ローズマリー --7--
―あれっ……ここは……見慣れた町だけど……―
すれ違う人も、場所も、何もかもその時とは違うけど見たことのある街。渋谷か恵比寿のどちらかだろうけど……昔はよく歩いていた気がする。
賑やかな筈なのに音も空気の流れも匂いも……何も感じない。ここは何処なのだろう?
―唄瑠に僕に……伊織?なんで伊織が?―
僕の前を二人は手をつないで歩いている。僕は後を追いかけるように着いて行く。二人はカップルみたいだ。
―どうして……―
どうして僕は二人のあとを?どうして二人は親しげに?なんで唄瑠は伊織のことを?やっぱり兄妹?それとも夫婦?でもこの雰囲気は僕の学生時代だと思う。あの緑のカバンにあの靴………
分からない。どうして……
次第に二人は人混みに消えていく。僕は追いかけようともせず、一人駅に向かった……
駅までの足取りは重くなかった。というより呆れた感じでさっさと部屋に帰ってしまおうとしている。
雲越………どういう事なんだろう……
「………ぐっぁぁ!?」
「えっ!?」
ふわふわの布団から飛び起き、勢い余って床に落ちてしまう。えっとえっと………
「糸井さん大丈夫ですか?」
「んっ?えっ?」
テレビのなんともないコマーシャルの音と霞んだ目の先に顔らしき影が見える。ちょっと良く見えない……
左手の甲でまぶたを擦り、ゴミやらなんやらを拭き取ると唄瑠が心配そうな顔でこちらを見ていた。ちょっと困っていたのかな?
「えっと……うたる?」
「大丈夫ですか?すごい声出して飛んでましたよ?」
すごい声?寝言か何か言っていたのかな?言った覚えは全くないけど……
「大丈夫……だと思うけど……なんでうたるがこの部屋に?」
「え?だってこっちに泊めてくれるって……」
僕はそんなことを言っていたのか……寝言とは怖い。
外はオレンジと群青の空。だいぶ長い間寝ていた気がするけれど、時間的に二時間程しか進んでいない。
ふわっとした布団を直しベッドに座る。テレビでは九州の味噌に関する取材やら試食やらを垂れ流している。進行は見覚えの無い二人組で売れない芸人だろうか。
「さっき陽向さんから電話があったよー。お夕飯どうする?って」
「あぁ……駅周辺に色々あるから散策ついでに何処か入ろうか?」
「そうだねー、この中華とか食べたいなぁ」
雑誌には大量の付箋が飛び出ている。律儀にも何のページか簡単にメモ書きされている。ここって唄瑠の地元じゃなかったか?
見開き一杯に書かれた記事。どうやらかなり有名なお店らしく貼ってある付箋も大きい。
「福島の……餃子?」
「うん!なんか美味しそうじゃない?」
円盤餃子?というらしい。福島名物と太く赤い時で書いてある。餃子って栃木のイメージが強いけど隣の県だからありえない話でもないかな。群馬は小麦文化だけど同じような料理がある県は大体小麦文化な気がする。
「とりあえず陽向さんと合流してから決めよう」
「はーいっ」
パタンと雑誌を閉じるとハンドバッグに雑誌を詰め込む。明らかにカバンが小さい。
財布と携帯、カードキーを持ち唄瑠と部屋を出る。
ロビーまで僕は唄瑠を横目に夢のことをずっと考えていた。鮮明で懐かしい感覚。僕の中の隠れた記憶なのか……
自分の中で消化しようと、唄瑠に声をかけられずに居た。




