第42話 日常に戻っていく魔王城
黒匣會との戦いから、三日。魔王城➖➖
今日もカヅチは、いつものように箒を手にしていた。
「ふぁ~……まだ体だるぅぅ!」
大きな欠伸をしながら、廊下を掃除していく。
「……あとは城門の掃除だけだなぁ……終わったら……魔王様の様子でも見て来るか……」
カヅチは箒を肩に担ぐ。
ル・セポネは、魔力回復のために三日間ずっと眠っている。まだ目を覚ましていない。時々トイレで起きるが、またすぐに寝る。
カヅチは城門へ向かった。そして掃除完了。
「よぉ、今日もピッカピカ!うん。綺麗だな!」
城門を掃除していると、羅刹が歩いてきた。
「あっ、羅刹さん。手伝って貰ってありがとうございます。魔王様、起きました?」
「おう! いや、まだみたいだな……。よっぽど疲れたんだろ」
羅刹は城門を見回す。
「俺とサルヴェナ様は気長に待つとするよ」
「そうですか……」
カヅチは箒を置き、少しだけ考える。
「ん〜、じゃあ、俺、ちょっと様子見てきます」
「ああ…頼む」
カヅチは魔王の部屋へ向かった。
◇◇◇
扉の前。コンコン。
「魔王様ー? カヅチです。入っていいですかー?」
返事はない。「……やっぱ寝てるよなぁ」
カヅチは扉を開ける。「失礼しま~す」
部屋の中、そこには布団から飛び出した髪は寝癖だらけ。スポブラにスパッツ姿のル・セポネが、気持ちよさそうに無防備で眠っていた。
カヅチは、じーっとル・セポネを見る。
(……これ、キツくないのかな……色んなところはみ出して、ぎゅーってなってるけど……どうやって着たんだろう…)
どう見ても、その胸はかなり無理をしている。
少しだけ気になった。カヅチは、そっと手を伸ばす。そして、ほんの少し触れた、その瞬間。
ぶるんんんんっっっ!!
「うわっ!?!?!」
カヅチは口を押さえて飛び退く。
「…………」慌てて布団を被せた。
(びっくりしたぁ……こんな暴れるものなの?)
カヅチは恐る恐るル・セポネの顔を見る。
……気持ちよさそうに寝ている。
「……よし。うん。しっかり寝てる!」
小さく呟き何もなかったことにする。
カヅチはそーっと部屋を出た。
◇◇◇
しばらくして、カヅチが自室でゆっくりと魔界フリックスを見て、魔界コーヒーを飲んでいると……コンコン。
「はーい!」
「カヅチ!魔王様が起きたみたいだぞ!」
羅刹の声だった。
「えっ!?」カヅチは飛び起きる。
「分かりました。今行きます!」
カヅチは急いで部屋を出る。
◇◇◇
玉座の間➖➖
そこには、魔王城の魔族たちが集まっていた。
そして玉座の間、中央には、黒匣會から持ち帰った魔族たちの身体の一部が山のように積まれている。
その前に立つル・セポネ。
「ふぁ~~~~……」まだ眠そうに欠伸をする。
そして……キリッ。
「さぁて!!待たせたな!始めるとするかっ!!」
ル・セポネが両手を擦り合わせる。
すると、手のひらに銀色の粉が溜まっていく。
「おお……」周囲の魔族たちが息を呑む。
ル・セポネは、その銀色の粉を……
「ふぅ~……」静かに吹き飛ばす。銀色の粉が宙を舞う。そして、静かに何かを詠唱した。
その瞬間……ドクンッ!!
