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第36話 間に合った掃除の時間


 450750部隊と、魔王ル・セポネ、羅刹の戦いは激しさを増していた。

「うおおおおおおっ!!」ル・セポネが大斧を振り回す。

 ドゴォォォン!!男たちが吹き飛ぶ。

 しかし、「まだまだやぁぁぁ!!」

 バイストが突っ込んでくる。

 その横からジャーブイも飛び込んだ。

「食らえぇぇぇ!!」ドゴン!!ル・セポネが腕で防ぐ。

「……っ!」僅かに身体が後退する。

「あらあら、魔王ちゃん?余裕なさそうやなぁ〜」

 バイストがニヤリと笑った。

「どうしたんや?それ、本気か?手抜いてる場合ちゃうで!」

 

 ル・セポネは眉をひそめる。

 明らかに、動きが鈍くなっていた。

「やかましいの…」身体に力を込める。

 だが、思うように力が入らない。

(なんじゃ……この力が抜けていく感覚は……)


 バイストはル・セポネを見て楽しそうに笑う。

「あははっ……あかんでぇ〜。“殴られたとこ”ちゃんと確認せんと…」

 そして、自分の首を指でちょちょんと触った。

「ほんで、大将が余裕で一人で来たら……なぁ?終わるで…」


「……?」ル・セポネが首元を見る。

 そこには、小さな針が刺さっていた。

 針には、何かの薬が塗られている。

「……こざかしい!」ル・セポネが針を引き抜く。

「こんな物で妾を獲れると思うなよ!!」

 ドォォォォン!!魔力が一気に爆発する。


「うおっ!?なんや!?まだそんな動けるんか?ドルンハイムのやつ安物渡したんとちゃうんかっ!?」

 ル・セポネが一気に距離を詰める。

「はぁぁぁぁぁっ!!」大斧が振り抜かれる。

 バイストとジャーブイが同時に飛び退いた。


 直後、ドゴォォォォン!!砂煙の中三人が再び激突する。顔を突き合わせるル・セポネとバイスト。

「大人しく死んどけや!!魔王!!」

「黙れっ!!全部返して貰うぞ!!」


◇◇◇


「魔王様ぁぁぁ!!」

 その少し離れた場所では、羅刹も苦戦していた。

「このデカブツ鬼!!」「ぐっ……!」

「ドルンハイム様が作った、この縄で縛り付けろ!!」

 何人もの男が一斉に飛び掛かる。

「離れろぉぉぉ!!」羅刹が大剣を振り回す。

 バキィン!!数人を吹き飛ばす。

 だが、別の男が背後から斬りつける。

「ぐっ……!」ザシュッ!!肩から血が流れる。


「どうだ!?ドルンハイム様の付与が付いた剣はお前らには効くだろう!?」

「はぁっん!!こんなもん……!」

 羅刹は振り返り、大剣を振る。

 しかし、「今だ!!」「縛れぇぇぇ!!」

 ブンッ!!巨大な縄が羅刹の身体へ巻き付く。

「ぐおおおおおっ!?くそっ!力が抜けるっ!!」

 一本。二本。三本と次々と縄が絡みついていく。


「こんな縄……!」羅刹が力を込める。

 ブチブチッ!!縄が軋む。その度に魔力が抜ける。

「まだだぁぁぁ!!」さらに別の縄が巻き付く。

「ぐっ……!」羅刹の身体が徐々に動かなくなる。


 それでも、片腕だけは離さなかった。

 その腕に抱えられているのは、サルヴェナの頭。

「……絶対に……サルヴェナ様だけは……渡さねぇ……!!」

 羅刹は歯を食いしばり、片腕に力を込める。


◇◇◇

 

 その頃、ル・セポネも、徐々に追い詰められていた。

「はぁ……はぁ……なんじゃ…動けん…」

 大斧を握る手に力が入らない。

 バイストの【月蝕拘界(げっしょくこうかい)】が、体の自由を絡め取っていく。


「どうしたんやぁ〜?」バイストが笑う。

「さっきまでの威勢はどこ行ったんや?」

「黙れ……!」

 ル・セポネが大斧を振るい、魔法を放つ。

 だが、ガキィィン!!ジャーブイが拳で弾く。

「遅ぇんだよ!!」「……っ!」

 ル・セポネの身体がよろめく。


 薬。月蝕拘界。そして、数の暴力。

 身体から、どんどん力が抜けていく。


「……妾が……こんなところで……」

 ル・セポネは膝をつきそうになる。

「魔王様ぁぁぁ!!」羅刹が叫ぶ。


「うるせぇぞ!!デカブツ!!」

 羅刹にも大量の縄が絡みつく。

 ギリギリギリ……!!

「ぐ……おおおおおおっ!!」それでも動かない。

 いや……動けない。ル・セポネも同じだった。

 大斧を握ることすら、もう苦しい。


 バイストがゆっくりと歩み寄る。

「あははっ…… ワイの勝ちやな……」

 その顔には、勝利を確信した笑みが浮かんでいた。

 黄ばんだ冷たい目でル・セポネを見下ろす。

「ドルンハイムの聖なる力は、お前ら魔族にはきっついやろ?…今、楽にしてやるわ」

 バイストはゆっくりと剣を抜く。

 ル・セポネはどうにかしようと必死に身体へ力を込める。


「……ぐっ……!」動かない。

「妾が……」もう一度、力を込める。

「……こんな、人間ごときに……!」

 だが、身体は動かなかった。


 羅刹も縄を引き千切ろうとする。

「ぐおおおおおおっ!!」ブチブチッ!!だが、切れない。

「くそっ……!魔王様ぁぁぁぁぁ!!」


 バイストが剣を振り上げる。

「ほな……さいなら!」

 ル・セポネの首へ狙いを定める。

 剣が一直線に振り下ろされた。


 その瞬間!!ガキィィィィィン!!


