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第21話 【一日千秋空間牢獄】


「……行くぞ!!」

 転生勇者たちが、一斉に武器を構えた。

「【終焔礼砲(しゅうえんれいほう)】!!」

「【絶界雷臨(ぜっかいらいりん)】!!」

「【皇嵐覇滅(こうらんはめつ)】!!」

 炎。雷。巨大な竜巻。三つの大技が、同時にカヅチたちへ襲いかかる。


「来いよとは言ったけど……いきなり全部大技かよ!」

 カヅチが箒を構えた、その時……スッ。

「……ん?」

 いつの間にか、サルヴェナがカヅチの隣に立っていた。

「あれ〜?人間なのに、こっち側なんだね〜」

 サルヴェナは飛んでくる魔法を眺めながら、カヅチを見る。

「……いっ。そんなこと言ってる場合じゃ……ないと……」

「これから仲良くしようね♪」

「だから今それどころじゃ……ないっ!」

 

 サルヴェナが両手を前へ突き出す。

「ふふふ。慌てちゃって…」

 その表情から、眠そうな笑みが消えた。

「【終刻の魔冠(しゅうこくのまかん)】!!」

 両手から漆黒の塊が生まれる。

 ドォォォォォォン!!

 それは炎を飲み込み、雷を喰らい、竜巻すら消し去っていく。

 巨大な黒い塊は、森羅万象そのものを否定するかのように、すべてを飲み込みながら転生勇者たちへ向かっていく。周囲の空気が歪み、地面に散らばっていた瓦礫までが黒い塊へと引き寄せられていく。炎も雷も竜巻も飲み込んだそれは、もはや一つの魔法というより、触れたものすべてを消し去る厄災そのものだった。


「バカサルヴェナ!!本気で撃つなよ!!」

 セポネがすごい剣幕で叫ぶ。

「あ〜、うるさいなぁ!もう本気で撃っちゃったもんね〜だ!」

 サルヴェナが叫び返す。

「それを誰が止めるんだっ!!」

「しーらね!」


「……何だよ、あれ……」カヅチが目を細める。

「まるで……ブラックホールじゃん……」

 転生勇者に迫り来る漆黒。

「くっ……」カヅチは箒を握り直す。

「これは疲れるから使いたくなかったんだけどな……」


 グッと踏み込み前へ出る。

「【一日千秋空間牢獄(いちじつせんしゅうくうかんろうごく)】!!」

 カヅチの手が、漆黒の塊へ触れる。

 指先に触れた瞬間、周囲の音が遠のいた。

 黒い塊の表面に波紋のような揺らぎが広がり、その巨大な質量が、まるで最初から存在していなかったかのように輪郭を失っていく。

 その瞬間……スゥゥゥ……っと巨大な黒い塊が、跡形もなく消滅した。


「「「!!!!!」」」全員が驚き固まった。


「……嘘じゃろ?」セポネが目を見開く。

「嘘……」サルヴェナも呆然とする。

「消された……嘘だろ……。サルヴェナ様の最強魔法だぞ……」

 羅刹鬼夜叉が大剣を握ったまま呟く。


「ふぅ~~…… 何とか消せた……やっぱり疲れるな、これ」

 カヅチは額の汗を拭い、そして腰を伸ばす。

 その姿をセポネが心配そうに見た。

「大丈夫か!?」

「えぇ、大丈夫ですよ。……でも、まあ、今のを今日もう一回は無理ですけど」

 カヅチを見てサルヴェナが目を輝かせる。

「へぇ〜。じゃあ、さっきのもう一発ぶっ放せばいいんだね☆」

「そういう意味じゃない!!あんなの何発も撃つな!!」


 転生勇者たちが呆気に取られてるその瞬間……

 隙を見逃さなかったセポネが地面を蹴った。

「隙ありじゃ!!」ドゴォォォン!!

「ぐはぁぁぁぁ!!」

「一人終わりじゃ!」

 一瞬で転生勇者の懐へ潜り込み、その身体を拳で地面がへこむほど叩きつける。


 さらに……

「じゃあ、私も〜いっちゃうよ〜ん!」

 サルヴェナが一人の転生勇者へ手を向ける。

「【宵月断歌(よいづきだんか)】!!」ズンッ!!

「ぐっ……!?」

 転生勇者の身体が大きく揺れる。

 その瞬間、目と鼻から血がとめどなく流れ、膝をついた。

「お、おい、俺に、な、何を……した……!?」

「きゃははっ!内緒〜♪おやすみ!…もう起きないけどね」

 サルヴェナが悪戯に笑う。


「うわ……怖っ」カヅチは小さく呟く。

「お前が言うな!」羅刹がツッコむ。

「いや、俺は普通だから!」

「四天王最強技消しといてどこがだよ!」


 言い争いをしながらも、カヅチは一人の転生勇者へ駆け寄る。


「助けられなくて悪いな、お前は生きろ…」

 箒の柄が首元へ……ゴッ!!

