第19話 魔王様正体がバレる
南の街・オークション会場内➖➖
『続いての商品はこちら“魔”になります!』
司会者の声と共に、二人の男が壇上へ現れた。
その手には……大きな木箱。箱には何枚もの札が貼られている。
「魔王様……あれ……」カヅチは目を細める。
「ああ。間違いない」
セポネの表情から、いつもの軽さが消えていた。先ほどまで競り合いにあれほど夢中になっていたセポネの顔から、笑みが消えている。箱に貼られた札を見つめる瞳には、仲間を奪われた怒りと、一刻も早く助け出したいという焦りが滲んでいた。
箱の中には、一人の眠っている女性がいる。魔女。
そして今は、札によって魔力を封じられ、気持ち良さそうな顔で寝ている。
「絶対……助けましょう」
「当然じゃ」
カヅチは拳を握り、セポネが即答する。
「カヅチ、スイッチを妾に貸せ」
「はい。もちろんです、魔王様」
カヅチは素直に売買スイッチを手渡す。
そして……
『それでは、開始価格……五十万からスタートですっ!!』
司会者が叫んだ。
ピッ!『六十万!』ル・セポネが即座に押す。
ピッ!『七十万!』ピッ!ピッ!ピッ!
「ちょっ……魔王様!?」
またもや連打。連打。連打。
「…………」会場中がざわつく。
「またあいつらか……」
「さっき羽衣を落札した奴らだろ?」
「何なんだ、あの女……」
ル・セポネは無表情のままボタンを押し続ける。
ピッ!ピッ!ピッ!ピッ!ピッ!ピッ!
そして……ピッ!その瞬間、液晶の数字が止まった。
「…………?」カヅチが首を傾げる。
「……魔王様?どうしました?」
セポネも無言で液晶を見る。
「うむ…ボタン……壊れた……な…動かん…な…ごめんちゃい♡」
セポネが、てへっと舌を出した。
「おいぃぃぃっ!かわいこぶってる場合かぁぁぁ!!どうすんの!?」
「知らん!」
「知らんじゃないでしょ!!」
二人が小声で騒いでいると、周囲から視線が集まる。
「「…………」」二人はピタッと黙った。
「で……どうすんですか?」
「……どうしたらいいんじゃ?」
二人で顔を見合わせ考えてるその時だった。
ミシ……「「……ん?」」
ミシミシ……二人が同時に天井を見上げる。
セポネが大きくため息をついた。
「……はぁぁ……あやつにバレる前に、助けたかったのぉ……」
「……あやつ?どうしたんです?」
次の瞬間……バキィィィィィン!!
天井が大きく崩れ落ちた。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「何だ!?」「天井が!!」
大量の埃が会場を包み込む。悲鳴。怒号。逃げ惑う人々。やがて、埃が少しずつ晴れていく。
そこに立っていたのは……巨大な大剣を担いだ、長身の鬼の魔物だった。崩れた天井の向こうから差し込む光を背に、巨大な影が姿を現す。
大剣を担ぐその姿には、隠そうともしていない圧倒的な力があった。周囲の人間たちが、思わず距離を取る。赤黒い肌に鋭い牙。そして、凶悪な笑み。
「へへへ……よぉ?」鬼は木箱へ歩み寄る。
「やっと見つけたぜ〜!怖かったか〜?」
箱の中の魔女を見る。箱をポンポン。
そしてニッと笑う。
「さぁ!帰りましょう!」
鬼が大剣で箱を壊して、魔女を肩に背負う。その瞬間……。
「………えっ?……魔王様?」
セポネと鬼の目が合った。鬼の顔が固まる。
セポネは、必死に目で訴える。
(バカ、やめろ……言うな!はやく消えろっ!)
だが……
「魔王様じゃないですかぁぁぁ!!」
(やめろぉぉぉ!!羅刹ぅぅぅ!!)
「あれれ!?どうしたんですか!?」
鬼の羅刹鬼夜叉は嬉しそうに声を上げる。
「あっ!分かった!」ビシッとセポネを指差す。
「人間、皆殺しに来たんでしょ!?」
(違う!!勘違いされるようなこというなよぉ!)
「言ってよ〜!水臭いなぁ〜!いつもは『殺すな〜』とか言うくせに!今日はどうしたんです!?あははっ!」
羅刹はセポネを見て大笑いする。
セポネは必死に手を振り否定する。
(バカだ!お前はバカだ!馬と鹿に蹴られて死ね!)
