第37話 みんなで帰りましょう
【千秋待月】を展開したまま、カヅチは450750部隊へ向かって歩いていく。
周囲では、倒れたバイストを見て兵士たちがざわめいていた。
「ど、どうなってやがる……!?」
「バイストが……やられた……?」
「この部隊のリーダーだぞ…?」
カヅチはそんな声を気にも留めず、箒を肩に担いだまま進む。その先にいるのは、捕らえられた羅刹とサルヴェナの頭。
「どきな……サルヴェナさんと羅刹さんを返して貰うよ……」カヅチが静かに言う。
「おらっ! カヅチ!!待てっ!」
ジャーブイが叫び、呼び止め、拳を握り締める。
「何の手品か知らねぇけど、俺には通用しねぇぞっ!!」
ジャーブイが一直線に突っ込んでくる。
しかし、カヅチは止まらない。
一歩。また一歩と進んで行く。
「はぁ、ジャーブイ……もう少し利口な奴かと思ったよ……」
カヅチが小さくため息を吐く。
ジャーブイが拳を振り上げる。
「舐めやがってぇぇぇ!!すかしてんじゃねぇぞっ!!」
拳が【千秋待月】のドームへ触れた瞬間……。
「……なっ!?」
ジャーブイの拳が、ゆっくりと動き始める。
カヅチはその横を普通に歩いていく。
「……手品でも何でもないんだよ…」
カヅチがゆっくり動くジャーブイを見る。
「これが……“力”なんだ…」
そして、ふと思い出したように口元を上げる。
「あっ、そうだ。さっきお前……」
カヅチが指で何かを数える。
「382回、動けない俺のこと殴ったな」
「……は?」「お返しだ」
カヅチは拳を握り、魔力を纏わせ、構える。
「【刹那千秋】!!」
その瞬間、無数の拳がジャーブイへ襲い掛かる。
ドゴドゴドゴドゴドゴッ!!
「ぐっ!?な、なんだこれぇぇぇ!?」
ジャーブイの身体は動いている。だが、遅い。
あまりにも遅い。その千日のような時間の中で、カヅチの攻撃だけが次々とジャーブイを捉えていく。
「一発」「ぐっ!!」「十発」「がっ!!」
「百……」「や、やめ、……」
「二百」ドゴドゴドゴドゴッ!!
「三百……」
ジャーブイの身体がゆっくりボロボロになっていく。
「……そして……500!!」カヅチがニヤリと笑う。
ドゴォォォン!!カヅチが体をずらし、ジャーブイがドームの外へ弾き飛ばされる。
その瞬間、身体が一気に限界を迎えた。
「……はぁ……はぁ……」膝から力が抜ける。
ドサッ。ジャーブイが地面へ崩れ落ちた。
「あはは……多めに殴りすぎた……」
カヅチは頭を掻く。そして何事もなかったように歩き出す。
「さて……次は誰かな?」
450750部隊の兵士たちを見る。
兵士たちが一斉に武器を構える。
「囲めぇぇぇ!!」「一人ずつじゃねぇ!!全員で行け!!」「絶対ここから逃すな!!」
大量の兵士がカヅチへ殺到する。
カヅチはため息を吐いた。
「……掃除って、一人ずつやるよりまとめてやった方が楽なんだよなぁ…」
箒を横薙ぎに振る。ドゴォォォォン!!
数人がまとめて吹き飛ぶ。背後から剣が迫る。
カヅチは振り返りもせず、箒の柄で受け止める。
ガキィン!!「なっ!?」そのまま柄を返す。
ゴンッ!!男の腹へ直撃。「ぐぇっ!!」
別の男が斬りかかる。
カヅチは一歩だけ横へずれる。空振りした剣を見ながら、「危ないなぁ。床に傷が付くだろ…。まぁここ魔王城じゃないから直さないけど…」
箒を振る。ドゴンッ!!男が吹き飛ぶ。
さらに別方向から魔法が飛んでくる。
「【水拭き】!!」バシャァァァン!!魔法ごと洗い流す。
「な、なんだこいつ……!?勇者……なのか……!?」
「あはは!元、だけどね。今は清掃員」
カヅチが笑う。次々と兵士たちが倒れていく。
襲いかかる兵士たちはカヅチのドームに触れ遅くされ、高速の攻撃で床に沈んでいく。
一人。二人。十人。二十人。
カヅチは箒一本で、戦場そのものを掃除していく。
「くそっ! 数で押せぇぇぇ!!」
「だから……まとめて掃除する方が楽だって言ってるだろ!!【高圧洗浄・刹那】!!」
カヅチが箒を構える。ブッシャァァァァ!!
