第45話 東の街でのデート
魔王城・城門➖➖
朝七時五十分。カヅチは城門前に立っていた。
「……ちょっと早かったかな?」
周囲を見渡す。まだル・セポネの姿はない。
カヅチは箒を肩に担ぎながら、空を見上げた。
「まぁ、待ってればそのうち来るか…」
その時、コツ……コツ……コツ……。
背後から、規則正しい足音が聞こえてきた。
「……?」カヅチが振り返る。
そこには、黒を基調とした、高級感溢れる服に身を包んだル・セポネが立っていた。
いつもの魔王とは違う。髪を整え、服装もばっちり決め、ヒールを鳴らしながら歩いてくる。
「おはよう。待たせたか?」
「……いえ。俺も今来たところです」
カヅチは、ル・セポネをじーっと見る。
(うわぁ……綺麗だなぁ……)
思わず見惚れてしまう。
「……ん?行かんのか?」
ル・セポネが首を傾げる。
「あ、はい。行きましょう」
(……くっ。何も言わない…。服装失敗したか? もう少し際どい服の方が好みだったのか……?いや、でも丸出しでは…)
ル・セポネは密かに落ち込む。
しかしその瞬間、カヅチは何の躊躇いもなく、ル・セポネの手を握った。
「きゃっ!?」ル・セポネから、思わず可愛らしい声が漏れる。慌てるカヅチ。
「えっ!?ごめんなさい!痛かったですか?」
「い、いや!ほら、お主が急に触るから……びっくりしただけじゃ!」
「そうですか。よかった」
カヅチは、そのまま手を離さない。
「うむ。……好きな所を触れ!」
「えっ?……じゃあ、遠慮なく」
そして、ぎゅっ。指を絡める。恋人繋ぎ。
カヅチは自分の手を見る。
(魔王様……手、暖かいな)
一方のル・セポネ。繋がれた手を見る。
(ふぬぅぅぅぅっ!! これではもう……手が合体してしまっておるではないかぁぁぁ!!手汗をかいておったらどうするんじゃ…ビチョビチョ女と思われてしまうぅぅぅっ!!)
顔は真っ赤。しかし、手だけは絶対に離さない。
「……じゃあ、行きましょうか」
カヅチが箒を構える。
「ん?転移魔法陣を出すぞ?」
「いえ。あれ、魔力を使うんですよね?」
「うむ。けっこう疲れる。」
「じゃあ、これで行きましょう。一時間も飛べば着きますから」
「……なるほど」ル・セポネは少し考える。
「変に誰かに見つかって、揉め事になるのも面倒じゃからな」
「はい。じゃあ、俺に掴まってください」
カヅチは箒に跨る。
「うむ!では、失礼する。」
ル・セポネはカヅチの背中へ回る。
そしてカヅチの体を、ぎゅうっ。後頭部を胸元に埋める。
「あの〜……前が見えません」
(はぁぁ、落ち着くのぉ……)
「魔王様!?聞いてます?」
「う、うむ。……そ、そうじゃな」
ル・セポネは少しだけ身体を離す。
しかし、手はしっかりカヅチの腰に回したままだった。
「じゃあ、行きますよ!【飛行】!!」
カヅチが箒へ魔力を込める。ドンッ!!二人を乗せた箒が、一気に空へ飛び出した。
◇◇◇
空を飛ぶ二人。
朝の風が、ル・セポネの髪を揺らしていく。
「おぉぉ……」ル・セポネは目を輝かせる。
「朝の空は気持ちいいのぉ〜!」
「そうですね〜」
「カヅチは空を飛ぶのが好きなのか?」
「好きです。勇者の頃は飛べなかったですから。魔王様は空、初めてですか?」
「ん?妾は羽根も生やせるからな。空は飛べるぞ」
「……羽根も生やせるんだ……」
「うむ!人間に見つかると面倒だからたまに夜飛ぶぐらいじゃ!」
「たまに夜飛んでるんだ…」
しばらく飛んでいると、遠くに巨大な城が見えてくる。
「あっ」ル・セポネが指を差す。
「カヅチ!イグニートの城じゃ!」「本当だ」
そこにあるのは、魔王の東の四天王獄炎のイグニートの城。それを見てル・セポネはニヤリと笑う。