会場の空気が凍る。
全員の視線が、セポネへ集まった。
セポネはゆっくりと周囲を見渡す。
そして、苦し紛れに咳払いをして人差し指を自分へそっと向ける。
「んんっ!……はぁ?妾の名前は……魔王じゃが?誰と勘違いしておるのじゃ?羅刹よ!」
「はぁ……羅刹って言っちゃってんじゃん!それじゃちゃんと知り合いだよ……いや、もうそれ無理だって……」
カヅチが頭を抱え首を振る。
「はぁ?何が無理なのじゃ!魔王だけど!」
「名前気にいっちゃったのかよ!?もう全部無理ですよ!」
その時……外から、金属音が響き始めた。
「兵士だ!」
「街の兵が来てくれたぞ!」
さらに、その中には見覚えのある者たちもいた。
「転生勇者だ……!彼らも来てくれた!」
会場に緊張が走る。セポネは目を閉じ、深いため息。
「……はぁぁ~~誰も殺したくなかったんじゃがな……」
その瞬間。ル・セポネの頭から……
ニョキッ。黒い角が伸びる。長い髪が三つ編みに変わり両サイドに垂れていく。
その姿に会場にいた全員が息を呑む。
セポネの姿が、少しずつ変わっていく。
角が伸び、髪が変わり、隠されていた魔王の姿があらわになっていく。目の前にいる女性が、ただの人間ではないことを誰もが理解した。
先ほどまで同じ会場で笑っていた相手が、人間界で都市伝説的に語られる魔王その人だったのだ。
「うわぁ!あれが魔王……?」
「ほ、本物なのか……?」
「あれが…噂の魔王ル・セポネ……!」
「ふぅ……もう、隠す必要もないか」
セポネが静かに呟く。その横では、魔女を抱えた羅刹が嬉しそうに大剣を構えていた。
「よっしゃぁ!魔王様と一緒なら、楽勝♪楽勝♪」
その瞬間、ズゴンッ!!「いってぇぇぇ!!」
突然、羅刹の顔面にル・セポネの拳がめり込んだ。
「何で殴るんですか!?」
「……気分じゃ!」
「気分!?」
「そう!気分!」
そこへ、カヅチが歩いてくる。
そして……セポネの横に並んだ。
セポネが横目でカヅチを見る。
「お主……人間側につかんのか?」
「えぇぇ…意地悪いこと言わないでくださいよ。俺はもう……こっち側なんですから」
そのカヅチのセポネに寄る一歩に迷いはなかった。
人間たちの視線も、兵士たちの武器も、今は気にならない。カヅチにとって、隣に立つ相手が誰なのかは、もう決まっていた。
カヅチは笑顔でセポネを見て箒を肩に担ぎ直す。
ル・セポネの口元が緩む。
「あははっ!可愛いやつめ!」
「そこ、笑うところですか?」
羅刹がカヅチを見る。「ん?」そして首を傾げる。
「人間!?あれ!?仲間!?違う!?殺す!?」
羅刹が大剣を構える。
「待て」ル・セポネが手を上げる。
「そやつは妾の玩具じゃ!」
「玩具!?」
カヅチが叫ぶ。
「ちょっと、そこの説明は清掃員でしょ!?」
「細かいことはよい!」
「よくない!」
ル・セポネは笑いながら前を見る。
この緊迫した状況の中でも、セポネの表情は余裕たっぷり。隣にカヅチがいる。それだけで、どこか安心しているようにも見えた。
「それより……」
セポネの角が大きく輝き、両手を前に突き出すと四人の前に大きな魔法陣が出現する。セポネのその声に羅刹が大剣を構える。カヅチも箒を握り直す。
「お主ら、デカイの来るぞ!……構えろっ!!」
次の瞬間……ドゴォォォォォン!!
オークション会場が、爆ぜた。
商品も。客席も。壇上も。すべてが爆風で吹き飛ぶ。
そして、その中心で……
箒を担ぐ元勇者。魔王立ちの魔王。魔女を担ぎ、うんこ座りの鬼の戦士が、不敵な笑みを浮かべ並び立つ。
彼らの前には、街の兵士と転生勇者たち。
魔女を取り戻すための本当の戦いが、今始まった。
続




