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ユーカリ --8--

喫茶店には誰もいなかった。

暗く人の気配のない店内。私が少し動いただけで周りのホコリは一斉に飛び上がる。掃除もまともにやっていないみたいだった。

あの日せんぱいが座っていたテーブルに腰をおろす。あの日のぬくもりがそのままある感覚が私の体を包み込む。

せんぱい………

「せんぱい……最後まで私を……」

もう私にはどうする事も出来ない。私だけじゃない。あの月妃さんですら、もう手に負えない状況まで進行してしまった。

「どうしてだろうね。どうして………」

せんぱいの記憶は………最後まで戻らなかったのかな。

ずっとそばにいたのが私だって気がついていたのかな。


でも、それを確認することもわたし達には出来ない。



「糸井はな……東京で事故に遭ったんだ。幸いにして命は問題なかった。その代わりにあいつは最近の記憶の一部を無くしてしまったらしい。その一つが両親の話だ。彼の両親はもういない。今から四年ほど前に亡くなっていたんだよ、私が調べてたどり着いた先は一般家庭ではなく墓地だったよ。」

テーブルには私の日記が全てとせんぱいの手帳が二冊丁寧に片付けられ、私とゆずかちゃんとゆずかちゃんのお母さんは月妃さんの話を黙って聞いている。

私寝不足でせんぱいの故郷に向かったあの日、ふらふらな足とホームに吹き抜ける風で軌道内に落ちそうになった時助けてもらったあの日。わたしはそれが直ぐにせんぱいだとわかった。

けれどもせんぱいは私が自殺しようとしてたと思い込んで、とにかく着いて来いとこの喫茶店に連れてこられたのだ。

良く分からない状況とせんぱいの変化に混乱していた私はどうしていいか分からなくてずっと泣いていた気がする。よくわからない言葉を発して迷惑かけてしまったと。

それからずっと月妃さんは私の話を聞いてくれた。そして、せんぱいの記憶を取り戻す手助けをしてくれた。だけど……

「伊織の執着心があそこまでだとは思わなかった。まさか糸井を……彼は親友だと思っていた反面、まなりを奪われたと思っていたらしい。まだ俺のまなりだと」

「どうして伊織に声をかけたのですか!」

「私からではないのだよ、あちらから私に近づいてきた。初めは用心していたが、糸井の親友だと分かってからは協力を……」

「あの人は普通じゃない………」

「ごめん……」

「私はせんぱいにとって永遠に『うたる』なんですよね……」

「まなりさん……」

私には何もできない。

この先どんな奇跡があったとしてもそれは幻想か見間違いか他人。せんぱいはもう戻らない。



「まなり、手紙は読んだの?」

「はい……あの汚い字はせんぱいの……」

薄暗い店内にここの主がどこからか現れた。彼女は月の光を背にして全身影で分からない。けれどそれがオーナーである月妃さんだってことは声だけでわかる。

「なら、こっちも読んだの?」

月明かりに照らされた白い便箋。見覚えはあるけれど全く新しい真っ白な便箋のようで、折り目や開け口が見当たらない。

「これは?」

「手帳に挟まっていた。多分君あてだろうから読んでみてくれ」

手渡された真っ白な便箋。丁寧に中身を取り出すと汚い字が歪んでいて、多分私じゃないとまともに読めない字だ。

「もしも、あの空がつながっていたら、それは君に向けた最後の言葉かもね」


一滴一滴、その手紙は滲み濡れていく。

震える紙はシワを増やして、綺麗だったそれは……あっという間に汚れてしまった。

こんなのが最後なら、私は一生未練を持ったまま生きてしまうよ……祐莉くん……




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