「あははっ!今、角が生えておったら、どぎつい魔法を一発かましてやったんじゃがな!」
「あはは……みんな死んじゃいますよ」
「……ちゃんと、妾が生き返らせるもん」
「いや、ちゃんと殺す気だったんだ……」
「「あはははっ!」」
二人はそんな会話をしながら、東の街を目指していった。
◇◇◇
東の街➖➖街の入り口に降り立つ。
「じゃあ、いつも通りこれで」
カヅチがギルドカードを提示する。
当然、「……どうぞ」軽々と通過。
「よし」二人は街の中へ入っていく。
朝の淡い光に包まれた石畳。
古い石造りの家々が肩を寄せ合うように並び、その向こうには赤茶色の屋根が続いている。
どこからか聞こえてくる静かな鐘の音が、街全体に溶け込んでいた。
「おぉぉぉ……!」ル・セポネの目が輝く。
「カヅチ〜!この街なんかいいのぉ!」
「魔王様、ヴァロネの街は初めてですか?」
「うん!」ル・セポネは楽しそうに街を見回す。
「妾は角をしまうと魔力が出せんじゃろ?」
「そうですね…筋肉はモリモリですけど…」
「うむ。そんなに褒めるな。だからって護衛を付けたらそれはそれで揉め事になるじゃろ?だから喧嘩する時以外は、あまり外に出んのじゃ」
「……あぁ、そういえばこの人、喧嘩する人だった……」
カヅチは妙に納得する。
「なんじゃ、その言い方は!」
「あはは!いや、悪い意味じゃなくて」
そしてカヅチは、改めてル・セポネを見る。
今日のル・セポネは、いつもの魔王とは違う。
街を歩く姿は、どこかの貴族令嬢のようにも見えた。その姿を、通りすがりの人々もちらちらと見ている。
「うわぁ、ママ……あの人、綺麗……」
「すごい服だね……どこかの偉い人かしら…」
「うおっ!美人だなぁ…」「やめとけ!男連れだぞ!」
そんな声が周りから聞こえてくる。
ル・セポネは少し嬉しそうにする。
そして……
「……お主は?どう思う?」「はい?」
「……妾、綺麗か?」「……?」
カヅチは少し考える。
「はい。綺麗だと思いますけど?」
その言葉にル・セポネが固まった。
「……本当に…」小さい呟き。
「どうしました?」「……いや」
ル・セポネは真っ赤になって顔を逸らす。
(……こやつ……今日は一体どうしたんじゃ……!!素直に綺麗じゃと…。くっ、今夜決める気か?大丈夫じゃ…妾は魔王。下着まで完璧じゃ…。くくく…驚くじゃろうな…)
ニヤニヤするル・セポネを見てカヅチは首を傾げる。
「とりあえず開演は十八時ですから、それまでご飯食べたり、買い物したりしますか?」
「おぉ、……デートじゃな」
「……そんなかしこまった顔して言わなくても」
「じゃ、じゃあどんな顔で何と言えばいいんじゃ!」
「あはは。ほら、行きましょう」
「なぜスカす!ちゃんとお主の好みを言え!!」
カヅチが再びル・セポネの手を握る。
「……っ!」ル・セポネの身体がビクッと跳ねる。
(な、なんで……なんでそこで手を握るのじゃ……!まだ明るいぞ…。くっ、チュパにちゃんと聞いておけばよかった!!心臓が張り裂けそうじゃぁぁぁぁぁ!!)
心臓が、ドクンドクンと激しく鳴る。
一方のカヅチは……
(ちゃんと手を離さないようにしとかないと……この人、絶対一人でどっか歩いて行っちゃうからな……)
ル・セポネの真っ赤な横顔を見る。
カヅチは、ただの迷子対策のつもりだった。
しかし、ル・セポネにとっては、人生最大級の一撃だった。
「あっちに美味しいご飯屋さんあるんで行きましょう。」
「……はい」小さく返事をする。
そして二人は、手を繋いだまま歩き出した。
元転生勇者と魔王。本来なら交わるはずのなかった二人が、今日はただの男女として、東の街を歩いていた。
こうして、カヅチとル・セポネのヴァロネの街でのデートが始まった。
続




