第33話 危険人物は死んだはず
カヅチとジャーブイが、同時に地面を蹴った。
「「うおおおおおおっ!!」」
ジャーブイが拳を振り抜く。ビュォォォ!!
凄まじい拳が空気を切り、カヅチの顔面を狙う。
しかし……「遅い」
カヅチは身体を僅かに傾け、その拳を紙一重で躱した。そのまま懐へ入り込み、箒の柄をジャーブイの足元へ滑らせる。
「なっ!?」「……そこだ!」グンッ!!
「うおっ!?」
ジャーブイの足が払われる。巨体が大きく傾いた。
ドォォン!!「ぐっ……!」
ジャーブイの身体が地面へ叩きつけられる。
カヅチは箒を肩に担ぎ、倒れたジャーブイを見下ろした。
「どれだけ力があっても……当たらなきゃ意味ないな」
「……て、てめぇ……!」
ジャーブイが歯をギリギリと鳴らしながら睨み上げる。
だが……カヅチは、まるで相手を見下すような目をしていた。力の差は歴然だった。
そして、カヅチは手をクイクイと動かす。
「あまり、時間がない」「……あぁ?」
「早く来い」カヅチは箒を構える。
「来ないなら……俺から終わらせてやる!」
「上等だぁぁぁぁ!!」ジャーブイが立ち上がる。
その瞬間、カヅチが踏み込んだ。
「遅い」「ぐっ!?」箒が脇腹を捉える。
ドゴォン!!「ぐあっ!」さらに一撃。
「がっ!?」もう一撃。
「ぐおおおっ!?」箒が何度も振り抜かれる。
まるで掃除でもするかのように。
いや……本当にゴミを掃除するかのように。
カヅチはジャーブイを滅多打ちにしていく。
「くっ……!この野郎ぉぉぉ!!」
ジャーブイが拳を振り回す。しかし、当たらない。
カヅチは一歩、半歩、僅かな身体の動きだけで攻撃を躱していく。
そして……「終わりだ!」
箒の柄がジャーブイの顎を跳ね上げた。
「ぐはっ!?」巨体が宙へ浮く。そのままドォン!!と地面へ落ちる。
「……ぐ……」ジャーブイは起き上がれない。
カヅチはゆっくりと近づき、その胸を足で踏みつけた。
「ぐっ……!」ジャーブイの身体が地面へ沈む。
「遊んでやれなくて悪いな……急いでるんだ」
カヅチの声は、冷たかった。足に力を込める。
「ジャーブイ…最後の質問だ…昔、俺が連れてきた魔女は……今“どこにある?”」
ジャーブイを冷たい目で見下ろす。
「……し、知らねぇ……本当に知らねぇんだ……!」
カヅチの足が、さらに沈む。
「ぐああああああっ!!」
「時間がない。答えを間違えるなよ……」
「や、やめろっ!!本当に知らねぇ!!ぐあああああっ!!」
カヅチはさらに力を込める。
このまま踏み抜けば、肺も、心臓も潰せる。
「そうか……知らないなら、用無しだ」
「ひっ……!」カヅチの目が細くなる。
「ジャーブイ……魔族を喰い過ぎて……」
そして、吐き捨てるように言った。
「“白目が黄ばんでるぞ”」
「……は?」
その目には、いつもの優しいカヅチはいなかった。
冷たい。ただ、冷たい。カヅチが一気に足へ力を込める。
「や、やめぇ!やめぇてぇぇぇ!!」
「なんやぁ〜」「……っ!?」
その瞬間、カヅチの耳元で、声がした。
「随分気張っとるやないのぉ〜……カヅチちゃん?」
「➖➖っ!!」
カヅチは咄嗟に飛び退いた。距離を取る。
その声に額から、冷や汗が流れる。
「……バイスト、……あんた……死んだはずじゃ……」
そこに立っていたのは……
金髪のマッシュルームカット。
細く、糸のような目。口元には、薄い笑み。
「ん?」バイストが首を傾げる。
「死んだ?」そして、倒れているジャーブイを見る。
「ワイが?ジャーブイ?ワイ、死んだんか?」
バイストは、ケラケラと笑い出した。
「あははっ!なんやこいつ!可笑しなこと言いよんなぁ!」
カヅチは何も答えない。ただ、バイストを見つめていた。その表情には、明らかな動揺があった。
そして…サルヴェナを見る。
ほんの一瞬。目だけで伝える。““逃げろ!!””
サルヴェナはすぐに察した。
「……っ」静かに後退する。そのまま走り出そうとした。
「こらこら……あかんでぇ〜」バイストが笑う。
「“商品”が逃げたら、ワイらおまんま食い上げや」
バイストが手のひらを掲げる。淡い光が集まっていく。
「【月蝕拘界】!!」
パァン!!真っ黒な光の輪がサルヴェナの身体へ絡みついた。
「な、なにこれ……!?」
サルヴェナの身体が一瞬で拘束される。
「サルヴェナさん!!」カヅチが駆け出す。
「カヅチちゃ〜ん♪君も、あかんでぇ〜」
バイストが笑う。
「……っ!」カヅチは飛んできた光の輪躱す。
一つ。二つ。三つ。「くっ……!」
しかし……四つ目。
「……しまっ!」光の輪が足へ絡みつく。
「ぐっ……!くそっ!」さらに腕。身体。箒。
あっという間にカヅチも拘束された。
「……くそっ!」力を込める。だが、外れない。
「カヅチ……!」
「サルヴェナさん!大丈夫ですか!?」
「うん……でも、これ……全然外れない」
バイストは二人を見ながら、楽しそうに笑っている。
「ジャーブイ」「……あぁ……」
地面に倒れたジャーブイが、苦しそうに答える。
「連れて行けや」「……悪い。手間かけた……」
「かめへん!かめへん!」バイストは軽く手を振る。 そして……サルヴェナへ視線を向けた。
「今日は楽しいパーティーやないか?なぁ?魔女さん?」
細い目が、ゆっくりと開く。その笑顔は、どう見ても人を歓迎するものではなかった。
「何がパーティーよっ!私が狙いでしょ!?カヅチは離しなさい!!」
サルヴェナはバイストを睨みつける。
バイストは、それを見て嬉しそうに笑った。
「あははっ!ええ顔するやないのぉ〜。ゾクゾクするなぁ〜。今すぐでも楽しみたくなるやんけ……あかんあかん、我慢せな…」
そして、二人の視界を黒い布で覆う。
「それじゃあ……行こかぁ」
「……何をする気だ……」カヅチが低く呟く。
「あははっ!知っとるくせに?さぁ?楽しいパーティーや。やかましいから少し寝とき」
バイストは笑いながらカヅチとサルヴェナに何かを注射する。カヅチとサルヴェナは、何も見えないまま連れて行かれていく。
どこへ向かうのか。何が待っているのか。
二人には、まだ分からなかった。
ただ一つ。薄れゆく意識の中でカヅチだけは分かっていた。転生勇者SSランク、拘束のバイスト。
こいつだけは……絶対に、関わってはいけない男だった。
続




