第25話 魔王様帰って来ました。
玉座の間➖➖
ル・セポネとサルヴェナが、向かい合っていた。
互いに動かない。ただ、空気だけが重くなっていく。先に動いたのは、サルヴェナだった。
「サルヴェナ。……手を抜くなよ…ちゃんと殺す気で来い!!」
「本当に死んでも化けて出るなよっ!!」
無数の魔法の玉が、ル・セポネに向けて一斉に放たれた。
ドドドドドドドドッ!!
「ふんっ!」ル・セポネが大きな斧を振り抜く。
迫り来る魔法の玉を、まとめて一蹴。
爆発音が玉座の間に響き渡る。
「……こんな物で妾を殺す気なのか?」
ル・セポネが前を見る。
そこに……サルヴェナはいなかった。
「……っ!?」その瞬間。
「セ〜ポちゃん♪」
ル・セポネの懐。いつの間にか、サルヴェナが潜り込んでいた。
「ちゃ~んと殺す気だよっ!跡形も残らないかもね〜♪」
両手いっぱいの禍々しい魔法の玉。
それを、ル・セポネの腹へ押し当てる。
「ンッ!」ル・セポネの顔が一瞬だけ引き攣った。
ドンッ!!至近距離で爆発。
だが……「……甘いわっ!!」
ル・セポネが腹に力を込める。
魔法の玉が、ぐしゃりと消滅した。
「なっ…嘘でしょ!!どわっ!?」
そのままサルヴェナの襟首を掴む。
「サルヴェナ…少し痛いぞ!!」
ぶんっ!!大きく振りかぶり……ドガァァァン!!
そのまま力任せに地面へ叩きつけた。
床が大きくひび割れ、その中心が大きくへこんだ。
「ごはっ!!」サルヴェナの口から血が飛ぶ。
「サルヴェナ!まだだぁぁぁ!!」
サルヴェナが見上げると、ル・セポネの足が踏み込む。その足が、サルヴェナの頭へ落ちる。
ドガァァァァン!!サルヴェナは寸前で転がり、回避。
「あっぶね〜!頭潰す気じゃん!?本気だね?」
サルヴェナが空中で身体を捻る。
魔法の玉を三つ。五つ。十。一気に放つ。
「消し飛べえぇぇぇ!!」「遅いな!」
ル・セポネが斧を振るう。魔法を弾き飛ばす。
その隙にサルヴェナが背後へ回る。
「こっちだよ!」
魔法陣。巨大な黒い槍が出現する。
「全く…同じ姑息な真似を…!!」
ル・セポネへ突き刺さる。ガキィィィン!!
しかし、ル・セポネは斧の柄で受け止めた。
「ふぅ……少しは強くなったか?サルヴェナ?」
サルヴェナの目が見開く。
「うっせぇぇぇぇ!!いつまでも見下してんじゃねぇぞっ!!」さらに魔力を込める。
「お前っ!絶対ぶっ殺す!!」
サルヴェナの両手から魔法陣が次々と展開する。 炎。雷。黒い刃。それらが放たれ一斉にル・セポネへ襲い掛かる。
「ふっ!面白いなぁ…」ル・セポネは笑った。
斧を振る。拳を振る。蹴り飛ばす。魔法を消し飛ばす。
「さぁて、お説教の後は教育じゃな!!」
◇◇◇
サルヴェナはル・セポネに何度倒されても立ち上がった。血を吐いても。腕が痺れても。足が震えても。
「まだ……だぁぁぁ!!」そしてまた、魔法を放つ。
ル・セポネはそれを真正面から受け止める。
何度も。何度も。やがて……ル・セポネの脳裏に、ひとつの考えが浮かぶ。
(そうだ…妾に全部吐き出せ……部下の気持ちを受け止めてやるのも……)
「うおおおおおお!!」サルヴェナが吠える。
「全て王の務めだ……!」ル・セポネが踏み込む。
そして……一時間以上戦いは続いた。
◇◇◇
サルヴェナの城は、見る影もなかった。
壁は崩れ。柱は折れ。床には巨大な亀裂が走っている。天井には大穴。玉座の間だった場所は、もはや玉座の間だった何かである。
その中央にサルヴェナが大の字に倒れていた。
全身、血だらけ。髪はボサボサ。服はボロボロ。
「サルヴェナ様!」羅刹が駆け寄る。
その少し先には…傷だらけになりながらも、堂々と立つル・セポネ。いわゆる、魔王立ちである。
「ふぅ……」ル・セポネは肩を回す。
「サルヴェナ…もう終わりでいいか?」
「…………」サルヴェナは震える腕を上げた。
