った


「実地試験は合格です」

「ミナと仲良くしてくださいね」


すぐには状況を理解できなかったようだが


やがてユアンは勢いよく頭を下げた


「あ、ありがとうございます!」


その直後、キッチンからナルが飛び出してきた


「ちょっと!」

「あんた、今ミナにキスしたでしょ!」

「誓いを破ったわね! いい度胸じゃない!」


ナルがユアンに掴みかかろうとした


すぐにミナも飛び出してきて、ナルを取り押さえた


「なに言ってるのよ!」

「わたしならずっとナルといたじゃん!」


ナルはミナに押さえられながらも、ユアンに食って掛かろうとする


「いいえ! 確かに誓いを破ったわ」

「間違いない!」


リンが二人の間に入った


「それは、わたくしが見せた幻のミナです」

「彼は合格でしたから、ちょっとだけサービスしたんですよ」


ナルが怪訝そうに眉をひそめる


「サービス? ってか合格? なに言ってんのよ」


「他の女性を使って、彼を誘惑することはできませんでした」

「ですから合格です」

「契約が反応したのは事実ですが、今回はわたくしが見せた幻です」

「正式な違反として扱うわけにはいきません」


ナルがユアンを睨みつけて舌打ちをした


リンはユアンへ視線を向ける


「ただし、ミナに誘われたら一瞬で落ちましたね」

「今後は自覚を持って接するように」

「このように、すぐにバレますからね」


ユアンは真っ赤になって、小さく手を上げた


「あの……」

「それって、僕が眠っている時に見た夢とかでも伝わるんでしょうか」


「伝わりますね」

「幻と同じことですから」


ナルの顔が険しくなる


「なによそれ!?」

「なんでそんな心配が真っ先に出てくんのよ」

「あんた、夢の中でミナに何してんのよ!」


「いや、何かをしたというか」

「何かあったら困るというか……」


「あんた、ミナ相手にいやらしい夢でもみてんの?」

「ミナを汚すんじゃないわよ!」


リンがナルを落ち着かせるように言った


「まあまあ」

「男の子なんてそんなものですよ」

「ユアンはそういう夢を見ないようにするんですよ」

「わたくしたちに伝わりますからね」


「そ、そんなことを言われても……」


ナルはユアンを指さした


「あんた、そんなものをわたしに伝えてきてごらんなさい」

「一生、夢から覚めないようにしてやるからね!」


リンも少し真顔になった


「たしかに、睡眠中にそんなものが伝わってくるのは不快ですね」

「但し書きを作りましょう」

「無意識の夢は、誓約の対象外とします」


その時、ミナがはっとした


「あ!」

「もうパスタの茹で時間が過ぎてる!」


そう言って、慌ててキッチンに戻っていく


ナルも、納得いかない表情でユアンを睨みつけながらキッチンへ戻った


リンはユアンに向けて言った


「ミナが手料理をふるまってくれるそうですよ」

「もうすぐできるようです」

「それまでは、お茶でも飲んでいましょう」


リンはユアンの前の空になったカップに、ポットから中身を注いだ


綺麗な朱色の紅茶だった


もう、ただのお湯ではない


ユアンはカップの中を覗き込み、ぱっと笑った


「ありがとうございます!」

「いただきます!」


リンはそんなユアンを見て、少しだけ笑った


「わたくしも甘いですね」

「健全に」

「健全に、ですよ」


リンは、大事なことなので2回言った


「はい!」


ミナがキッチンから、両手に皿を持って出てきた


「できたよ~」


皿の上にはカルボナーラが盛られていた


ミナは少しだけ、この料理に自信がある


ユアンの前と、リンの前に料理を置いた


「すごい! ミナが作ってくれたの?」

「ミナが料理得意なんて知らなかったよ」


ミナは少し照れたように笑う


「えへへ」

「実は、これしか作れないんだけどね」

「リンに教えてもらったのよ」


そう言いながら、ミナはフォークを右手に持った


ユアンの前にあるパスタを刺して、くるくると巻く


そして、フォークをユアンの顔に差し出した


「はい、あーん」

「頑張ったご褒美だよ」


「ええ!?」


ユアンが驚いて後ずさる


少し間を置いて、フォークを突き出すミナの顔が赤くなる


「早く食べてよ!」

「わたしだって恥ずかしいんだからね」


その隙に、リンが横から素早く身を乗り出し、そのフォークにかぶりついた


リンは何事もなかったように元の姿勢へ戻り、もぐもぐしながら言った


「そんなことはさせませんよ」

「節度を持ちなさい」


ミナが頬を膨らませる


「ちょっと! リンのじゃないんだけど!」


リンは淡々と続けた


「言っておきますけど、ユアンは重度のシスコンですからね」

「ミナの最大のライバルは姉ですよ」


ミナの動きが止まる


「は? なに言ってるのよ」

「変なこと言わないでよね」


「事実です」


ユアンは困ったように笑った


「ありがとう、ミナ」

「嬉しいけど、自分で食べるよ」


いつの間にかナルも、自分の分とミナの分の料理を持って席についていた


「ミナ~」

「はい、あーん」

「わたしにも食べさせてよ」


「ナルは自分で食べなさいよ!」


「わたしをないがしろにしないって約束したじゃん!」

「そいつにやるなら、わたしにもやってよ!」


「ナルは約束破ったでしょ!」


「破ってないよ」

「それに、結果うまくいったんだからいいじゃん」


ミナはナルを指さして不満をぶつけた


「あんたは全力で邪魔しかしてなかったじゃない!」


その後は四人で、ミナの作った料理を囲んだ


ユアンは、想像もできなかった個性的な二人と、自然体のミナを見ながら食事をした


ミナのカルボナーラは、びっくりするほど美味しかった


目の前では、ミナとナルがまた言い合っている


リンはそれを呆れたように見ながら、どこか楽しそうに口をはさむ


ユアンはフォークを握ったまま、小さく笑った


この二人が、ミナの家族なんだ


三人の関係は、綺麗なメロディーのようだった


ユアンはミナを横目で見る


ナルやリンといる時のミナは、とても自然に笑っている


この二人は、今の僕よりも、ずっとミナの近くにいる


当たり前のことなのに


少しだけ……悔しいな


ユアンはすぐに頭を振った


彼女の家族に嫉妬するなんて


僕は……悪い奴だ





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