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第51話 突然の来訪者


 魔王城の廊下➖➖

 カヅチと四天王たちは、騒がしく歩いていた。


「おいっ!氷女。ちょっと離れて歩けよ!寒い!」

 サルヴェナが隣を歩くリゼルカに文句を言う。

 しかし、リゼルカはサルヴェナに顔すら向けなかった。


「貴女が離れて歩いたらどうですか?真っ黒な服で辛気臭い……」

「はぁ?お前、舐めちゃってんの?やんの?」

「はぁ……だから私は集まりたくないんですよ。変なのばっかりだから……」

「はっ!?変なの?私のこと言ってんのか?ほら、やっぱり舐めちゃってんじゃん!?やるか!?おんっ!?」


 サルヴェナがリゼルカに詰め寄る。

 リゼルカは面倒くさそうにため息をついた。


「あははっ!ほんと、お前らって仲悪いよな!仲良くしろって!」

 見かねたイグニートが、口を挟んだ次の瞬間。

「「うるさいっ!ビリ!」」

「ぬぉぉぉぉ!何でそこはピッタリ合うんだよっ!!」

 イグニートが頭を抱えて叫ぶ。


 その横では、ヘルデスがゴンタの頭を撫でていた。

「あぁ、うるさい……」とぽつりと呟く。

 三つの頭を持つ巨大なブルドッグは、主人の声など気にも留めず、のんびりと尻尾を振っていた。


「まぁまぁ、仲良くしましょうよ……。ほら、今日はお話ししに来たんでしょ?」

 カヅチが苦笑しながら、四天王たちの間に割って入る。

 その穏やかな笑顔につられたのか、サルヴェナたちも少しずつ表情を緩めた。


「まぁ、そうだな……」

「ふふ、カヅチさんがそう言うなら……」

 いつの間にか、全員がニコニコと談笑を始めていた。


 その瞬間、廊下の奥からぞくりとするような殺気が走った。

「……お前ら、妾はずっと部屋で待ってるのじゃぞ……。早く会議室に入れっ!!」

 廊下に低い声が響き、怒声が廊下を揺らした。


「あと今回、誰がビリじゃっ!?」

「はいっ!自分でありますっ!!」

 イグニートが反射的に手を挙げた。

 バチィィィンッ!!廊下に乾いた音が響く。

 近づきざまに放たれたル・セポネのビンタが、イグニートの頬を直撃した。頬には、くっきりと手形が浮かんでいる。


「ほら、早よせいっ!」

 セポネは何事もなかったかのように踵を返し、会議室へ向かっていった。

 残されたカヅチや四天王たちは、ゆっくりとイグニートに視線を向ける。その目には、哀れみが浮かんでいた。

 イグニートは鼻血を垂らしながら、頬を押さえた。

「えっぐぅ…罰ゲームってこれ……いてぇ……」

 その問いには誰も答えてくれなかった。


◇◇◇


 魔王城会議室➖➖

 それぞれが席に着いていたが、室内はまだ騒がしかった。談笑する者、隣の相手に文句を言う者、止まらない鼻血を拭きながらすでに食事を始めている者。

 次々と運ばれてくる飲み物や料理が、テーブルを埋めていく。

 その光景を眺めながら、ル・セポネの隣に立つカヅチが尋ねた。

「いっつもこんな感じなんですか?」

「あははっ!そうじゃ!だからこいつらを呼びたくないのじゃ……」

 

 セポネは面倒くさそうに笑った。

 でも、その笑顔はどこか優しかった。


 やがてセポネは席から立ち上がり、両手を腰に当てた。

「そろそろ話を始める!お前ら静かにせぇい!!」

 その一声で、会議室がピタリと静まり返った。

 セポネは満足げに頷く。そして、カヅチにだけ聞こえるように声を潜めた。

「ふふふ、カヅチどうじゃ?妾、魔王っぽいじゃろ?」

「……いや、実際魔王じゃないですか……」


 カヅチは苦笑いを浮かべた。

 すると、ヘルデスがテーブルに肘をつき、カヅチを指差した。


「あのさ、そいつもこの話に参加するの?」

「ん?あぁ、そうじゃが?何か問題あるか?」

 セポネが首を傾げる。ヘルデスは笑顔のまま、あっさりと言った。

「あるよ!だって人間の仲間かもしれないじゃん?もしそうだったら作戦が全部筒抜けになるよ……。僕は無駄死にはごめんだね。そいつがいるなら僕は帰るよ……」


 会議室の空気が、わずかに変わった。

「おいっ!ヘルデス!わがまま言うなよ!こいつは俺の東の城も直してくれたんだ……リゼルカだって、サルヴェナだって助けてくれてる…。“仲間”だろ?」

 

