第38話 ごっついキラキラしとるやんか
黒匣會、ドルンハイム部隊に囲まれたカヅチ、ル・セポネ、羅刹。
三人とも魔力はほとんど残っていない。逃げ道もない。
「おやおや……どうしました?魔王……よかったらこれから私とベッドにでも向かいますか?うひひ!」
ドルンハイムが、いやらしい笑みを浮かべる。
ル・セポネは周囲を見渡す。
そして……小さく息を吐いた。
「はぁ……仕方ないのぉ」
最後に残った魔力を絞り出す。
手を翳し空間に転移魔法陣が浮かび上がった。
「……お主は逃げろ」「魔王様!?」
「妾が死んでも……誰かが魔王になるじゃろう」
ル・セポネは羅刹を見る。
「お主たちが生きておれば、魔族はまだ終わらん」
「何言ってんですかっ!嫌です!!俺も残ります!!まだやれるっ!」羅刹が叫ぶ。
しかしル・セポネは、その巨体を押す。
「早く行け!!」「ちょっ、魔王様ぁぁぁ!!」
「サルヴェナを……頼んだぞ…しっかり保管しとけ」
羅刹が転移魔法陣へ押し込まれる。
そしてル・セポネは、最後にカヅチを見る。
「……短い間だったが、楽しかったぞ……もし、これからもお主が良かったらあの城を掃除してやってくれ…あいつらは汚すことしか出来ないからな…」
そう言って、カヅチの肩に手を伸ばす。
転移魔法陣へ押し込もうとした、その瞬間……
ぐっ。カヅチがル・セポネの肩を押した。
「えっ?お、おいっ!?何をしておるんじゃ!?おいっ!」
よろけたル・セポネの身体が、転移魔法陣の中へ。 カヅチは笑っている。
「こらっ!お主が入る流れじゃろっ!?」
「魔王、さようなら…」
「いやいやいや!!まず様を付けろ!しかも何で妾がさようならされておるんじゃぁぁぁ!!」
ル・セポネが必死に魔法陣から出ようとする。
しかし、転移の魔力が彼女を吸い込んでいく。
「カヅチ!!何をしておる!!早く引っ張れ!」
カヅチは、吸い込まれていくル・セポネを見つめる。
「魔王…… ドルンハイムの【聖なる力】の能力は、魔族特効型です」
静かに口を開く。ル・セポネは目を見開く。
「今の弱った魔王には……相手が悪すぎる」
そして優しく微笑みながら言う。
「それに、“今の魔王”がいなければ……この世界は何も変わらない」
ル・セポネが手を伸ばす。
「うるさいっ!!ダメじゃ!!なら……ならせめて一緒に!!カヅチよ!!妾の手を掴め!!」
必死に手を伸ばす。カヅチも手を伸ばす。
しかし…カヅチは掴まない。
代わりに、小指を一本だけ差し出した。
「……なんじゃ!?それじゃ力が入らんぞっ!」
カヅチは、小指にル・セポネの小指を絡める。
指切り。
「……絶対帰りますから…待っててください」
カヅチは笑う。ル・セポネの目が揺れる。
「約束です」
そのカヅチの顔を見た瞬間、ル・セポネの顔が、なぜか真っ赤になった。
「なっ……!はっ……!」
自分でも理由が分からない。胸が妙に熱い。
「ぜ、絶対じゃぞ!!絶対帰ってくるんじゃぞ!!」
必死に叫ぶ。
「あはは、はい。約束です」
「う、嘘ついたら……針千本じゃすまないんだからな!!あと筋トレも気絶するまでじゃからなっ!」
「えぇぇ、怖いなぁ……」「ぜっ~~た……かえ……」
言葉の途中でその身体が、完全に転移魔法陣へ吸い込まれる。
消える直前。ル・セポネの顔だけが、最後までカヅチの目を見ていた。
そして転移魔法陣が消える。静寂。
残されたのは、カヅチ一人。
ドルンハイムが笑う。
「ふひひひっ……!この状況……一人残されて、どう生き延びるつもりだ!?」
「さぁね……」カヅチは肩をすくめた。そして箒を握る。
「たぶん無理だろうね……」
ドルンハイムが笑みを深める。
「ふふ、でもさ…約束、守らないと魔王様怖いから…… 本気でやるよ!」
カヅチが顔を上げる。その表情から、笑みが消える。箒を構える。
◇◇◇
その頃、別の倉庫では➖➖
薄暗い室内。そこかしらから呻き声。
その床に、男が一人倒れている。バイスト。
朦朧とする意識の中、バイストは、遠い昔の記憶を思い出していた。
◇◇◇
ある城➖➖
「おぉ!!転生勇者が来てくれたぞ!!」
「なんと! 強そうではないか!」
「能力は、捕縛!?」「凄い!凄い!」
人々が騒ぐ。歓声の中。
若い頃の初々しいバイストが照れ臭そうに立っていた。
「あはは、どうも、どうも。えらい歓迎で、おおきに!
