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第18話 高淤加美神(たかおかみのかみ)の羽衣


 南の街➖➖オークション会場内。

『それでは、最初の商品です!』

 司会者の声と共に、オークションが始まった。

 会場には、独特の重い空気が漂っている。

 席に座る商人たちは皆、真剣な顔で壇上を見つめていた。

「おい、……あれは掘り出し物か?」

「市場では絶対に手に入らないぞ」

「競り落として、別の場所で売ればかなりの利益になる……」

 

 商人たちは商品を見極めている。

 リストにチェックしてある、武器。防具。希少な鉱石。魔獣の素材。シークレット。


 そして……

「表に出ない闇の素材まであるのか…ここ……思ってたよりヤバい場所ですね」カヅチが小さく呟く。


「そうか?庭に生えてると思うが…?」

「……確かに…庭掃除してた時同じの生えてた様な…」

 隣のセポネは、あまり興味がなさそうに欠伸をしている。

「妾には人間の価値がよく分からんな」

「魔王様なのに……」

「妾は欲しいものなら自分で取りに行くからの」

「……そういう人でしたね」


 そしてカヅチは、会場の奥を見る。

 そこには、他の客とは少し違う雰囲気の者たちがいた。人間。だが、その目はどこか異様だった。


『次の商品です!』壇上に商品が運ばれる。


「……魔王様…あれ…」

 カヅチが雰囲気の違う人間を指差す。

「ああ。あいつらがコレクターと呼ばれる連中じゃろ?」

「コレクター?」

「魔界ではそう呼んでる。魔族を捕まえて、珍しいものとして飼う人間じゃ」

「………趣味が悪いですね」

 「うむ。だからこそ妾の魔女を取り戻す。奴らのやり方でな…」

「……はい」


 セポネを見るカヅチの表情が少し曇る。

 セポネも、その連中を静かに睨んでいた。

 その瞳に浮かんでいたのは、怒りだけではない。

 大切な仲間を取り戻す。そのためにここまで来たのだ。いつもの陽気な表情の奥に、魔王として譲れないものが見えた。


 オークションは次々と進んでいく。

「五十万!」「六十万!」「七十万!」「落札!」

 商品が一つずつ売れていく。そして……。

『続いての商品はこちら!準目玉商品!シークレットアイテムになります!!」

 会場の照明が少し暗くなる。巨大なスクリーンに、商品の映像が映し出された。


『高淤加美神(たかおかみのかみ)の羽衣!!』

「…………っ!?嘘だろっ!」

 カヅチの目が見開かれた。


「急になんじゃ!?びっくりするじゃろ!」

 ル・セポネが眠そうにカヅチを見る。そして画面の商品を見て……

「あれ、欲しいのか?」

「……はい」カヅチはスクリーンを見つめる。

「あれは……伝説の防具です」

「ほぉ」

「どんな荒ぶりも鎮められると言われてた……」

 カヅチの目に、かつて勇者だった頃の記憶が浮かぶ。

「あれがあれば……」

「欲しいなら買え!」

「……いいんですか?」

「何を言っておる?欲しいものを買う。それだけじゃろ?」

 セポネは腕を組み、胸を持ち上げる。

「……はい!頑張ってみます!」(…でかっ!)


 カヅチは売買スイッチを握る。

『それでは開始価格……まずは五十万!』

 ピッ。「六十万!」別の席から値段が上がる。

 ピッ。「七十万!」カヅチも押す。

 ピッ。「八十万!」また別の客が上がる。

 ピッ。「九十万!」カヅチ。

 ピッ。「百二十万!」別の客。

「…………」カヅチの顔が引きつる。

「魔王様……」

「なんじゃ?」

「……俺、怖いです」

「はぁ?」

「凄い金額ですよ……」

「そうか?まだ安いではないか」

「感覚どうなってるんですか!?」

 さらに金額が上がっていく。


「二百万!」「二百五十万!」「三百万!」

 カヅチの手が止まる。

「…………これ以上は……無理だ…」


 その時、セポネがカヅチの手から売買スイッチを奪った。

「貸せ!」

「えっ?」ピッ!「ちょっ!」ピッ!

「魔王様!?」ピッ!ピッ!ピッ!ピッ!


「「「…………」」」会場中の視線が二人へ集まる。

 

 それまで金額の上昇に合わせて慎重に入札していた客たちも、さすがに手を止めていた。競り合いというより、何かの操作を間違えているようにしか見えない。壇上の司会者まで、次に何を言えばいいのか分からなくなっているようだった。


「な、なんだあの連打……?」

「値段を上げるというより……押しているだけでは?」

「オークションって、そういうものだったか?」


 カヅチは目を見開く。

(あぁぁぁぁぁぁ!!なんで!?なんで!?なんでそんな無敵なんだよ!!オークションだぞ!!連打ってなんだよ!!)カヅチの目が、必死に訴えている。


 しかしル・セポネは気にしない。

「ふぅ、これでよい」

『……えー……』司会者が困惑する。

『他に……いらっしゃいませんか?』

 会場が静まり返る。


『……それでは……落札です!!』

 司会者がドンドンと槌を振り下ろす。

「よし!買えたぞ」セポネが満足そうに頷いた。

「……買えたぞって………いくらになったんです?」

 カヅチは恐る恐る尋ねる。

「知らん」

「知らん!?」

「払えるから問題ない」

 カヅチは表示された金額を無言で見る。


 一、十、百、千。万。十万。百万。千万。

 カヅチの顔が引きつる。

「……八桁?ですよ…」

「うむ。構わん!」

「……構わん?嘘だろ……」

「ほれ!妾からのプレゼントじゃ。大切に使うんじゃぞ!」

 ル・セポネがカヅチに売買スイッチを返す。


「……はい。ありがとうございます…」

 カヅチはしばらく固まっていた。そして、胸を押さえる。

「はぁはぁ、……なんか落ち着かない……」

「どうした?そんなに落ち着かんなら……」

 セポネがニヤリと笑う。

「胸、貸すぞ?ほれ?」

 グイッ。ル・セポネが胸を押し上げる。

 カヅチは胸を見つめ無言でしばらく迷った。

 そして……「……失礼します」吸い込まれる様に胸に顔を埋める。そして……むぎゅっ。


「スーハー……スーハー……」

「ふふふ。可愛いやつめ♡」

「なんか……落ち着く……」

「ふふふ。よかったのぉ」

 オークション会場の一角だけ、完全に別世界になっていた。


◇◇◇


 その後もオークションは進んでいく。

 様々な商品が落札されていく中……ついに。

『続いての商品です』司会者が商品リストを見る。

 カヅチがセポネの胸元から顔を上げる。


『こちらの商品は……』

 スクリーンに、小さく文字が表示される。

 たった一文字。それだけで、二人の意識が一気に切り替わった。先ほどまでの騒がしさも、羽衣を巡る大騒動も、今は遠い出来事のようだった。

 ようやく本来の目的に手が届こうとしている。


【魔】


 カヅチの表情が変わった。セポネも身を乗り出す。

「次だぞ……カヅチ」

「……はい」

 カヅチは売買スイッチを握り直した。

 その顔は、今までにないほど真剣だった。

 ただし……その真剣な表情のカヅチの鼻から、一筋の血が垂れていた。



            続

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