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ユーカリ --7--

「まなりさん………」

「えっ………あっ……」

確かに彼は待っていた。灯り一つ無い真っ暗な店内で一人、彼はずっと待っていたのだろう。体は冷えきっていて冷たく、まるで……死んだように……

それ以上にわたし達はこの店内の生臭さが耐えられなかった。鼻をつまんでも、その香りが手や足、顔や………体全体にこびり付くのが生理的に、感覚的に拒否反応を起こしていた。

「まなり……ゆずかの家に……」

いつものように透き通った声の月妃さんは透き通った氷の様に鋭く、圧倒的な圧力でわたし達を外へ出そうとしていた。

「でも、いと……せんぱいを起こさないと。臭いよって言わないと」

夜目が効いてきた。店内で寝ているせんぱいの周りには無数のノートが散りばめられている。どことなく見覚えのあるノートに私は無意識に拾いに……

「いくな……」

私の襟を掴み、どこから出しているのか分らない程の力で私を引っ張り出して外へと追い出す。

「どうして!?いいじゃない!せんぱーい!!」

「ゆすが!……連れて行って……」

「あっ……はい……」

私の左手を思い切り引っ張り、私をせんぱいから離そうとする。どうして?

「ウチの荷物整理手伝って?ね?」

「うー……」



それから数日はゆずかちゃんのおうちで暮らすことになった。必要最小限の荷物は月妃さんが持ってきてくれたおかげでどうにか不便もないし楽しく暮らせている。

けど、せんぱいはどうしてか私の元へ来ない。遊びにも。だからゆずかちゃんにいろいろ聞いてみるのだけどわからないとしか言わなかった。

「月妃さんも最近来ないねー」

「そう……ですね……」

買ってきた落書き帳にイラストらしき落書きの線をだらだらと描いている。とくに意味もなく思ったままを図として表していた気がする。

私は脳内で感じたことを言葉や文字に変換することが結構苦手だった。抽象的?なんて言えばいいのかな。文字などに色が見えたり、その色を伝えてみたり、でもそんなことわかる人はこの世の中には存在しない訳で……形にできる文字ですらこんな有様。自分の頭の中身を言葉で伝えるなんて難しすぎた。

「……」

「……」

「糸井さん……多分思い出したんですよ……」

ずっと窓の外をどこかへ、何を見るわけでもなく眺めているゆずかちゃん。その言葉に思わず鉛筆の動きを止めてしまった。

「えっ……思い出したって……」

「……これ……」

白い便箋?宛名は………

「……ノートと一緒に挟まっていたそうです。日記メモに……」

「日記……メモ?」

「えっと……あの散らばってた……」

真っ暗な店内に散らばっていたノート。あれは日記帳だったのね。だれの?

「……」

「せんぱいの!?ねえ!」

「違います!違うんです………」

便箋の中身をもう一度確認した。私宛に送られたもので、つい最近送られた手紙ではなかった。所々シワが目立ち、白いけど日焼けの跡か色移りか、茶色が滲んでいる。

――まなり、僕は君を愛していた。けれどそれは一方的な思いで君の幸せではなかったと思う。だから、せめて君が幸せで居られるように僕は伊織とまなりを影から支えて居たい。君と関わる事が出来るなら、僕は今が幸せです。またあの喫茶店で……三人で、笑いながら過ごせるように、あの喫茶店で待っています。――


所々字は掠れ、文字は何かで滲んでぼやけていた。

丁寧に折りたたまれたその手紙には糸井祐莉と女の子のような名前が刻まれていた。

せんぱいの名前。知っていたけど初めて聞いた感覚。

懐かしさと初々しさと………


「封が切られたの、数日前のことだって……それまでずっと開かれず、ノートの間に挟まってたの」

「そのノートはだれの?」


「まなりさんの日記メモだよ………」



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