第35話 立派な王の器ではない
➖➖プツン。ル・セポネの中で、何かが切れた。 先ほどまでの表情から、笑みが消えている。
その身体から、禍々しい魔力が噴き出した。
ゴォォォォォ……!!
「……サルヴェナ……様?」
羅刹が、テーブルの上に置かれた“サルヴェナの頭”を見る。そして……顔を上げた。
「……てめぇら……ふざけやがって!!」
拳を握り締める。羅刹の全身から真っ赤な怒気が溢れ出す。
一方、ル・セポネはゆっくりと歩き始めていた。
その手には、すでに魔力が集まり始めている。
「ダメだっ!!」カヅチが叫んだ。
「魔王!やっちゃダメだ!!」
カヅチの声にル・セポネの足が止まる。
ゆっくりと、カヅチを見る。
その瞳は、今まで見たことがないほど冷たかった。
「ここで全員殺してしまったら……また血の三百年を続けることになってしまう!!自分でも分かってるんだろ!?だから、人間を殺すのをやめたんだろ!?」
カヅチは必死に叫ぶ。ル・セポネは何も言わない。
「魔王がいれば、全員生き返る!そうでしょ?サルヴェナさんも……!だから!全部返して貰って、みんなで帰ろう!!」カヅチは叫ぶ。
「…………」しばらく沈黙した後。
ル・セポネが、静かに口を開いた。
「……カヅチよ」「……はい」
「確かに……妾がいれば、魔族なら全員生き返る」 ル・セポネは、テーブルの上のサルヴェナを見る。
「でもな……その時に味わった恐怖や痛みまでは……妾でも取り除いてやれぬ」
その声が、少しだけ震えた。
その瞬間。ル・セポネの横に、黒い渦が現れた。
「……!」ゴォォォォ……。
その中へ、ル・セポネが腕を突っ込む。
そして、ズズズズズ……。何かをゆっくりと引き摺り出した。
巨大な大斧。禍々しい魔力を纏った、巨大な戦斧だった。
「きっと……」ル・セポネは大斧を握る。
「ここで偉大な王なら、カヅチの言葉に耳を貸し……改心し、静かに帰るのだろうな……」
大斧を、ゆっくりと肩へ担ぐ。
「だが……妾を信じ……人間を殺さず死んでいって……」
その瞳が鋭くなり、一瞬、声が詰まる。
「尚も、世界のどこかを彷徨っている者を思うと……」
ル・セポネの魔力が膨れ上がる。
「妾は……我慢が出来んのじゃぁぁぁ!!」
ドォォォォォォォン!!
大斧が、一気に振り下ろされた。
倉庫の天井が裂ける。壁が裂ける。テーブルが切れ、床まで一直線に斬り裂かれた。
「うおおおおおおっ!?」「避けろぉぉぉ!!」
450750部隊が一斉に飛び退く。何人かは吹き飛ぶ。轟音と共に、倉庫そのものが大きく揺れる。
ル・セポネは、大斧を肩に担いだ。そして、カヅチを見る。
「……カヅチよ」「……はい」
「どうやら妾は……立派な王の器ではないようだな……」
少しだけ、寂しそうに笑いカヅチの目を見る。
「どちらに付いても構わぬ…お主は人間なのだからな」
「……魔王……」
ル・セポネはカヅチに背を向ける。
「様をつけろ……。カヅチ…お主が来てから、今まで、楽しかったぞ」
寂しそうなル・セポネの顔を見てカヅチは何も言えなかった。そんなカヅチを背中で見ながら、ル・セポネは羅刹へ声を飛ばす。
「羅刹!!」「おう!!」
「サルヴェナの頭を死んでも守れ!」
羅刹がテーブルを見て、サルヴェナの頭を確認する。
「それがなきゃ、妾でも何も出来ん!」
「了解!!」羅刹は大剣を構える。
「魔王様……全員殺しても?」
「…………」ル・セポネが振り返る。
「……構わん!皆殺しじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うおおおおおおおおおおっ!!」
ル・セポネと羅刹が同時に駆け出す。
450750部隊も一斉に構えた。
「迎え撃てぇぇぇ!!」「殺せぇぇぇ!!」
ドゴォォォォン!!激突。
倉庫内に激しい衝撃音と悲鳴が響き渡る。
「ぐあああああっ!!」「ひぃぃぃぃっ!!」
「うおおおおおっ!!」
その混乱の中、バイストが笑った。
「あははっ!!まさか、魔王まで来るなんてなぁ!」
嬉しそうに肩を震わせる。そしてカヅチを見る。
「カヅチちゃ〜ん、お手柄やん☆……。魔王!次は負けへんでっ!!」バイストの笑顔が歪む。
ドンッ!!バイストがル・セポネへ突っ込む。
その後ろをジャーブイが追う。
「俺も行くぜぇぇぇ!!」
「……こざかしい……!」
ル・セポネが手を翳し、魔力を放つ。
バァンッ!!空間そのものが弾け飛ぶ。
「うおっ!?」バイストが横へ飛ぶ。
ジャーブイも紙一重で躱す。
その瞬間、左右から二人が同時に襲い掛かった。
「もらったでっ!!」
バイストの蹴りがル・セポネの顔へ。
ジャーブイの拳が腹へ。
ドゴォォォン!!ル・セポネは腕を交差させ、防御する。
「……ちっ!魔人化共が……」
大きく後退すると、ル・セポネが二人を睨む。
「その力、どれだけ我らを喰らっているのだ……」
「あははははっ!お前らは美味いからなぁ〜!」
バイストが笑い、舌なめずりする。
「なぁ?魔王……お前は……」ニヤリ。
「“どんな味だ!?”あはははははっ!!」
ル・セポネの眉がピクリと動く。大斧を握り直す。
「…………なら」大斧を振りかぶる。
「食ってみろ!!」凄まじい魔力が大斧へ集まる。
「二度と忘れられぬ味だぞっ!!」
「【月蝕拘界】!!」バイストが手を翳す。
ズズズズズ……!!光の輪が大斧へ絡みつく。
大斧の動きが、止まった。
「……っ!」
二人はル・セポネのその隙を逃さない。
「おらぁぁぁ!!」ジャーブイが横から拳を叩き込む。
ドゴォン!!ル・セポネの身体が僅かに揺れる。
そして、ル・セポネがジャーブイを睨んだ。
「生意気な人間が……同じ形で死ねると思うなよ!」
睨み合う三人。誰も一歩も引かない。
◇◇◇
その頃➖➖羅刹は、サルヴェナの頭を守るために450750部隊と激しく戦っていた。
「うおおおおおおっ!!近づくんじゃねぇぇぇ!!」
巨大な剣が男を吹き飛ばす。
「サルヴェナ様には……指一本触れさせねぇ!!」
◇◇◇
一方➖➖カヅチは、必死に自分の手を握り締める。
「くっ……!」そして開く。
「…………」もう一度握る。
「……あと少し……」また開く。
自分の身体の中にある魔力を感じる。
「あと少しで戻る……!」カヅチは歯を食いしばる。
「くそっ……!」再び手を握り締める。
「早く……!」魔力は、確かに戻り始めている。
「早く戻れっ!!」カヅチは必死に魔力を呼び戻す。
戦場では、ル・セポネが戦っている。羅刹も戦っている。450750部隊も戦っている。
そして、カヅチは、ただひたすらに待っていた。
自分の力が戻る、その瞬間を。
「……頼む……!間に合え!」
あと少し。あと少しで……戻る。
続




