第27話 黒匣會(こくこうかい)
北の城➖➖
カヅチは黙々と掃除と修復を続けていた。
「【修復】!!」バキバキに崩れていた壁が、元の形へ戻っていく。
「【修復】!!」折れていた柱が、元通りに立ち上がる。
「【水拭き】!!」床に残っていた埃が、一瞬で消えていく。
「【血液除去】!!【高圧洗浄】!!」周りに飛び散った血や汚れが消えていく。
「……よし」カヅチは額の汗を拭った。
そして、ふと手を止める。周囲を見渡す。
まだまだ崩れた壁。折れた柱。大きく抉れた床。天井には巨大な穴。
「はぁ……どうやったら、こんな壊れるんだ……?城一つ壊す会議って……なんだよ……」
首を傾げ、呟きながらも、手は止まらない。
「まぁ、全部直して掃除すればいいか」
カヅチは再び箒を動かした。
そして、修復した壁を見て……。
「……うん。魔王様が言ってたのはこれだな…」
何かを思いついたように頷く。
「確かにちょっと辛気臭いな……上手くいくかな…」
カヅチは【修復】しながらイメージしていく。
花柄の壁紙。小さな花瓶。可愛らしい模様の壁。
北の城に、少しずつメルヘンチックな空間が増えていく。
「おお……上手くいった!これはこれで良いな」
「おいぃぃぃぃ!!カヅチぃぃぃぃ!!」
突然、羅刹の叫び声。
「そんな風に直すと、サルヴェナ様に殺されるぞ……!」
「……?これは魔王命令です!」カヅチは胸を張る。
「えっ?魔王様命令…なの?」
「はい。辛気臭い所は模様替えしろと!」
「…………」羅刹はしばらく黙っていた。
「……サルヴェナ様が怒ったら逃げろよ」
「え?」「俺、止めらんないからな……」
「……そこは止めてよ……」「嫌だ」
「即答!?」「俺、まだ死にたくない……」
「俺だって死にたくないですよ……」
二人は顔を見合わせる。
「「…………」」そして、同時にため息を吐いた。
「まぁ……直しますか…」「おう……そうだな…」
再び二人は修復作業へ戻った。
そして掃除は夜まで続いた。
◇◇◇
「……ふぅ」カヅチは汗を拭った。窓の外を見る。
いつの間にか、空は真っ暗だった。
「すっかり夜か……」「おーい!カヅチ!」
遠くから羅刹の声が聞こえる。
「晩飯だ!飯食ってけっ!」
「はーい!ご馳走になっていきます!」
カヅチは箒を肩に担ぎ、羅刹と一緒に食堂へ向かった。すると……
「……随分と励んでるわね……」「え?」
廊下の向こうから、点滴を押しながら歩いてくるサルヴェナ。
「サルヴェナさん!?動けるんだ」
「いや、無理矢理動いてる…」羅刹が呟く。
「…………」サルヴェナは周囲を見渡す。
そして、花が飾られた壁に手を触れた。
「………綺麗…」そして数秒の沈黙。
「って……なんだ!お前ら!このメルヘンチックな内装はっ!!」
「うわっ!怒った!?」「サルヴェナ様!?」
大声を出した瞬間、サルヴェナの身体が軋む。
「ぐっ……!痛い…」
「ちょっ!無理しないでください!」
羅刹が慌てて駆け寄る。
「落ち着いて……俺、けっこう好きですよ…この内装……」
「お前の好みなど聞いてない!」「はい……」
「ちっ!まぁいい。早く食堂に行くよ!私は腹が減った!」
「はいはい……今日はサルヴェナ様が好きな大釜パンプキンシチューですよ☆」
「……だから起きて来た…」「…知ってたよ!」
サルヴェナは羅刹の尻を蹴る。「いてっ!」
カヅチは苦笑しながら二人についていった。
◇◇◇
賑やかな食堂➖➖
テーブルには豪華な食事が並んでいた。
サルヴェナ、羅刹、カヅチの前には、それぞれ豪華な料理。そしてサルヴェナ大好き大釜パンプキンシチュー。
その周囲では、ゴーストやスケルトンたちがガヤガヤと飯を食べている。
「……へぇ」カヅチは少し意外そうに周囲を見る。
「サルヴェナさんって、みんなと食べるんだ……」
「はぁ?」サルヴェナは不思議そうな顔をして、パンをシチューに浸す。
「ご飯はみんなで食べたほうが美味しいでしょ?一人で食べるご飯ほど、味のしないものはない」