積まれていた魔族の身体が動き始める。
腕が動く。足が動く。身体が繋がっていく。
そして……
「……あれ!?」「俺……生き返った!?」
「うぉぉぉぉぉ!!」「やったぁぁぁぁ!!」
次々と魔族たちが立ち上がる。玉座の間が歓声に包まれる。
「ふはははははっ!!見たかっ!!」
ル・セポネは腰に手を当て、胸を張る。
「妾の力を崇めよ!!ふはははははっ!!」
完全に魔王立ちである。
その隣から……羅刹が申し訳なさそうに来る。
「あの~……」「ん?どうした?」
羅刹が恐る恐る手を上げる。
「サルヴェナ様は……?」
「ん?あぁ」ル・セポネはサルヴェナの頭を見る。
「サルヴェナは強いから、直接やらないと魔力が足りなかったんだな…」
ル・セポネはサルヴェナの頭に手を当てる。
「やっと生き返れるな…サルヴェナ。もう少しだけ我慢するんじゃぞ」
サルヴェナの頭に魔力が流れ込む。
すると、サルヴェナの身体がみるみるうちに再生していく。
身体。腕。脚。そして、完全に元の姿へ戻った。
サルヴェナは、無言で自分の身体を見下ろす。
指を動かす。腕を動かす。髪をかきあげる。
そして、小さく呟いた。
「あれ?……私、生き返った……?」
「ああ。おかえり、サルヴェナ」
ル・セポネが微笑む。
サルヴェナがル・セポネを見る。
その顔が、みるみる泣き顔へと変わっていく。
「……ごめんなさい……」「ん?」
「ごめんなさい……」
サルヴェナの目から涙が溢れる。
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」
ル・セポネがそっと抱きしめる。
「よしよし、怖かったじゃろ……」「うぅ……」
「すまんなぁ……。すぐに助けてやれなくて……」
「うわぁぁぁん……!」
周囲では、帰ってきた仲間を喜ぶ魔族たちの声が響いている。
サルヴェナの復活に羅刹も静かに笑っていた。
カヅチはサルヴェナの前へ歩いていく。
「サルヴェナさん……」そして、頭を下げた。
「ごめんなさい。俺がちゃんと説明しておけば……」
「……ふん!」サルヴェナは涙を拭う。
「別に、あんたのせいでああなったわけじゃないから」
「いや、でも……」
「私が弱い!あんたに責任はない!それだけだから」
サルヴェナは胸を張る。
カヅチは少しだけ目を丸くして…… 笑った。
「……そうですか。なら、よかったです」
ル・セポネは周りを見渡し、小さく呟く。
「……やはり…あそこではなかったか…」
◇◇◇
パンパンッ!!突然、ル・セポネが手を叩く。
「よし!!みんなで食うぞ!!」
魔族たちが振り返る。すると、次々と料理が運ばれてくる。
「どいた!どいたぁぁ!!」
コック服のオークが料理を持って走ってくる。
「おいっ!豚野郎。美味そうじゃないかっ!!妾は寝過ぎて腹ペコじゃぁぁぁ!!」
「あははっ!魔王様、食べ過ぎないでくださいよ」
「うるさい!三日も寝ておったんじゃぞ!!厨房空っぽにしてやるわい!」
魔王城は、一気に宴会状態になった。
「おい、羅刹」「あ?欲しいのこのエビチリか?」
サルヴェナがニヤニヤしながら隣を見る。
「エビチリはお前食え!それよりあんた、泣いたでしょ?」
「えっ?いつ?いや……そもそも俺、泣かないし!」
「はぁはんっ!嘘つけ」
「いや、本当に泣いてない!」
「えぇ~!そこは泣けよ!」「なんでだよ!」
「きゃはははっ!早くエビチリよこせ!!」
サルヴェナが笑う。その笑顔を見て羅刹の目が、ほんの少しだけ潤んだ。それをサルヴェナは見逃さなかった。
「ほら……やっぱり泣いてんじゃん」
「泣いてないって!」「きゃはははっ!!」
◇◇◇
その少し離れた場所の席➖➖
ル・セポネがカヅチを見る。
「なぁ、カヅチ」「はい?」
「妾が寝てる間、寂しかったか?」
「え?いや……別に」カヅチは首を傾げる。
「掃除してましたし。特に変わったこともなかったですけど……」
「ふぅ~~~~ん……」ル・セポネがジト〜と見る。
「妾はてっきり……寂しくて部屋に来てるのかと思っておったわ」
「…………」カヅチが目を逸らし黙る。
「…………」ル・セポネはカヅチを覗き込むように黙る。
そして……ゆっくりと口を開く。
「お主……見たな?」
ビクッ!!カヅチの体に力が入る。
「いやっ!!その!!」カヅチが慌てる。
「わざとじゃなくて!!」
「ほう?わざとではない…その心は?」
「はい。少し触ったら、その……!ぶるんっっっんって!!」
ル・セポネの目がクワッと見開かれる。
「やっぱり、お主の仕業じゃったかぁぁぁ!!」
「ひぃぃぃぃ!!ごめんなさい!!」
「お主という奴はぁぁぁ!!ちゃんと見たんだろうな!」
「はい。ちゃんと見てしまいました!本当にすみません!!」
「あはははははっ!!構わん!!」
慌てるカヅチを見て、ル・セポネは笑い出した。
「えぇ……?構わないの?」
「見られて減るものでもあるまい!!」
「いや、それはそうですけど……」
「ならよいではないか!今、もう一回見るか?」
「あはは……遠慮しておきます」カヅチは苦笑する。
「なんでっ!?遠慮するな!」「いいですって!」
その二人を見ながら、羅刹は呆れたように笑った。
「……魔王様、楽しそうだな…」
「うん。楽しそうだね…」サルヴェナも笑う。
魔王城に、笑い声が響く。
黒匣會との戦いで失われたものもあった。
けれど、帰ってきた者たちもいる。
そして今日も、カヅチは箒を手にする。
魔王城はいつもの日常へ戻っていった。
続




