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ローズマリー --9--

携帯のアラームが車内に鳴り響く。座席を限界まで倒して横になって寝ていた訳で、腰に違和感がある。

アラームを止めようと携帯をポケットから探り出すと画面には唄瑠の文字が映し出されている。

「はい?」

『どこにいるの!?』

「猪苗代湖だけど……」

『えぇ!?』

月妃さんに連れて行かれた事、今何処に居るか等を簡単に伝えると陽向さんの運転で今すぐ向かうと言い残して通話を切られた。

東京か……懐かしいけど嫌な思いでも一杯あるんだよなぁ……

行って来いと言われたけど……なんか色々思い出してしまいそうで怖い。思い出として残っていないのだから思い出さなくてもいい気がするけど……

渋谷に原宿、乗り換えで必ず新宿にも行ったし学校は恵比寿だった。池袋なんかにも遊びに行ったことも合ったし一度だけ亀戸に行った事もある。秋葉原は頻繁には行かなかった。

あの当時って僕は何を考えてなんで生きていたの……ちゃんと考えると答えが見つからない。

「ふぁぁ……」

シートだとどうしても眠りが浅くなってしまう。福島市からここまでどの位か分からないけどあと二時間は掛かるかな……もう一度瞼を閉じて今後を考えてみた……



お昼前にみんなが到着する。唄瑠が外へ出ると陽向さんとゆずかちゃんはそのまま何処かへ行ってしまった。

コンビニ袋を吊るして助手席に乗り込みお昼ごはんと言っておにぎりを何個か手渡される。

「月妃さんも一緒に来たかったなら言えば良かったのにね」

「だよなぁ……まあ違う用事があったらしいけど……」

包装を破いて明太子おにぎりを頬張る。明太子はおにぎりで一番好みだ。唄瑠は僕の好みを知っているのかな?

「あのさ……」

「ん?」

「唄瑠って……お兄さんとか居る?」

雲越……伊織が唄瑠の兄なのかもしれない。でも伊織と唄瑠ってあんまり似ていないからたまたま同じなのかもしれない。けど気になる。

「え?……んーとお兄ちゃん二人いるよ?本当はもっと居たはずだけど……」

「お兄さんの名前って……」

「かっちゃんとゆぅちゃんだよ?」

かっちゃん……カツジとかその辺かな?ゆぅちゃんはユウジとかその辺?

「そっか……なるほど」

「急にどうしたの?」

「知り合いに雲越伊織って奴が居てさ。親戚かなにかかなーって思って」

やっぱり関係ないか……そもそも伊織に妹が居るなんて聞いたことも無いし。親の事とかこれまでの事を考える居ない方が普通だ。

「伊織……」

「人違いだったみたいだよ。気にしないで」

けど、伊織の名前を聞いた唄瑠はなんだか考え始めた。聞いたことがあるのだろうか。

「うたる?」

「……えっ?」

ぼーっと何処を見るわけでもなくただ真っすぐに……

「どうかしたの?」

「……」

「……」

どうしよう……沈黙が辛い。

「糸井さんは……」

「うん?」

「糸井さんは東京では何を?」

「東京?」

唄瑠は僕の顔から目をそむける様に猪苗代湖の湖畔を眺める。まだ何か悩んでいるような気がする。

「専門学校に通いなからバイトしてたよ。まぁ……卒業する前に群馬に帰ってきたけど……夢を追いかけて来た東京ではだけど僕にはあの街で暮らすのは酷だったよ」

「そうですか……私もあの街ではもう……辛いことしかありません。でも最近思うんです。なにか幸せだった思い出があった気がするなって。どんな事か分からないんですけど……でも糸井さんと居ると何だか……不思議とその時の感覚と言うか……」

「……」

僕もそこまで鮮明に覚えている訳じゃない。嫌なことがあってそれを忘れるために……過去から目を背けるために群馬に戻ってきたのだから……辛いことをすぐさま忘れて逃げてばかりだったのかもしれない。

「糸井さんはなにかありませんか?東京で幸せだったとか楽しかった事とか」

「あんまりないかな……強いて言えば、好きだった子とほぼ毎日一緒に帰った事くらいかな……まあその子と僕の友達がくっついて……」

「あっ……」

「気にしないで!!二人をくっつけたのは僕だから!」

「そうなんですか……」

申し訳なさそうに唄瑠は俯いてしまった。あの時の僕は自分を出さず、相手の幸せだけを考えていた気がする。だからこそくっつけてしまったのだと……

「うたるは東京に行きたいと思う?」

「住むってことですか?」

「いや……思い出探しみたいな?」

「……いい思い出だけなら……でもそんな思い出って少ないと思う。嫌な思いでばかりだったからこそ……あんな事を……」

あんな事……ホームからの飛び降りか……

「後々調べたんです。電車に轢かれても……踏切等ならまだしも駅だと即死は珍しいとか。悶え苦しみながら死んでしまうって……糸井さんが手を出してくれなかったら私……」

「生きてて良かったか?」

「はい……今のところは……」

それでもやっぱり俯いている。あの時の僕はどうしていたら良かったのか……今でも考える時があるから……

おにぎりの包み紙をクシャクシャにまとめてコンビニ袋に詰め込む。ゴミだけまとめたら口を固く閉じ、僕は外へ出る。

重たい空気で迫っ苦しい車内から飛び出て大きく背伸び。今日もいい天気。


「ちょっと散歩しよう。うたる」



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