ユーカリ --4--
二子玉川とは、よく空を眺めに来たことがあった。夜はどうしても街が明るいおかげで空の光は全くと言って良いほどに薄れている。
茉誠とは……伊織と付き合い始めてもどうしてか僕に関わろうとする様で、いかにして彼女たちを二人きりにさせよてやろうかなんて考えていた。それなのに僕の意図とは全くと言って良いほどに正反対の結果を生み出している。
例えばだ。休日に二人が出かけると言う話がある。それは非常に良いことだし僕にはなんの関係もない。けれど二人はどうしてか僕を巻き込んで三人で出掛けようとしている。事実、何回も二人に呼ばれた事があり、その都度断っていた。
僕が恵比寿駅で降りなくなったのも彼らからなるべく遠ざかる為だった。
「はぁ……」
心と体のモヤモヤは限界に達していた。頭の中には忘れていた……思い出の断片が次々とパズルのピースの如くはめ込まれていく。正しいか、正しくないかなんて脳内ではどうでも良いらしく、自分の都合の良い場所にピースはぴったりとはまっている気がした。
手持ちカバンの底をガサガサと混ぜながら長方形の紙で出来た箱を取り出す。細長い円柱の白い紙を一本取り出し一緒に入っていたライターで先っぽを炙る。紙巻でも僕はどうしてかなるべく急激に熱さない様に火種を付けるくせが出来上がっていた。
ここ最近は精神的に安定していたので必要のない物だったが、やはり東京だ、僕の心理状況をいつも狂わせてくれる。
伊織の事もそうだ。あいつは何を考えているのか、同じクラスの別の女に手を出したそうだ。ホテルで夜を明かし、そこで起こった事を何故か相談するように僕に話し出すのだから、僕は何も言えない。
それがきっかけで僕の重い腰は上げざる負えなかった。
「お前は何がしたかった」
僕はこの時点で伊織が『精神障害者』という事を武器に女を騙して、手ごまにして、使い捨てているのではないかと考えるようになっていた。
正直なところ真相はわからない。その当時は分からなかったけど、ここ最近のあいつを見ると不自然な感覚に僕は陥っていた。
茉誠を失った割に精神状態が安定していることだ
「ふぅ……」
白い息が空気と混ざり合い溶けていく。
ただのニコチン摂取とは別で、僕はただ煙を吹かしているこの時間が好きだったりする。タバコはある意味でアロマと何ら代わりはないのだから。
モヤモヤのその先は何もない。ただ溶けていくだけだから。
半分も吸っていないタバコを揉み消して僕はまた駅へと向かう。
渋谷、新宿を経由して向かうは高円寺だ。
ピースは埋まれど、どれもなんの意味を持たない。
すべてが一つになって始めて意味を持つ。
けど、僕にそれらのピースを一つ一つ埋める時間は残されていない。そんな気がした。
渋谷に原宿。池袋に新宿に………沢山の思い出がどうしてこんな小さな街に押し込められているのだろう。
全てを見つけるには、それだけ同じ時間が必要になる。そんな時間は僕にはないし、あの人はその時間待っていることはできないと思う。だからこの方法は最後の手段。だから僕がここへ訪れるのは最後にと言われたのだと思う。
高円寺駅の改札を過ぎると、その人はやっぱり僕を待っていた。




