第44話 魔王様、病気になられる
魔王城➖➖朝。
ル・セポネの部屋から、凄まじい音が響いていた。
ガチャンッ!!ガチャンッ!!
「ふんっ!!ふんぬぅぅぅぅぅ!!10004回、10005回……ふんっ!!」
そこには、スポーツブラにスパッツ姿で筋トレをするル・セポネ。その手には、五トンのダンベル。
魔王が軽々と持ち上げ、そして床へ下ろす。
ガチャンッ!!「……んっはぁぁぁ!!」」
ル・セポネはダンベルを置き、額の汗を拭った。
「……なんじゃ……?なんか……体がおかしいのぉ…」
いつもなら絶好調のはずなのに、今日は妙に身体が重い。そして額に手を当てる。
「熱っぽいし……なんか、だるい……」
そして胸元を押さえる。
「なんか……胸も……張り裂けそうじゃ……」
ル・セポネは少し考え……
「うむ……牛乳じゃな」
部屋にある冷蔵庫を開ける。中から牛乳を取り出し、ゴキュゴキュゴキュ!!パックのまま一気に飲み干す。
「ぷっはぁぁぁぁぁぁ!!美味いっ!!」
牛乳パックを口から離し、満足そうに息を吐く。
「やっぱり筋トレ後の牛乳は生き返るのぉ……」
しかし、数秒後…… やっぱり調子が悪い。
「……ダメじゃ、ドクターヴァンパの所にでも行くか……」
そう呟くと、ル・セポネは着替え、部屋を出た。
◇◇◇
魔王城・医務室➖➖
「おーい!ヴァンパー!おるか〜?入るぞ〜?」
扉を開ける。そこには白衣を着た、色白の男がいた。回転椅子に座りながら、何やら書類を読んでいる。
「えっ?……魔王様?」
ヴァンパは顔を上げる。珍しい。魔王が自分から医務室に来るなんて。
「どうしたんですか?」
「いやな……なんか調子が悪いんじゃ…診てくれるか?こう……熱っぽいと言うか……」
ル・セポネはヴァンパの前に座る。
そして胸を苦しそうに押さえる。
「胸がキューっとなると言うか……風邪かのぉ?」
「……いや」ヴァンパは少し考え……
「何とかは風邪をひかないと言いますから」
ル・セポネの眉がピクリと動く。
「んっ?……何とかとは何じゃ?」
「えっ?……この言葉知らない?」「知らん!」
「ふぅ、……魔王様が何とかで良かったです」
「良くない!どういう意味じゃぁぁぁ!!」
「はい。では、診察しますね」
「話しを聞けぇぇぇぇ!!」
こうしてル・セポネの診察が始まった。
◇◇◇
「……でか…」「ん?」「…いえ」
ヴァンパは聴診器を胸に当て、脈を取り、熱を測る。
そしてしばらく診察すると……
「特に異常は見られませんね」「ほ、本当か?」
「はい」ヴァンパは顎に手を当てる。
「ただ……」「ただ?」
「もしかして……誰かが頭の中から離れない、なんてことありません?」
「!んっ!?にゃ、にゃんじゃと!?」
ル・セポネの顔が一瞬で真っ赤になる。
「そ、そんなことは特にないが!も、もし、そうだったら……どうなんじゃ?」
「いや、どうとかって……」
ヴァンパはル・セポネを見る。そして……
(ははぁん……やってんな?)全てを察した。
(そういうことか……)少しだけ口元が悪戯に緩む。
(ふふ……ちょっと揶揄ってやるか)
「魔王様」「な、なんじゃ!?」
「しっかり聞いて下さい」「う、うむ!」
「もしかしたら……魔王様はとんでもない病気かもしれません」
「な、な、なにっ!?妾は死ぬのか!?」
ル・セポネの顔が青ざめる。
「いえ、すぐではありません」
「すぐではない!?いつじゃ!?」
「いつとは決まってはいませんが…。ですが、放っておくと……」
「ど、どうなるんじゃ!?」
「詳しく知りたいので、少し質問してもいいですか?」
「構わん!!治るなら何でも答えるぞ!!」
ル・セポネはヴァンパへ身を乗り出す。
「ありがとうございます。では、いきます」
ヴァンパは真面目な顔で質問する。
「はいか、いいえで答えてくださいね。」「はいっ!」
「今、頭に思い浮かぶ人はいますか?」
「…………はい」
「その人が嫌いですか?」「いいえっ!」
「その人が殺されたら、相手を殺しますか?」
「はいっ!確実にっ!!」
「魔王様…はいか、いいえだけで答えてください」
「……はい」
「その人を、命をかけても守りたいと思いますか?」
「…………」ル・セポネは可愛く俯く。
そして小さな声で……「……はい♡」
ほんのり頬を赤く染めた。
(うわぁ……そこですっごい雌の顔するんだ……)
ヴァンパは思わず苦笑する。
「質問は以上です」「ど、どうじゃ!?」
