第41話 ただいまとおかえり
魔王城➖➖
その城門前で、二人の魔族が空を見上げていた。
ル・セポネは体操座り。その隣では、羅刹が胡座をかいている。二人とも、ずっと空を見ていた。
「「…………」」
ただ、ル・セポネの頭が、こっくり……こっくり……と静かに揺れている。魔力切れと疲労による睡魔と、必死に戦っていた。
「魔王様……」「……んぁ?」
「カヅチ来たら起こしますから、寝たらいいじゃないですか……」
「……いや、眠くない……」
「いや、めちゃくちゃ眠そうですけど……」
「眠くない……と言っておる…」
ル・セポネはゴシゴシと目を擦る。
「…寝たら……帰って来ない気がするんじゃ……」
「……そうですか……」
ル・セポネの寂しそうな顔を見て羅刹は、それ以上何も言わなかった。
そして、そっと手元にあるサルヴェナの頭へ手を伸ばす。黒い髪を、優しく撫でた。
「羅刹よ……すぐ生き返らせてやれなくて、すまんの……」
「いえ…生き返るのは分かってますから……大丈夫です」羅刹は笑う。
「……本当、羅刹はサルヴェナが好きなんじゃな……」
「ははは……小さい頃から一緒でしたからね……」
少し照れたように笑う。
「小さい頃からじゃったか?」「ええ」
羅刹は空を見上げる。
「小さい頃、よく泣き虫羅刹って虐められてたのを、サルヴェナに助けてもらいましたし……」
◇◇◇
ずっと昔、どこかの魔族の里➖➖
そこには、まだ幼い羅刹がいた。
「うっ……ぐすっ……」
大きな身体を小さく丸め、泣いている。
その前に庇う様に立つ、小さなサルヴェナ。
両手には魔法弾。
「おいっ!鬼!泣くな!」
幼いサルヴェナが叫ぶ。
そして、ドォンッ!!両手の魔法弾をぶっ放す。
吹き飛ぶ人間。
「大丈夫だ!私がこれからも守ってやる!!だからもう泣くな!私について来い!」
小さな身体で胸を張る。
「……!」泣いていた羅刹が、顔を上げる。
それから二人は、ずっと一緒だった。
◇◇◇
昔話しを話す羅刹の口元に、ほんの少し笑みが浮かぶ。
そしてなぜかル・セポネの返事がない。
「……魔王様?」羅刹が隣を見る。
そこには体操座りのまま、鼻ちょうちんを膨らませて眠るル・セポネ。羅刹はため息を吐く。
「はぁ……俺、けっこうちゃんとした昔話したのに……寝てるし……まぁ、いいか」
そして、再び空を見上げた。
◇◇◇
その頃、カヅチは魔王城へ向かって箒で飛んでいた。
「……あぁー……」
箒にしがみつきながら、カヅチは心の中で叫ぶ。
(疲れた!疲れた!疲れた!もうやだ!早く帰りたい!早く寝たい!抱っこされたい!!……なんで?なんで俺、いつもこう思うんだ……?)
少しだけ考える。
(いや、そんなことはどうでもいい……今はもう……何も考えずに飛び込みたい!!)
その瞬間、遠くに小さな光が見えた。
「……あ…着いた……」魔王城の灯り。
その瞬間、カヅチの意識がぐらりと揺れた。
(やばっ……気を抜いたら……意識が……)
もう魔力はほとんど残っていない。
それでも、箒は惰性で飛び続ける。
カヅチは、半分眠ったような意識のまま、ただ、魔王城へ向かって飛んでいった。
◇◇◇
「……!」空を見ている羅刹が何かに気付く。
遠くから、何かが近づいてくる。
「魔王様っ!!」「……んん……?」
「カヅチです!」
その一言で、パチンッ!!
ル・セポネの鼻ちょうちんが割れた。
「なにっ!?帰って来たか!?」ガバッ!!
「どこじゃ!!どこ!!」
ル・セポネが勢いよく立ち上がり、空を見上げる。
そこには、ふらふらと飛んでくるカヅチ。
「……カヅチ……」ル・セポネの目が大きく開く。
「カヅチィィィィィィ!!」走る。カヅチの落下地点へ。
そして、両手を大きく広げる。
「カヅチ!!ここじゃ!!ここに飛び込んで来い!!」
その声が、かすかにカヅチの耳へ届く。
薄っすらと目を開ける。ぼやけた視界。
その先にあったのは、大きな胸。
(……あぁ…帰って来た……母なる大地)
カヅチは、何も考えなかった。
そのまま、ル・セポネへ飛び込む。
ぶにゅぅぅぅぅん!!
「カヅチッ!!」ル・セポネが力いっぱい受け止める。
そして、ぎゅううううううううっ。
壊れ物を抱えるように。絶対に離さないように。
ル・セポネは、カヅチを強く抱きしめた。
一瞬だけ、二人とも、何も言わなかった。
「……帰ってきたな……」
ル・セポネが、小さく呟く。
そして……「おかえりっ♡」
カヅチが笑う。「ただいま♡」
その瞬間。「カヅチィィィィィ!!」
ル・セポネが嬉しさのあまり、カヅチを抱えたままブンブンと振り回す。
「痛い!痛い!魔王様!!」
「嘘つけ!!離すもんかと言わんばかりにしがみついておるぞ!!」
「いや、本当に痛いですって!!」
「あははははっ!!嘘つけ!よく帰って来たなぁ♡」
「あははっ……はい」カヅチも笑う。
カヅチはル・セポネにしがみついたまま、
「待っててくれて、ありがとう……♡」
「……うむ♡当たり前じゃ!」
そのまま二人はバランスを崩し、ドサッ!!
地面に倒れ込む。それでも離れない。
数秒後……
「ぐぅ……」「すぅ……」
二人とも、そのまま眠ってしまった。抱き合ったまま。それを見ていた羅刹は、静かに息を吐いた。
「……ふぅ…なんとか……終わったな……よいしょっと」
そして二人をまとめて担ぎ上げる。
そして、門番のガーゴイルに近づいて行く。
「そこの」「はっ!」
「魔王様の部屋まで案内してくれるか?」
「はいっ!もちろんです!」
「あと……俺たちが泊まる部屋ってあるか?」
「はい!すぐにご用意いたします!」
「そうか。助かる」
ガーゴイルに案内されながら、羅刹は担いでいる二人を見る。ル・セポネは気持ちよさそうに眠っている。カヅチも、その胸に顔を埋めたまま眠っている。
「あんたたち……もう付き合えよ……」
羅刹は呆れたように呟いた。返事はない。
二人はただ、幸せそうに眠っていた。
続