カヅチは少しだけ目を細める。
「……そうですね」カヅチもパンを手に取った。もしゃもしゃ。羅刹も食べる。もしゃもしゃ。
しばらくして……
「サルヴェナさん?一つ聞いてもいい?」
「ん?いいけど…」
「何で魔王様と喧嘩になったの?」
サルヴェナの手が止まる。
「……何でって?」シチューを一口飲む。
「あいつが“コレクター”を探さないからだよ。それに私にコレクターを探すことを禁じてるから……」
少しだけ視線を落とす。
「そして……お姉ちゃんのことも忘れろと言ったしな……忘れられるかよ…本当ムカつく……」サルヴェナは小さく呟いた。
「そうだったんだ……」カヅチもシチューを飲む。
「その“コレクター”って……人間だよね?」
「あぁ」サルヴェナは頷いた。
「姉をやった奴の風貌も調べたから大体分かる」
「……どんな?」
「首に……“450750”の刺青」
「…………」カヅチの手が止まった。
「…………」サルヴェナと羅刹が、カヅチを見る。
「……どうした?心当たりあるのか?」
「少しね……」カヅチは少し考えてから顔を上げる。
「そのコレクターって……たぶん人間の世界だと“収集家”って呼ばれてる奴らだと思う…。その数字が入った人間も見たことある…。そして、その全体の組織の名前は……」
カヅチが顔を上げて言う。
「黒匣會」
「「…………!?」」
サルヴェナと羅刹の目が大きく開く。
「……お前!!」サルヴェナが身を乗り出す。
「そこに繋がってるのか?」
「まさかっ!」カヅチは慌てて両手を振る。
「黒匣會が悪い組織ってのは聞いてる。でも……珍しい武器や防具、素材が手に入ったりするのも確かだから……気にはなっていた。ただ、怪しい噂が多いから、黒匣會から買ったことはないけど……」
カヅチは少しだけ表情を曇らせる。そして、ハッと気づく。
「……まさか…?そこに……魔物が……?」
「あぁ……」サルヴェナが答える。
「そこに、お姉ちゃんは捕まったんだ……」声が震える。
「たとえ死んでいても……少しでもお姉ちゃんの肉体が残っていれば……」サルヴェナは唇を噛む。
「魔王…セポちゃんに頼めば、生き返らせられる…。でも……何も見つからない……何も……」
サルヴェナの目から、涙が溢れた。
カヅチは黙ってスープを見つめる。
そして……一気に飲み干した。
「ご馳走様!美味しかった!明日、行ってみようか?」
「「えっ?………」」サルヴェナと羅刹が固まる。
「そこに詳しい知り合いなら居るからさっ!」
「「えぇぇぇぇぇ!?」」
「本当か!?」「うん」カヅチは笑う。
「俺は怪しいから黒匣會から買ったことはないけど、一回、紹介しようかって言われたことはあるから!場所も覚えてるしね☆」そして親指を立てる。
「よし!すぐ行こう!!」サルヴェナが立ち上がる。
「サルヴェナ様!まだ治療中ですよ!?」
「なら!明日行こう!点滴も明日の朝には終わる!」
「いやいや……」羅刹が頭を抱える。
「そんな勝手なことして、また魔王様にバレたら滅多打ちですよ……」
「ふふふ……」サルヴェナがニヤリと笑う。
「次は私が殺す!」「こんだけやられてんのに!」
二人の会話を聞いてカヅチは青ざめる。
「あの〜?バレたら……俺も殺されるのかな……?」
「気にするな!」サルヴェナが胸を張る。
「その時は私が守る!」「……無理だよ…」
そして、サルヴェナは拳を握った。
「よし!決めた!明日行くぞ!!」
そしてカヅチを見る。
「それまでに城の修復を終わらせとくんだよ!」
シーンとなる食堂。カヅチは静かにスプーンをテーブルに置いた。
「はぁ……魔族って、めっちゃこき使うのね……」
「カヅチ……」羅刹がカヅチの肩をそっと抱く。
「俺も手伝うよ……」「羅刹さん……」
「だから……俺たちを嫌いになるな……」
少しだけ寂しそうに笑う。
カヅチはその顔に一瞬だけ驚いた。
そして……「うん……」小さく笑った。
明日。カヅチたちは、黒匣會へ向かう。
続




