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第32話 知らなかった…それでも


 ジャーブイが現れたことで、カヅチ達の状況はさらに悪くなった。

 前にはジャーブイ。後ろには、追いかけてきたドルンハイム戦闘員たち。

「うっわぁ…逃げ道……ないね」サルヴェナが呟く。

「ですね……でも逃げないと…」カヅチは箒を構え直す。


 その瞬間!!「捕らえろぉぉぉ!!」

 戦闘員の一人が、カヅチたちへ飛び掛かった。

 だが……「おいっ!!」ドゴォン!!

「ぐあっ!?」突然、その戦闘員が横から吹き飛ばされた。

 拳を振り抜いたのは、ジャーブイだった。

「こらこら……」ジャーブイが低い声で笑う。

「こっから先はお前達は踏み込んだらダメだろうが……お前らは専門外だろ?ドルンハイムの乞○供が!!」

 倒れた戦闘員を見下ろす。そして、右首を指差す。

 そこには……450750。黒い数字の刺青が刻まれていた。

「なっ……!?」戦闘員たちがざわめく。

「おいっ!そこを退け!!ジャーブイ!我々の邪魔をするなっ!黒匣會(こくこうかい)の爪弾き供が!!」一人が剣を構えた。


「おうおう……」ジャーブイの笑みが深くなる。

「乞○の兵隊が随分と舐めた口聞くじゃねぇか」

 ゆっくりと一歩、前へ出る。

「“魔女”は俺たちを通さねぇと、“商売”しちゃいけねぇルールじゃなかったかい?おうっ!?なんか言ってみろよ!?」ジャーブイが怒鳴る。

「…………」戦闘員達は何も言えず立ち尽くす。

「これ以上はマシューを連れて来い!!」

 その迫力に、戦闘員たちがたじろぐ。


「で、でも……!その魔女をドルンハイム様にお届けしないと……!」

 戦闘員の一人が声を上げる。

「あぁ!?ドルンハイムの命令がなんだ!俺たちの部隊には関係ねぇ!魔女は俺たち…分かってんだろ?」

 ジャーブイと戦闘員たちが睨み合う。


 その隙に、「……今だ」カヅチが小さく呟いた。

「え?」「走りますよ!」

「うん!」二人は一気に駆け出した。


「なっ!?」「逃げたぞ!!」「追えぇぇぇ!!」

「ジャーブイ!お前のせいだぞ!!」

「うるせぇな!!お前らは家帰って寝ろっ!」

 怒号を背中に受けながら、カヅチとサルヴェナは倉庫の奥へと走っていく。


◇◇◇


「ふぅ……」しばらく走ったところで、サルヴェナが息を吐く。

「何とか逃げられそうね……」

「そうですね…。でも、まだ油断しないでください」

 カヅチは後ろを確認する。追手の姿は、まだ見えない。二人はまた小走りで並んで走る。

「……ねぇ、カヅチ」「はい?」

 サルヴェナが少しだけ真剣な顔をする。

「あいつが言ってた魔女狩りの話……本当なの?」

「…………」カヅチの足が止まった。

「ジャーブイが言ってたことですよね…」

「うん。本当に……昔、魔女狩りをしてたの?」

 カヅチはしばらく黙っていた。そして……。

「……本当です」「……本当なんだ…」

「でも……俺は知らなかった」「知らなかった?」

「はい。始まりは……ギルドから受けた、一件の魔族討伐の依頼でした…」


◇◇◇


 あの日、カヅチ達はある一人の魔女を追い詰めた。


「ふぅ、……どうやら、ここまでのようですね」

 森の奥。一人の魔女が、カヅチたち勇者パーティーの前に立っていた。

 真っ白な透き通る肌。真っ白な髪。その顔には、気品があった。

 そしてその顔には追い詰められていても一切の怯えがなかった。

 カヅチは剣を構えたまま、魔女を見つめる。


「はぁあ、魔王様に言われてなければ……こんな者、瞬殺なのですが……」魔女は小さく笑った。

「……戦わないのか?」カヅチが尋ねる。


「えぇ。“人間に手を出すな”と言われていますので… どうぞ。お好きに」

 魔女はあっさり答えた。

 カヅチは眉をひそめた。隣にいる仲間たちを見る。

 仲間たちも、困惑したように顔を見合わせている。

 魔女はそんなカヅチを見て、静かに微笑んだ。


「うふふ。勇者…何を迷うのですか?私を殺すために見つけ、追いかけ、そして追い詰めたのでしょう?」

「………」カヅチ達は何も答えられない。


「人は……目的地に着いた時…それが理想とかけ離れていればいるほど……見失うものです」

 魔女は一歩だけ近づく。

「くっ!……何をだ!?」

「うふふ。自分が、“何を求めてここまで来たのか”をです」

 カヅチは黙った。そして、ぽつりと尋ねる。

「……魔族ってのは……人間が嫌いじゃないのか?」


 魔女は少しだけ考えた。

「……嫌いな者もいます。中には、仲良くしたいと思う者も。ほっといて欲しいと考える者もいます。魔族と一括りにすると……何も見えてきませんよ」

 魔女は穏やかに笑った。その笑顔は、人を楽しんで殺すような者には、とても見えなかった。

「さぁ、早く殺しなさい。何を求め、何を失い、何を手にするか…迷いの中にその答えがあるかもしれませんね…」

 

 カヅチは無言でゆっくりと手を伸ばした。

 そして、そっと魔女の手に触れる。

「……もし」「はい?」

「もし……また会えたら、……魔族のことを教えてくれる?」カヅチは静かに言った。


 魔女はその言葉に目を丸くした。そして……

「ふふふ……変わった勇者ですね」小さく笑う。

「えぇ、いいですよ」「……ありがとう」

 カヅチは静かに微笑んだ。

「安心してくれ…何の痛みもない…【一日千秋・眠】!!」

 魔女の瞳がゆっくりと閉じる。

 その身体から力が抜けていく。

 カヅチは倒れかけた魔女を抱き留めた。

「……よし、行こう…」


 そして魔女を抱えたカヅチが向かった先は……

 黒匣會。450750部隊の元だった。


◇◇◇


「…………」

 話を聞き終えたサルヴェナは、何も言わなかった。

 しばらくして、ぽつりと口を開く。

「カヅチは……魔女狩りを楽しんでたわけじゃなかったのね」

「……はい。」カヅチは俯く。

「許してくれとは言いません。だけど……俺が犯してきた罪は……」カヅチは顔を上げる。その瞬間。

「追いついたぞぉぉぉ!!」「っ!?」

 背後からジャーブイが飛び出してきた。

 カヅチは反射的に箒を振るう。ドゴォン!!

「ぐっ!?」ジャーブイの身体が弾き飛ばされる。


 その隙に、カヅチはサルヴェナを見る。

「俺が犯してきた罪は、必ず償う!」箒を握り直す。

 そして、ジャーブイを睨みつける。


「忘れてるみたいだな……ジャーブイ」

「あぁん?何をだよ…?」

 カヅチがニヤリと笑う。

「俺が、SSランクの勇者だってことをだよ」

 ジャーブイの眉が動く。


「魔力を奪われたぐらいでは……Aランク程度じゃ勝てないよ」カヅチは箒を構える。

「…………」数秒の沈黙。


 そして、ジャーブイが拳を振り上げる。

「面白いっ!!やってみろよ!!」

 カヅチは一歩、踏み込む。

 サルヴェナは一歩下がり立つ。手に魔力を溜めようとする。

「……まだ戻らないか…」

 その瞳が、静かに細くなった。



            続

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