「……ん?」バイストの剣が弾かれた。

 何かが、ル・セポネの前に立っている。

 一本の箒を握った男。カヅチだった。

「あぶね……間に合った……」


 ル・セポネが目を見開く。

「……カヅチ……」そして、小さく呟いた。

「……すまん……手間をかける…」

 カヅチは優しい笑みでル・セポネを見る。

「……いいえ…こちらこそ…。少し休んでてください」

 そしてバイストへ厳しい視線を戻す。


「……なんや……カヅチちゃん…」

 バイストの顔から笑みが消える。

「えらい、かっこえぇやん……!」

 カヅチが魔力を込めた箒を振る。ドゴォン!!

「ぐっ!?」バイストが吹き飛ぶ。


 カヅチは箒を肩に担いだ。

「……ふぅ」そして、ぶつぶつ呟く。

「あぁ、本当は魔王を殺すために溜めといた技なんだよなぁ……それを救うために使うとは……これ見せたら絶対対策されるよなぁ……」

 カヅチは少しだけ頭を掻き、そしてル・セポネを見てため息。

「あぁ……また新しい技、開発しないとなぁ……」


 バイストが立ち上がり、剣を構える。

「何ぶつくさ言っとんねん!!早よそこどけ!!何ならお前がまだそいつの首、刎ねてしまいや!!」


 カヅチはル・セポネの前に立った。

 そして、親指をクイクイッとル・セポネへ向ける。


「悪いな……それは無理!魔王ル・セポネは、“今の俺の雇い主だ”」

 カヅチは手を振って笑い、箒を握り直す

「今、魔王を殺されたら……俺は無職だ」。

「………は?何やそれ!?」


 カヅチの表情が少しだけ真剣になる。

「それに……ある魔女に言われて、俺は世界を違う角度から見るようになった」


 真っ白な透き通る肌。真っ白な髪の魔女。

 あの日の言葉が、カヅチの頭をよぎる。


「ようやく……あの人の言ってることの意味の入り口が、分かった気がする」

 カヅチはバイストを見る。一歩前へ出る。

「ここで俺は死ぬ訳にはいかない。そして、魔王ル・セポネを殺される訳にもいかない」


 箒を構える。カヅチの目が鋭くなる。

「だから!全てを返し、俺たちを大人しく帰らせろ」 そして最後に、ニヤリ。

「最後の忠告だぞ……“北のホラ吹き勇者さん”!!」


 バイストの顔から、完全に笑みが消えた。

「お前……おもろいやんけ…この状況で“おあいこで帰らせろ”とは…… 随分ぼったくりやな!?」

 怒りに顔を歪ませる。剣を握り締める。

「ここでお前らは終わりやっ!!」

 ドンッ!!バイストが突っ込む。

 だが、カヅチは冷静だった。


「……ふぅ、」小さく息を吐く。

「……優しく言ったのにな…。【千秋待月(せんしゅうたいげつ)】!!」


 箒を地面へ突き立てる。ボワンッ!!

 カヅチを中心に、淡い黄色の半透明な魔法のドームが広がった。カヅチはドームを見る。

「まだこれだけしか溜まってなかったか…。」


「なんや……?それ……?」

 バイストがドームの中のカヅチに手を伸ばす。

 そして、触れた瞬間、動きが止まる。

 いや、完全に止まったわけではない。

 ゆっくり。ゆっくりと。静かに動いている。


 カヅチがバイストを見てニコッと笑った。


「うん!想像通り」自分の魔法を見ながら呟く。

 バイストの腕が、ゆっくりとカヅチへ近づいていく。

「このドームに触れたら……俺に届くまで……千日はかかるよ♪」

 カヅチは人差し指を立てる。バイストの顔が引きつる。


「な……」「終わりだ!!バイスト!!」

 カヅチが箒を構える。

「千日の時間の中で俺の攻撃を受け続けろっ!!」

「………っ!?」

「【刹那千秋(せつなせんしゅう)】!!」


 カヅチが箒の柄を突き出す。ドスッ!!

「ぐっ!?」バイストの身体が揺れる。

 さらに一突き。ドスッ!!

「がっ……!」

 また一突き。ドスッ!!

 見る見るうちに、バイストの身体に突かれた跡が増えていく。


「な……なんや……これ……!」

 バイストの身体は動いている。

 だが、遅い。あまりにも遅い。

 カヅチにとっては、ほんの一瞬。

 バイストにとっては、千日に等しい時間だった。

 その間にも、カヅチの箒だけが次々とバイストを捉えていく。

 ドスッ!ドスッ!ドスッ!

「ぐっ……!ぐあっ……!!」


 カヅチはゆっくりと歩き始める。

 一歩。また一歩。バイストの横を通り過ぎる。

 そして、何事もなかったかのように450750部隊へと近づく。

 その頃にはバイストが、ようやくドームを抜けた。

 抜けた瞬間、現実の時間に戻され、バイストの身体は一気にボロボロになった。

 膝がガクガクと震える。立っていることすら出来ない。

「……はぁ……はぁ……何や…この技…」

 ドサッ。バイストが地面へ崩れ落ちる。


 カヅチは振り返らない。そして……

 450750部隊へ視線を向けて、箒を構えた。

「さぁ?ゴミ掃除の時間だ……!!」

 カヅチはニヤリと笑った。



            続

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