 イグニートが声を上げる。

 リゼルカもサルヴェナも、黙って頷いた。

 だが、ヘルデスは気にした様子もなかった。


「あははっ!助けてもらった?バカじゃないの?何でそんな簡単に人間を信用できるの?もしかしたら最初からそいつの罠かもしれないじゃん?それに城が壊されたり殺されたりなんて……君たちが弱すぎるからだしね……」


 無邪気な笑い声が響く。

 サルヴェナの眉がぴくりと動き、握られた拳が小さく震える。「てめぇ……」

 立ち上がろうとした、その瞬間。

 サルヴェナよりも半歩早く、羅刹が動いた。

「ムカついた…その四天王の椅子貰うぞ!!」

 大剣が唸りを上げ、ヘルデスへと振るわれる。


 だが、ギィィィンッ!!

 黒い魔法の鞭が瞬時に振るわれ、大剣を弾き飛ばした。巨大な剣が宙を舞い、会議室の天井近くまで跳ね上がる。羅刹が目を見開いた。

 ヘルデスは椅子に座ったまま、口元を吊り上げる。

「あははっ!“四天王の椅子”はそんなに甘くないよ…。次はこのテーブルに“君の首”でも並べる?あははっ!」

「てめぇ!羅刹になにやってんだっ!!調子乗ってんなよっ!!ガキがっ!!」

 サルヴェナの両手に、黒い魔法の塊が生まれた。

 次の瞬間、躊躇なくヘルデスへと放たれる。


 しかし、パクリ、ムシャムシャ、ゴックン。

 三つ首のゴンタが、飛んできた魔法をあっさりと食べてしまった。まるで、お気に入りのおやつでも口にしたかのように。

「よかったなぁ、ゴンタ。お姉ちゃんにおやつ貰えて…お腹空いてもんなぁ……」

 ヘルデスは不気味な笑みを浮かべ、ゴンタの頭を撫でた。

「んっ?もっと食いたいか?そっかぁ〜?それじゃぁ、ここにいる全員、食べちゃおうか?」

 不気味な笑顔のまま、ヘルデスは会議室を見渡した。

 誰も動かなかった。先ほどまで騒がしかった室内に、重い沈黙が落ちる。


 ル・セポネがゆっくりと口を開いた。

「……分かった。もうやめろ……」

 その声には、いつもの明るさがなかった。

 そして、カヅチに何かを言おうと振り返った、その時…


「あ、魔王様。俺は外の掃除が残ってるから……外の掃除、行ってきますね☆」

 カヅチはいつもと変わらない調子で言った。

 セポネは一瞬、言葉を失う。

 しかし、カヅチは軽く頭を下げると、そのまま会議室を出ていった。

 閉じた扉を、セポネはしばらく見つめていた。


◇◇◇


 魔王城の外➖➖

 カヅチは箒で地面に絵を描き、頭の中で戦争のシミュレーションを続けていた。


 北が動く。黒匣會が絡んでいる可能性もある。

 南はセポネの正体に気づいた。東はどう動くのか。そして、西は……そんなことを考えながら地面に絵を描き続ける。すると耳元で声がした。

「ほぉ? 戦術も出来るのか??」

 

 カヅチの手が止まる。次の瞬間…

 背筋を凍らせるほどの殺気が、全身を貫いた。

「っ!?」考えるより先に身体が動いた。

 カヅチは箒を振るいながら、後方へ大きく跳ぶ。

 風が巻き起こり、落ち葉が舞い上がった。

 距離を取ったカヅチは、すぐさま相手を見据える。


「そんなに構えるな…何もされなきゃ何もしないよ。」

 

 そこに立っていたのは優しい顔で微笑む、上裸のオハラ国王だった。

「……オハラ…国王!?」

 カヅチは箒を構えたまま、警戒を解かなかった。



            続

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