ベロア
俺はすっかりこのスライム娘と共に生活する気でいた。というかその責任が俺にはあるし、俺が面倒を見なければ自己の不安定なこの少女には行く宛ても無いだろう。
「そうだ、名前は?」
俺たちは噴水を中央に備えた広場に腰掛けていた。ピンクのレインコートと長靴を履いた少女は答える。
「ベラ...ロッカ...アリア...」
「だからどれだって...」
「うー!うー!」
「じゃあ、頭文字をとって『ベロア』はどうだ?」
「う〜!うう〜」
どうやら機嫌が悪いようだ。
この名がお気に召さなかったらしい。
自分の名を大切にしているのか、俺に対して「うー!うー!」とずっと唸っている。
「ぐー!ぐー!」
「ぐー?」
今度はしきりに彼女はお腹を摩っている。
どうやらお腹が空いていただけらしい。
名前はベロアでも良さそうだ。
俺はベロアの手を連れて街を歩いた。
「何が食べたい?」
「パルケン!」
困ったな...今度はハッキリと答えているが、お次はパルケンが何かわからないぞ。
ということは、パルケンはこの国独自の料理だろう。
俺は取り敢えず目に入った店を指さして次々とベロアに聞いたが、「う〜!」としか返ってこなかった。
するとベロアの手は急に離れ、どこかに1人で走って行ってしまった。
「あ、おい!待てって!」
ベロアは小さなカフェの様な場所で立ち止まると、ドアを開けて中に入っていってしまった。
俺は後を追ってその店に入店した。
「ベラちゃん、いらっしゃい。今日は1人なんだね。」
「うん!」
俺はベロアに駆け寄った。
「すみません。連れが。」
「おや、ベラちゃん、ボーイフレンドかい?」
「違うよ〜!」
「あ、遠い親戚なんです!」
俺たちは小さな4人がけのテーブル席に座った。
「おじさん!パルケン1つ!」
「...じゃあ、俺も同じもので」
妙だ。
先程からベロアの立ち振る舞いが異常なほど正常だ。ここは、何か思い出の場なのだろうか。
それで過去の記憶を拾って自分を思い出しているのか?
しばらくして提供された料理は、朝食と言うには少し糖分が多すぎた。
どうやらパルケンとはこの世界で言うパンケーキの様な、女の子に人気の食べ物らしい。
俺は皿の上に盛り付けられたベージュの生地にナイフを入れ、口に運んだ。
その生地はクレープが何層にも重なっており、中のクリームが滑らかな甘さを醸し出していた。
底部は薄いスポンジで構成されており、クレープとの食感の違いが良い舌触りになっていた。
小さなホールケーキ状のミルクレープというのが1番近い表現であろうが、中のクリームには不思議な清涼感があり、恐らくミントの様な香辛料が少量入っているのではないだろうか。
他にも後味にシナモンの様な香ばしさを感じる。クリームは色々と混ぜ物が入っているようだ。
俺とベロアは食事を終えると、特に何事もなく退店した。
ベロアの様子を見ると、先程までの人間らしさは消えており、またよくわからない言葉を発していた。




