第17話 オークション会場
南の街・オークション会場内➖➖
重い扉を抜けた二人は、受付カウンターへ向かった。
「いらっしゃいませ」
受付に座っていた男が、二人を見上げる。
「ご予約の方でしょうか? それとも、どなたかのご紹介で?」
「えーっと……」カヅチは少し考えた。
「予約も紹介もないんですけど……入れます?」
「申し訳ございません。当会場は……」
受付の男が言いかけたところで、カヅチが懐から一枚のカードを取り出した。
「あの〜、これじゃダメですか?」
受付の男が無言で怪訝そうにカードを見る。
そして……「……え?SS…?」目を見開く。
もう一度見る。顔から、みるみる血の気が引いていく。
「…こ、これは…本物ですか…?」
「はい?」
受付の男は慌てて立ち上がった。
「失礼しました!も、申し訳ございません!もちろん大丈夫でございます!」
「えっ?そうなんですか?」
「はい!どうぞお入りください!」
「ありがとうございます」
カヅチはペコリと頭を下げる。
「入って右奥にございます会場受付で、オークションのリストと売買スイッチをお受け取りください」
「分かりました。ありがとうございます」
カヅチは何事もなかったように歩き出す。
その隣で、セポネが無言でカヅチを見つめる。
「……お主」
「はい?」
「もしや、人間の世界では……凄い人なのか?」
カヅチは少しだけ渋い顔をして遠い目をした。
「……一応…魔王まで届くほどの勇者でしたから……凄い勇者でしたね…」
「ほぉ!やはりそうじゃったか!」
セポネが嬉しそうに笑う。
「まあ……魔王様にボコボコにされる前の話ですけどね〜」
「ふはははっ!そうじゃろ!妾は強いだろ!!」
「ちょっ!声、大きいです」
「……あ」セポネが周囲を見る。
何人かの客がこちらを見ている。
セポネは大きな身体をシュンと縮めた。
先ほどまで堂々と胸を張っていた魔王が、周囲の視線を気にして小さくなっている。その姿は、威厳ある魔王というより、注意された子供のようだった。「……すまん」
「いや、分かればいいんですけど…」
セポネの顔を見てカヅチは笑いを我慢した。
(くぅぅ!なんか可愛いなぁ!魔王が人間の街で小声になってる……)なんとも不思議な光景だった。
◇◇◇
二人は受付でリストと売買スイッチを受け取り、そして指定された席へ。
「よし……」カヅチがリストを開く。
「どれどれ?」セポネが隣から覗き込む。
「ふたつ貰ったんだから自分の見てくださいよ…」
「なんでじゃ!別に一緒に見てもいいじゃろ!」
そこには、様々な商品が並んでいた。
剣。盾。鎧。魔法具。珍しい鉱石。薬草。魔獣の素材。シークレット。
「ほぉ……色々あるのぉ」
「そうですね〜」カヅチはページをめくる。
「武器に防具……素材に道具……んっ?」
そして、あるページでカヅチの手が止まった。
「…………」「どうした?」
カヅチは商品一覧をじっと見つめる。
その中に、普通の商品名とは明らかに違うものがいくつか混ざっている。
武器や素材の名前が並ぶ中、そこだけ妙に違和感があった。品物の詳細を隠すような記載。意図的にぼかされた商品名。カヅチは、それが単なる珍品ではないことを感じ取っていた。
「……これなんですけど…」カヅチが指を差す。
「どれじゃ?」
セポネがグイッとカヅチに身を乗り出す。
「近いです…胸が当たってます。」
「見えんのじゃ!」
「だからって顔と胸近づけすぎ……」
「嫌いじゃないじゃろ?」
「嫌いじゃないですけど…」
カヅチは何とも言えない顔でリストを指差した。
「これです」
「……これが魔女か?」
「いや、商品名じゃないです」
「なら何じゃ?」
「この横にある印」
そこには小さく……“魔”と記されていた。
「他の商品にはない」
「………ほぉ」セポネの目が鋭くなる。
先ほどまで団子やクレープに目を輝かせていた表情が消える。ほんの小さな印ひとつ。それだけで、彼女の意識は完全に魔王としてのものへ切り替わっていた。
「間違いないのか?」
「たぶん……。 俺はこっち系は詳しくないですけど…魔界の者を扱ってる商品だけ、この印が付いてるんだと思います」
カヅチはリストを見ながら答える。
「なるほど……。では、これを買えばよいのじゃな?」セポネがニヤリと笑う。
「……はい」
「どうやって買うんじゃ?」
カヅチが手元の売買スイッチを見る。
「これを押して値段を競い合います。欲しい人がいたらどんどん値段が上がります」
「ふむ」セポネがスイッチを見る。
そして、突然……
「よし、お主の箒を売るか」
「えっ!?なんで!?」カヅチが勢いよく振り返る。
「絶対嫌ですよ!?」
「あはは、冗談じゃ」
「冗談にしては目が本気でしたよ!」
「あはははっ!」セポネは楽しそうに笑う。
「安心せい。昔、妾の城へ攻めてきた勇者どもの装備を全部売れば、十分買えるじゃろ」
カヅチは無言で固まる。
「もしかして……全部売ってるんですか?」
「うむ。ちょこちょことな…それを皆の給料に充てている…」
「…………」
「何じゃその顔?」
「……俺たち、命懸けで集めてた装備なんですけど」
「あははっ!妾にとっては戦利品じゃ」
「…………」カヅチは少し遠い目をする。
「必死で集める装備が魔王が売った物……なんか、勇者だった頃の思い出がまた一つ壊れた……」
「あははっ!まぁ、気にするな!」
「魔王様に言われると余計気になりますよ!」
そんな二人のやり取りを、周囲の客がチラチラと見ている。
「……あの二人、何者だ?」
「知らん……」
「でも、あの男……どこかで見たような……」
「まさか……南大陸最強と謳われた…?」
「いやいや、そんな馬鹿な…」
その声に、カヅチとセポネは気付かない。
受付でのやり取りや、何気ない仕草。
その断片から、彼の正体に気づき始めた者がいる。だが、本人はそんな視線など気にも留めず、隣の魔王との会話に夢中だった。
やがて…… 会場内にアナウンスが響く。
『ご来場の皆様、お待たせいたしました』
「「…………」」二人が前を向く。
『それでは、ただ今より……オークションを開催いたします!』
壇上に蝶ネクタイをした司会者が現れる。
会場から拍手が巻き起こる。
会場の照明が壇上へと集まり、客席のざわめきが少しずつ静まっていく。これから始まるのは、金と欲望が品物の価値を決める時間。カヅチたちにとっては、ただの買い物では済まない舞台だった。
カヅチは売買スイッチを握り直す。
隣では、セポネが静かにリストを見つめている。
その横顔には、いつものふざけた笑みはなかった。眷属を救うために人間の街までやって来た魔王。その視線の先にあるのは、商品として並べられた一人の仲間だった。
「カヅチ…必ず助けるぞ」
「……はい」
元勇者と魔王。決して人間の街で並んではいけない二人が、今は同じ席に座っている。
そして魔女を救い出すための、奇妙なオークションが始まった。
続




