ローズマリー --5--
「遅くなって悪かった。待たせてしまっただろう?」
「いえ、そんなに待っていませんでしたよ?それに……先輩と会えましたし」
「先輩?」
伊織はどこか遠くを見ながら小さく……
「俺より年下だけど……先輩です」
福島県文化センターを通り過ぎ、奥州街道を北に進む。
「それで、お話とは?」
何処へ連れて行かれるのだろう。そんな不安があるのだろうか、早めに話を終わらせて帰りたいみたいだが、相手が悪かったようだね伊織。
「そんな焦ることはない。それよりも私、名乗っていなかったね」
交通量の多い大通りに入ると結構混み合ってきた。時間も時間だろうか、じっくりと話しを聞くことができるので私は歓迎だ。
「私は緑埜月妃だ。君の“親友”の知り合いだ……」
「月妃さん……」
運送用のトラックに観光用のバス、他県ナンバーの旅行客で混雑する奥州街道。群馬の交通事情と比べるとさほど大変ではないが、じっくりと話を聞くにはここでは……
「伊織くん。お腹は空いているか?」
「あっ、お昼は食べました」
「ふむ……私は群馬からナニも食べていなくてな。その辺でお茶でもどうだ?」
「はぁ……俺……あんまり時間が」
「分かった。すぐ済ませよう」
松川を渡り終えたすぐ先のファミレスに車を止め、私と伊織は中へ入った……
午後三時、だいぶ良い時間になったので今日の宿へ行く事になった。とはいえ高いホテルや旅館ではなく庶民には優しい値段だと月妃さんは言っていた。
部屋割りは男女でちゃんと振り分けられているようで、二部屋用意されている。
「それじゃあ僕は……」
流石に長い間運転は疲れた。落ち着いた場所で早く一息着きたい。女性陣とは違ってそんなに荷物もないから急ぎ足で部屋に直行する。
それにしてもこのプラン……前にも同じルートで回った気がしてきた。羽黒神社も風景というか空気がなんだか初めてって気分じゃない。子供の時に来たことが?僕にはそんな記憶はないけど……
部屋は電子ロックでカードキーを差し込むと解除されて空けてもう一度閉めると自動でロックされる様だ。カードキーはいつでも持ち歩いていないと忘れてしまうな。
狭い通路の先には必要もなくベッドが二つ。窓辺には小さな丸テーブルと冷蔵庫に電子レンジ。電子ケトルまで置いてあった。
一人用のソファーに荷物を投げ捨てて手前の布団にダイブ。ふわっと僕の体重を吸収して体を布団に預ける。
「唄瑠に…伊織……」
苗字は同じで名前は違う。となると兄妹になるのか?それにしては顔も性格も全く似ていないしそれ以前に伊織に妹が居たなんて話は一度も聞いたことがない。
僕が知っている事は……伊織が生まれたのは伊織の両親が中学生の時。伊織の母親は他界していて、父親は失踪。親戚を渡り歩いて今の暮らしがあるという事。それに……
「対人恐怖症の視線恐怖症かぁ」
正直疑っている所はある。渋谷を平気で歩いていた事も合ったし、そもそも学校は恵比寿。あんなゴミみたいに人が群れている所、僕は苦手で好んでメインストリートには行かなかった。
それに………
「糸井さんいる?」
唄瑠の声。何か用事でもあったのかな?
柔らかい羽毛から重い体を無理やり起こし、だるそうな足に鞭打ちながら覗き穴を確認。唄瑠が一人で立っている。
「何か用事?」
「えっと……うん……」
僕がロックを解除して扉を開けるとなんだかそわそわした様子の唄瑠が一人立っていた。