「ぐっ……!」転生勇者が、その場に崩れ落ちた。

「よし……一人は助けられたか…」

 転生勇者たちが沈む。街の兵士達が怯む。


 その瞬間をセポネは見逃さない。

「まだ終わっておらんぞ!!」

 セポネが地面を殴りつけた。

 ドゴォォォォン!!


「うわぁぁぁ!!」大地が激しく揺れる。

 地面がひび割れ、石畳が跳ね上がる。


「な、何だこの地震は!?」

「立ってられない……!」

 兵士も勇者も、次々と地面へ倒れていく。

 

 セポネは周囲を見渡した。

 勇者たちは倒れ、兵士たちも地面に伏している。

 今なら、この場を焦土と化することもできるだろう。だが、セポネが選んだのは追撃ではなかった。

 仲間を連れて帰る。それが最初からセポネの目的だった。


「……よし」そして背を向ける。

「お前ら、今のうちに帰るぞ!」

「えぇ〜…… 皆殺しにしようよ〜」

 サルヴェナが不満そうに口を尖らせる。

 

 その声にセポネが振り返る。

「サルヴェナよ」

「ん?」

「……妾に楯突くのか?」

 サルヴェナは無言で数秒考える。


「……わかったよ!怒られるの嫌だから帰ります!」

「最初からそうせい!」三人が歩き出す。

 

 もちろん、カヅチもセポネの隣を歩いている。

 するとサルヴェナが、ふと振り返った。その顔はイタズラ前の子供のような顔をしていた。

「……あっ…人間。お土産、あげるね☆」ニヤァ〜。

 カヅチはその顔を見て苦笑い。

「……嫌な予感しかしないんですけど…」


「【星降爆撃(せいこうばくげき)】!!」

 ドドドドドドドドドォォォン!!

 空に浮かび上がる魔法陣から無数の魔法弾が降り注ぐ。

「おいぃぃぃぃっ!!やっぱりなんかやったよっ!!」

 南の街の大地が、再び爆ぜた。

 退却するはずだった一行の背後で、次々と爆発が弾ける。さっきまでの戦闘で十分に破壊された街が、さらに追い打ちをかけられていた。


「……サルヴェナよ」セポネが頭を押さえる。

「ん?セポちゃんどうしたの?」

「ここは“お前の管轄”ではないだろ……リゼルカに殺されるぞ…」

「あははっ!大丈夫だよ〜。リゼルカに怒られたら……殺し返すだけだよ!」

 サルヴェナは楽しそうにニヤリと笑う。


「お前らは少し仲良くせいっ!!」

 セポネが大きなため息をつき頭を抱える。

「……はぁぁ~~手に負えんな…」

 そして、ふと隣を見る。カヅチが静かに歩いている。セポネは少しだけ目を細めた。

 

 先ほどまでの騒がしさが嘘のように、二人の間に静かな時間が流れる。セポネが気にしていたのは、今の戦いで見せた力ではない。かつて自分と刃を交えた時、カヅチがどんな思いで戦っていたのか。それを確かめたかったのかもしれない。


「……なぁ、カヅチ」

「はい?」

「お主……妾と戦った時……本気だったか?」

「…………」カヅチの足が止まった。

 ほんの一瞬だけ、表情から笑みが消える。


「…………えぇ、本気でしたよ」

「……そうか」

 セポネはそれ以上、何も聞かなかった。そして再び歩き出す。

「カヅチ…抱っこするか?」

「なんで?いえ、大丈夫ですけど…」

「疲れておるだろ?ほれ!」

「いえ、大丈夫ですけど…」

「いいから……来い…」

「えっ?」

「黙って妾に飛び込んでくるのじゃ!!」

「くっ!結局、無理矢理かよ!?」

 グイッと無理矢理に抱き上げ、カヅチを胸元に押し寄せる。

 

 魔王と四天王、そしてその仲間たちは、それぞれの帰路に着こうとした。


 だが……

「…………あ」カヅチが胸元から顔を上げる。

「どうした?」

「忘れてたました」

「ん?何をじゃ?」

「あれですよ!」

 

 カヅチはセポネから降りて、少し歩き瓦礫の中から、何かを拾い上げる。

 それはオークションで落札した、高淤加美神(たかおかみのかみ)の羽衣だった。

 あれほど激しい戦闘の中でも、奇跡的に無事だったらしい。街の惨状を見れば、普通ならそれどころではない。だが、カヅチにとっては魔王からの大切な贈り物。忘れて帰るわけにはいかなかった。


「ちゃっかりしとるのぉ〜……」

 ル・セポネが呆れた顔をする。

「だって八桁のプレゼントですよ?忘れるわけないじゃないですか」

「お主……そういうところだけ妙にしっかりしておるな」


「あはは!元勇者ですから」

「あははっ!そこ関係あるか?」

「……ないですね…」

「さぁ、帰るぞ!」

 

 カヅチは羽衣を大事そうに抱え、ル・セポネに飛びつく。こうして、南の街での騒動は終わった。……たぶん。そして元勇者の休日は……最後まで、休日ではなかったのだ。



            続

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