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第23話 掃除の終わりと北の城


 南の街➖➖オークション会場跡。


「【修復】!!」カヅチが箒を振る。

 ガラガラと崩れていた瓦礫が浮き上がり、元の位置へ戻っていく。

「【血液除去】!!」赤黒く染まった床が、みるみる綺麗になる。

「【高圧洗浄】!!」ブシャァァァァァ!!壁が磨かれていく。

「【水拭き】!!」サァァァ……。床を仕上げていく。

「ふぅ!順調!順調!。もう少しレベル上がれば【ツルツルワックスがけ】とか覚えるかな…?」

 昨日まで戦場だった場所が、少しずつ元の姿を取り戻していく。


◇◇◇


「……よし!ほぼ完璧!相変わらずいい仕事するなぁ…。自画自賛だけど…」

 夕方。オークション会場は、ほとんど元通りになっていた。カヅチは額の汗を拭う。

「ふぅ……疲れた……」その時だった。


「……あの〜」「ん?」

 振り返ると、昨日戦った勇者パーティーの魔法使いが立っていた。その手には飲み物が一本。

「……どうぞ」「あ、…ありがとう」

 カヅチは受け取ると、小さく笑った。

「助かるよ」「…………」

 魔法使いは少し気まずそうに俯く。


「……なんで、直しに来たの?」

「なんでって…?自分で壊したから…かな?」

「ふぅん……街で聞いたの。あなた……元勇者なんだって?しかも……魔王に一番近づいた勇者パーティーだったって」


 カヅチは遠くを見る。魔王城のある方向。


「……うん。でも……勝てなかったんだ…うん。勝てなかった…。仲間も……みんな目の前で死んだよ」

 カヅチは苦笑する。

「…………」「俺も、死ぬ一歩手前までいった」

 少しだけ間を置く。


「そしたらさ……生きたくなった」

 カヅチは空になりかけた飲み物を見る。

「生きたくて、生きたくて……たまらなくなった」

 魔法使いは何も言わず、カヅチを見る。

「だから……土下座して、生き残った」

「……土下座…?」

「うん。額擦り付けて…そして……掃除してる」

「…………ぷっ」「……え?」

 魔法使いが口元を押さえる。

「何それ……?意味わかんない」

「いや……あははっ……本当だよね!」

 カヅチも笑ってしまう。

「ふふっ……本当、何で俺、掃除してんだろうな……」

 二人の笑い声と雑談が夕暮れの街に小さく響いた。


 しばらくして、カヅチが立ち上がる。

「さて……もうひと頑張りするか」

 お尻についた埃をパンパンと払う。

 魔法使いの顔を見ずに小さく呟く。

「……仲間のことは、ごめん」「……え?」

「守りきれなかった」カヅチは魔法使いを見る。

「でも……君は生きてればいい。無駄に生き急ぐより生きた方がいい。生きてれば、何かいいことあるから」

 そして少しだけ笑う。

「……ここのハンバーガーが美味いとかね」

「……ハンバーガー?」「うん。結構うまいよ」

「……じゃあ…食べてみる」魔法使いは小さく笑った。

「あははっ!うん。それがいい」

 カヅチは箒を握り直す。

「じゃ、俺は仕上げに入ります。ジュースご馳走様。」

「うん。頑張って」


 そして最後の掃除が始まった。

 床を磨き、壁を直し、血の跡を消す。


 やがて……。

「……よし!終わりっ!!さて帰るか」

 カヅチが箒に魔力を通し【飛行】で帰ろうとしたその時……


「す、すみませぇぇぇん!!」

 大声と共に、昨日のオークション会場の司会者が走ってきた。

「あぁぁぁ!ありがとうございます!!こんなに綺麗に直して頂きまして!」司会者は深々と頭を下げる。


「商人たちも無事でした!これなら、すぐにでも再開できます!」

「いやいや……お礼なんて…壊したの俺たちですから」カヅチは頭を掻く。

「…………」司会者が苦笑する。

「それでも、ありがとうございます」


「……ん?今…死ななかった?」カヅチが顔を上げる。

「商人たち……死ななかったんですか?」「はい」

「でも……あの時、最後にサルヴェナが魔法を撃って……」

「ああ、それなんですが、最後に降ってきた魔法弾……なぜか商人たちを避けるように落ちたんです」

 司会者が不思議そうに首を傾げる。

「……え?」「それどころか……」司会者は声を潜める。

「闇の商人と疑われていた者たちだけを、狙い撃ちするように……」

「…………」カヅチは黙り込む。

(……まさか)昨日の光景が頭をよぎる。

(あの魔女……狙って撃ったのか?……まさか……ねぇ)カヅチは首を傾げた。

 だが、その疑問の答えを知る者は、ここにはいなかった。


◇◇◇


 北の大地➖➖冥冠のサルヴェナの城。

 そこには、太陽の光すら近づきたくないような黒い霧が漂っていた。城壁は巨大な黒曜石のような岩で造られ、無数の髑髏が壁に埋め込まれている。

 門の両脇には全てを拒むような何本もの巨大な角。

 それは魔物のものなのか。それとも…かつて、この城へ侵入した者たちのものなのか?分からない。ただ一つ分かることがある。


 ここは、生き物が長居していい場所ではない。


 その城門が、ギィィィィ……。ゆっくりと開いた。

 入ってきたのは、一人の長身の女。

 黒い角。長い三つ編みにされ両サイドに垂れる髪。そして……鍛え抜かれた体。

「…いつ来ても辛気臭いとこじゃのぉ…」

 魔王ル・セポネ。いつもの軽い笑顔はない。

 ただ、静かに城の奥を見つめていた。

 廊下には誰もいない。しかし……

 カツ……。カツ……。ル・セポネの足音だけが響いている。

 壁に埋め込まれた無数の魔石が、彼女の存在を感じ取ったかのように赤く明滅する。

 そして、その奥。巨大な扉の前で、ル・セポネは足を止め、ゆっくりと扉を見る。


「サルヴェナ……」ル・セポネは小さく呟いた。

 その瞬間、城の奥から、何か巨大なものが蠢いた。

 ズズ……。ズズズ……。まるで城そのものが、生きているかのように。


 ル・セポネはため息をつく。

「はぁ……まったく…今日こそ……ちゃんと説教せんとな」そして扉へ手を伸ばす。

 ギィィィィィ……。禍々しい扉が、ゆっくりと開いていく。


 その向こうには、北の四天王、冥冠のサルヴェナが待っていた。



            続

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