大量の兵士が吹き飛ぶ。やがて、羅刹を縛っていた兵士たちも全員倒れた。カヅチはそのまま羅刹へ駆け寄る。
「羅刹さん!」「おう、……カヅチ……」
カヅチは箒を使って縄を切り、羅刹を解放する。
「大丈夫ですか?」「なんとか…な」
羅刹はゆっくり立ち上がる。そして、カヅチを見る。
「……なんで人間が……ここまで……」
カヅチは少し首を傾げる。
「あれっ?もしかして、俺、まだ信用されてなかったんですか?俺……魔王城で一番下っ端の清掃員ですよ?」
そして、いつもの調子で笑う。羅刹が目を丸くする。そして……ニヤッ。
「……そうだったな」羅刹が笑う。
「さぁ、魔王様の所へ」カヅチも笑う。
カヅチがサルヴェナの頭を見る。
「お願いします。サルヴェナさんを……生き返らせてください」
「あぁ、ありがとうな、カヅチ」
羅刹が頷く。そして、ふと思い出したように口を開く。
「……あのよ。一言、言わせてくれ」「はい?」
「魔王様に、俺が“サルヴェナ様とカヅチが黒匣會に行った”って言ったら……魔王様…すっごく心配してな……転移魔法陣を連発して、サルヴェナ様とカヅチを探し回ったんだ。だから、今回はもうほとんど魔力なんか残ってな……」
「……知ってるよ」カヅチが遮った。羅刹が驚く。
カヅチは少しだけ笑う。
「……あれが本気なら……俺は好きになってない!」
「……えっ?」
カヅチは再び450750部隊へ向き直る。
「さぁ……まだ掃除が残ってる」
そして、再び戦場へ走っていく。
羅刹はその背中を見ながら呟く。
「……あいつ……」少し間を置いて。
「……魔王様のこと……好きなんだ……」
そして羅刹は、サルヴェナの頭を抱えたままル・セポネの元へ向かっていく。
◇◇◇
一方、カヅチは残った450750部隊を次々と倒していく。
「うぎゃぁぁぁぁぁ!!」「こっち来るなぁぁぁ!!」「ぎゃああああ!!」
剣を箒で弾く。魔法を【水拭き】で消す。
逃げる者を【高圧洗浄】で吹き飛ばす。
倒れた者は箒ではいてまとめて一ヶ所へ集める。
「はい、こっち」ズルズルズル。サッサ!
「そっちも」ズルズルズル。サッサ!
最後の一人を箒で引きずってきて、カヅチは全員を一ヶ所に集めた。
そして、手をぱんぱんと叩き、腰に手を当てる。
「おっしっ!掃除終わり!!」
箒を肩に担ぎ、カヅチは満足そうに頷いた。
そしてちょうど【千秋待月】が切れた。
◇◇◇
カヅチが歩いていく。
その目に映っているのはル・セポネと羅刹。
ル・セポネは地面に座り込んでいた。
羅刹が、守るようにその隣に立っている。
カヅチは軽く手を挙げる。ル・セポネも手を挙げる。そして、二人とも自然に微笑んだ。
カヅチが近づく。「あれ?」
そして、サルヴェナの頭を見る。
「魔王様。サルヴェナさん、まだ生き返らせないんですか?」
ル・セポネが申し訳なさそうに笑う。
「あぁ……すまん」少しだけ俯く。
「サルヴェナほどの実力者を生き返らせるほどの魔力が、もうないんじゃ……一回帰って寝てからじゃな…」
そして、ル・セポネは申し訳なさそうにカヅチを見る。
「カヅチ……今回は、本当に……たす…」
「魔王様!助けに来てくれてありがとうございます!」
カヅチが言葉を遮り頭を下げる。
ル・セポネが目を見開く。
「……カヅチ……」
「勝手にサルヴェナさんを連れ出して、こんな目に合わせてしまって……本当にごめんなさい」
ル・セポネは何も言わない。カヅチは顔を上げる。
「急ぎましょう!まだ……まだ終わりじゃない」
そして、倉庫の出口を見る。箒を握り直す。
「早く、あいつらが魔族を貯めている倉庫に行かないと…ドルンハイムが来る前に……」
ル・セポネと羅刹が頷く。そして違う倉庫に向かって走り出す。
◇◇◇
倉庫を出て、しばらく走る。
その先に、別の大きな倉庫があった。カヅチが足を止める。
「……ここです」
「ここにみんないるのか?」羅刹が尋ねる。
「みんなかは分からないですけど…前と同じなら……ここのはずです」
カヅチが扉を開ける。ギィィィ……その瞬間……
三人の目に、凄惨な光景が飛び込んできた。
大量の魔族の一部。腕。脚。角。翼。どこかしらの身体の一部。それらが、無造作に山積みにされている。
その光景を見てル・セポネが息を呑む。
そして、その目から涙が溢れた。
「……すまんなぁ……」一歩。また一歩と近づく。
「寂しかったろ……こんな所で……」
震える声、涙が頬を伝う。
「こんな王で……すまない……」
カヅチは何も言わず、ル・セポネの大きな背中を優しくさする。
「さぁ……みんなで帰りましょう」
「……うむ」ル・セポネが涙を拭う。
その横で、羅刹が天を仰いだ。
「うぉぉぉぉぉぉ!!サルヴェナ様ぁぁぁぁぁぁ!!」
カヅチとル・セポネが同時に振り返りツッコむ。
「「いや、まだ生き返ってないから」」
「……はい…そうでした…」羅刹が素直に頷く。
三人は倉庫の中へ入り、魔族の一部を大きな袋へ詰めていく。
「重いな……」「妾が全部持つ」
「いや、魔王様は休んでてください」
「しかし…お主ばかり頼っていては…」
「まだ魔力が戻ってないでしょう?」
「……うむ、魔力は無いが筋肉は裏切らない…」
「……どこかで聞いたような名言…」
三人で袋を背負う。そして、倉庫の外へ出ようとした、その時……目の前に、白い転移魔法陣が浮かび上がった。
「……っ!ドルンハイム!!」
カヅチが箒を構える。ル・セポネも構える。羅刹も大剣を握る。
白い光の中から、次々と人影が現れる。
先頭に立っていたのは、ドルンハイム。その後ろにはマシュー。そして、大勢の兵士たちが続々と転移魔法陣から現れ、三人を一瞬で取り囲む。
ドルンハイムが不敵な笑みを浮かべる。
「おやおや……」ゆっくりと倉庫の中を見渡す。
「せっかく集めた“我々の商品”を……泥棒はいけませんね……」
そして、ル・セポネへ視線を向け、口元を歪める。
「返して貰うよ……魔王!!」一歩、前へ出る。
続