そして……ピンと中指を立てる。
「うるさい……もう火の玉、一つも出ないよ……」
「ふふ……そうか…なら、妾は城に戻る」
ル・セポネは小さく笑い、ボロボロになったマントを翻す。
「では!引き続きこの地を頼んだぞ」
その背中を見つめるサルヴェナ。
やがて、小さく呟いた。
「……いつもありがとう……」
ル・セポネは振り返らない。
「……気にするな…」
そして、そのまま歩いていった。
サルヴェナは起き上がろうとする。
しかし、「ぐっ……」身体が動かない。
羅刹が静かに尋ねる。
「サルヴェナ様。しばらく……一人にしますか?」
サルヴェナの目に、みるみる涙が溜まる。
「うわぁぁぁぁぁん!!」
「うわっ!また泣いた!」羅刹は頭を抱える。
「くっそっ!また負けたぁぁぁぁぁ!!」大号泣。
「あいつ、何であんな強いんだよ!?」
「えっ?魔王だからじゃないっすか?」
「はぁ!?理由にならない!魔王って、あんな強くないとなれないの!?」サルヴェナが涙目で睨む。
「まぁ……そうじゃないっすか?王ですから…」
「化け物じゃん!?」「…………」
「怪物じゃん!?」「…………」
「うわぁぁぁぁ!! くそっ!!」
サルヴェナは地面を叩こうとする。だが、体が動かない。
「どっかのアホな転生勇者でも乗り込んでこないかな!?めためたにぶっ殺したい気分だよ!!」
「まぁまぁ…紅茶でも飲んで……落ち着いて…」
羅刹は懐からティーカップを取り出した。
「おいっ!全身バキバキに折られて内臓ぐちゃぐちゃにされて、どうやって飲むんだよ!!」
「……確かに」「早くベッド連れてけ!!」
「ボロボロのくせに……偉そうに」「なにっ!?」
サルヴェナが睨む。
「体が治ったら先にお前を虐めることにした!」
「何でそうなる?はぁぁ……うるさい」
羅刹は無言でテープを取り出した。
ペタッ。ペタペタッ。
「ふぐぅぅぅぅ!?」口に貼った。
「むぐぅぅう!」そしてヒョイっとお姫様抱っこ。
「むぐぅぅっぅぅ!!」「はいはい。治療しますよ」
こうして北の城に静かさが戻った。
◇◇◇
その頃➖➖
転移魔法陣から、ル・セポネが姿を現した。
ふぅ。っと大きく息を吐く。
(あぁぁ……疲れた……今日はもう、ゆっくりしたい。カヅチでも胸の谷間に埋めたい気分じゃ……)
「…………」ル・セポネは立ち止まった。
(何で?何でそうなるのじゃ??)
首を傾げる。自分でもよく分からない。
(ん〜……でも、なんか落ち着くんだよなぁ……)
少しだけ頬が緩む。
(あいつ、城にいるかな……?)そして……
(抱きたい……)そう思った。
◇◇◇
その頃➖➖
カヅチは南の街から戻り、魔王城の入り口を掃除していた。
「よいしょ……っと!【水拭き】!」
ほうきをシュシュッと動かす。床がピカピカになる。
(あぁぁ……)カヅチは空を見上げる。
(魔王様、まだかなぁ?実は、見せたいものがあるんだよなぁ…。この箒が【飛行】するの、見せたいんだけどなぁ……)ほうきを撫でる。
(うっかり抱っことかしてくんないかなぁ……)
「…………」カヅチは手を止める。
(何で?何で魔王に抱っこして欲しいの??)
首を傾げる。自分でもよく分からない。
(でも、あの匂い嗅いで、あの谷間に挟まれると、なんか落ち着くんだよなぁ……)
カヅチは少しだけ微笑む。
(魔王様、まだかなぁ……)そのとき……
「「…………」」
魔王城の前。ル・セポネとカヅチがばったり出会った。目がバチっと合う。
「「…………」」
次の瞬間。二人は同時に走り出した。
「カヅチぃぃぃぃ!!」「魔王様ぁぁぁぁ!!」
ル・セポネは両手を広げる。カヅチは迷わず飛び込んだ。
むぎゅっぅぅぅぅ!!
「ただいまじゃ!」「お帰りなさい!」
二人は幸せそうに笑う。しかし……
鈍感な二人はまだ知らない。
それが何という感情なのかを……。
続