まだ何も知らない。まだ何も分かっていない。
ただ、魔王を討伐する。ただそれだけを考えていた。
◇◇◇
あるギルド➖➖
「えっ!?あの白い魔女を、貴方が捕まえたんですか!?凄い!凄い!」受付の人間が驚く。
「せやで!ワイの手下が追い詰めて、そこへワイの魔法や!バッチ〜ンって、そりゃ凄かったでぇ〜♪今、手下が持ってくるさかい、ちょい待ち〜」
そこへカヅチが白い魔女を抱えて現れる。
バイストが笑顔で近づいていく。
「おぉ、ご苦労さん!運んでもらって悪かったのぉ!おおきに!」
カヅチは魔女を渡す。そして、冷めた顔で呟いた。
「……あぁ、そういうことね…別に俺はランクなんかどうでもいい。それより俺はこれから最短で魔王に会いに行くことに決めたよ…」
「おぉ、そうなんや…。頑張りや〜」
その背中を見ながらバイストは内心で舌打ちする。
(……すかしてんなや!……せや、ワイが先に魔王倒したろ」
その時。ハットを被ったスーツ姿の男が、バイストの隣へ近づいてきた。
「おめでとう。これで君もSSランクだね……そんな君に少し、話があるんだが……」男は微笑む。
「話し?」「あぁ、ここじゃなんだから…向こうで…」
◇◇◇
魔王城➖➖
ル・セポネがバイストを笑いながらボコボコにしていた。
「……弱い、弱すぎる…殺す価値もないな……」
地面に転がるバイスト。ル・セポネは興味を失ったように背を向ける。
「お前ら外に捨てておけ」
兵士によって城の外へ放り出されるバイスト。
誰にも相手にされない。誰にも必要とされない。
トボトボと北の街に帰って行く。途中で力尽き倒れる。
その時、何者かが近づいてくる。450750部隊。
「ふふふ、これで分かったろ?我らの仲間になるか?圧倒的な力を与えてやるぞ…」
彼らは倒れているバイストを見下ろす。頷くバイスト。
そして、何かを、バイストの口へ押し込んだ。
「……んぐっ……!?なんや…これ…。まっずっ!」
身体が震える。目が見開かれる。
そして白目が、ゆっくりと黄色く染まっていく。
450750部隊の一人が呟く。
「……よかったな…間に合って……」
そして、手を差し伸べる。握り返すバイスト。
「さぁ……我らと共に、血の300年を取り戻そう」
◇◇◇
それからバイストは魔族を狩り始めた。
捕縛する。捕まえる。解体する。売る。
そして……食う。何度も。何度も。
そのたびに、身体は人間から遠ざかっていった。
◇◇◇
そんな昔を思い出してる中、バイストは、ふと一人の男を思い出す。輝いてるカヅチ。真っ直ぐなカヅチ。
「……なんやぁ……カヅチちゃん……ごっついキラキラしてるやんか……ずるいでぇ〜」
その顔に、歪んだ笑みが浮かぶ。ゆっくりと身体を起こす。ふらつきながら立ち上がる。
そして、ふらふらと歩き出す。
「へっへっ……!さぁ……最後の仕上げや……」
暗い倉庫の奥へ。そして出口へ向かって歩く。
「待っとれよ〜〜……そこにいるのは分かっとんやでぇ〜!」
続