ヴァンパは静かに告げた。
「魔王様の病気は……思い浮かべた人との、“恋”ですね」
ル・セポネの動きが止まった。
「…………恋?妾が?……こ、こ、恋じゃと!?」
そして、ガタッ!!勢いよく立ち上がる。
「カヅチと!?」
「はい。あっ、お相手カヅチだったんですね?」
「あっ、違う!?違くないけど、違う!妾は魔王じゃぞ!?そ、そんな……みゃけ……にゃかろうにっ!!」
「今、強く思い出しましたね?」
「おみょいじゃひてにゃい!!」
(あぁあ、動揺しすぎて喋れてないって……)
「落ち着いて下さい! 魔王様!」
「お、落ち着いておるわっ!!」
「全然落ち着いてませんよ」
「妾は落ち着いておる!!そうじゃ!!ヴァンパ!薬じゃ!!薬をよこせ!!」
ル・セポネがヴァンパへ詰め寄る。
「……残念ながら魔王様…」ヴァンパは首を横に振った。
「それを治す薬はありません」
「ふぐっ!?なぜじゃっ!?」」
「それが恋ですから」
「なら……なら、妾はどうしたらいいんじゃ!?」
「…………」ヴァンパは少し考える。
「……熱くまぐわう、しかないかと」
「ま 」ル・セポネの顔が真っ赤になる。
「ま、ま、ま……」頭から煙が出始めた。
「 」思考停止。
ヴァンパはそんなル・セポネを眺めながら、静かに思う。
(……魔族最強で恋愛未経験とか……ある意味最強だな……しかも初恋が転生勇者……魔王様!このヴァンパ、陰ながら応援します!)
しばらくして、ル・セポネは無言でフラフラと医務室を出ていった。
「あっ、魔王様!気を紛らわせるなら、体を動かすといいですよ!」
ヴァンパが背中へ声をかける。
「…………」ル・セポネはチラ見して、無言で廊下を歩いていく。
そして「……カヅチ……会いたい…」小さく呟いた。
◇◇◇
部屋へ戻ろうと廊下を歩いてる、その時。
「あっ! 魔王様!」「ぷにゃっ!?」
突然、声をかけられた。振り返る。
そこにいたのは――カヅチだった。
「魔王様。いい所に居た。ちょっといいですか?」
「な、なんじゃ!?何用じゃ!?」
「んっ?どうしたんですか?なんか……怒ってる?」
カヅチは首を傾げる。
「べ、別に〜……」ル・セポネは視線を逸らす。
「別にお主のことなど、気にしてないけど……」
「ふぅ〜ん。変なの」
カヅチは不思議そうな顔をする。
そして何かを思い出したように、ポケットから二枚のチケットを取り出した。
「あの〜、さっきチュパ姉さんの所を掃除してきたら、見つけて、いらないって言うからこれ貰ったんですよ…。明日なんですけど…一緒に行かないですか?」
「んっ?……何じゃ?それは?」
「ほら、前に魔王様、人間の演劇見たいって言ってたでしょ?だから……一緒にどうかなぁ〜って思って…忙しい?」
カヅチの顔を見て、ル・セポネの顔が赤くなる。
ル・セポネがチケットに視線を移す。
「……それ」「はい?」
「……デート?」カヅチは少し考える。
「……そう言ったら、そうかも…?」
「……んっはっ!!」「えっ?嫌ですか?」
「んんんっっっ!!」
カヅチのお伺いを立てるような顔にル・セポネの顔が、さらに真っ赤になる。
「ぜ、絶対行く!!そのチケット、死んでも無くすな!!明日!!城門前、朝八時集合じゃ!!」
「えっ、ちょっ、は、はい……」
ル・セポネは勢いよく廊下を歩き、自分の部屋へ戻っていく。残されたカヅチは、しばらくその背中を見る。そして小さく呟く。
「……開演、十八時だけど……」
◇◇◇
ル・セポネの部屋➖➖
部屋に戻ったル・セポネはクローゼットの服をひっくり返した。
「あぁ、どうしよう……これか?」服を取り出す。
「いや……こっちか?」別の服を取り出す。
「いや、これも違う!」さらに別の服。
次々と服を引っ張り出していく。
床に服が散らばっていく。
「これは……ちょっと大人っぽすぎるか?」別の服。
「いや、こっちじゃと……変態か?」
鏡の前で合わせる。首を傾げる。
「見えておるな…何でこんなの持ってるのじゃ?」
「こっち……?」また別の服。
「いや……待て……何でもいいじゃろ!妾は……魔王じゃぞ……?」
鏡の中の自分を見る。
「……デート……」顔が赤くなる。
「カヅチと……」さらに赤くなる。
「…………」そして再び服を漁り始める。
「こっちか!?いや、こっちか!?」
魔王城の一室で、魔王様による人生初の悩みのファッションショーが始まった。
続




