ローズマリー --10--
群馬県にある湖で有名所は榛名湖に赤城大沼、それに神流湖。ほかには奥利根湖や赤谷湖に心霊スポットでも有名な園原湖。上州湯ノ湖なんて湖もある。本体工事が始まったあの八ッ場ダムだってある。
そんな数多くの湖と猪苗代湖を比べてしまったら大変。丸くて向こう岸がかすれて見えるほどの大きさに僕は言葉に表せない感情がどこからか湧き出てきた。
琵琶湖とか海なんじゃないのか?
そんな猪苗代湖は湖水浴場がある。川遊びでしか自然の淡水で泳いだことのない僕には驚いた。
いや確かに神流湖や園原湖はよく人が飛んでるけど……意味後違うか。
「湖なのに砂浜がこんなに広いのは新鮮だな」
「そう?浜通りの人は知らないけど会津の人とか中通りで近い人はこっちに来るんじゃないかな?私はよく泳いだよ?」
そう言って波打ち際まで走り、波と遊ぶ唄瑠は昔を思い出すかのようにはしゃいでいる。
福島県は北海道、岩手に続いて第三位の面積を持つ。群馬県から福島まで近いよね?ってのは確かに近いけど場所によっては三時間以上掛かる。それは県民ですら同じで福島市からいわき市なんて何時間架かるのだろうか……
「糸井さんー!これっ!」
はしゃぎながらどんどんと場所を移動する唄瑠の後を追いかける様に快晴の空と心地よい波の音を聞いていた。何事かと思い唄瑠の側まで行くと、手に何か乗せている。
「えびさんかな?川エビ?」
「ハサミ?までが長いから……手長エビ?でもまだ小さいかな……」
「食べれるかな……」
「まだ小さいから帰してあげな?」
唄瑠は名残惜しそうに冷たい水の中にエビを帰した。ちょうど小川からの流れ込みで波の影響もそこまで受けないのか結構な数のエビが群れている。手前は浅めで奥は急に深くなっている。それでも透明度が良いのか底まで良く見える。
「あそこに魚も居るよ。なんだろう……」
「ドジョウみたいなのも居るね」
よっぽどきれいな水なのか、色んな魚があちらこちらで泳いでいるのが見えた。
砂浜を後に売店を見よう!なんて話になった。お土産を買うなら今日しか無いからだ。
とはいえ、大体おみやげ屋さんの商品は地元のもの以外は何処にでもある様な……とりあえずお土産!って小物が一杯ある。たぶん小さい子が興味本位で握ってしまい運悪く会計の時まで放さなかったから仕方ない買ってあげる。そんな戦略が感じられた。
「福島って感じのお土産だけど……クッキーなんかはあんまり変わらないよね」
「お土産なんてそんなもんだろ?旅行だと金銭感覚鈍るから後々後悔しない様に買わないとだな」
とはいっても、物珍しいものはない。地元の果物で作ったジャムなんか良さそうだけど……悩ましい……
「と言うかさ、お土産買って誰に渡すよ」
「んーっ……町田さん達?」
「あぁ……クッキーでいいか……」
あの二人、洋菓子大好きなんだとか。月妃さんがそんな話をボソッと呟いていた事を思い出した。自宅では煎餅に煎茶を嗜んでいそうだけどね……
それから色々と見て回り、それなりの量と福島アピール出来そうなクッキーを買った。でいいか……とか言いつつ、それなりに良いお土産を買ったつもりだ。不味いなんて言わせない。
「お土産はこれでいいかな?ほかに何かあるか?」
僕が店員さんからお土産の入った袋を受け取りさっきまでそこにいた唄瑠に声をかける。そこには唄瑠は居なく、自販機の並んでいる近くの小さなソフトクリーム屋さんで僕を見ている。
「ワッフルコーンだよ!美味しいよ!」
「食べたいのね……」
僕が好きなものを選んでいいよ。なんて言うと真っ先にチョコレートを選んでいた。僕も適当にいちごとミルクを頼む。
ワッフルコーンなら食べられるのか、僕がお金を支払ったと同時に小さいながらも大きな口で一口。口の中で広がる甘さに脳が痺れたのか、幸せそうな顔の唄瑠。
「ワッフルコーンはやっぱり美味しいね」
「普通のコーンは好きじゃないの?」
「うん!」
一口と木陰を探しながらソフトクリームを食べる。時期が過ぎたのか廃れたのか湖の家と思わしき場所は何だか廃墟感があった。それは海の家も同じなのかも。
ちょうど木陰になっているベンチを見つけ、唄瑠と一緒に座る。ミシミシっと木のベンチが泣いた。
「うたるさ……東京に行かないか?」
「えっ?」
「いや……うたるが嫌なら……たださ、自分の過去とちゃんと向き合わないといけない時って来ると思うんだ。それが何時か分からないけど……ずっと逃げていてはダメだって……」
「そうだよね……私も逃げてばかり……」
中途半端に溶けたソフトクリームとワッフルコーンを一緒に口に押し込む。何だか食感がふにゃふにゃだった。
「東京に……行ってみようと思うんだ……」
「……いつ?」
「今から……」
「今からって……旅行は?」
「……」
「行くにしても旅行終ってからにしよう?そしたら私も行くからさ!」
「……今からじゃ……だめか?」
「……うん……」
このまま旅行を続けて……群馬に戻ったら後ろ髪を引かれそうだ……機会がないだとか……お金がないだとか……でも今なら何故か行けそうな気がする。移動手段もお金もあるし……月妃さんの事もあるから……
僕は今しかいけない……何となくそんな感じがする……
「なら……僕は今から一人で行くよ」
天気のいい快晴の空。
「待って!どうして今からなの!?」
「今行かないと……もう行く機会がない気がするから」
「旅行の後でも行け……」
「ごめんね………」
雲の流れはゆったりで、でも僕の流れはまだ……動いてもいない。
時間と言う貯金が僕にはどれ位あって、あとどの位で使い切るのか分からない。
だからこそ、僕の時間を動かさないといけないんだと。止まった時間を……




