第16話 魔王と街歩きと時々掃除
魔王城の城門前➖➖
「では……行くかの」
セポネが立ち止まり、頭から角をニョキッと出す。
「……うわ、角出た!」
「なんじゃ、その反応は?」
「いや、急に魔王感が……」
「妾は最初から魔王じゃ!!」
セポネが両手を広げる。
すると、足元に紫色の魔法陣が浮かび上がった。
「おお……転移魔法陣」
「うむ。これで南の街まで一気に行くぞ」
カヅチは魔法陣を見つめる。
「……あれ?」
「なんじゃ?集中が途切れる…」
「今日は追いかけっこしないんですか?」
セポネが気まずそうに目を逸らした。
「……あぁ…妾は……角をしまうと、何も出来なくなってしまうのだ」
「えっ?」カヅチは目を丸くする。
「だから、街に着いたらお主に頼むぞ」
「……意外な弱点ですね」
「そうじゃろ?」
「じゃあ角を出したまま行けば……」
「街中で魔王が角を出して歩けると思うか?魔王がご機嫌に走ってる所を見たら人間はどう思う?」
「……確実に戦争になりますね」
「そういうことじゃ」
セポネは腕を組んで頷く。
「つまり、街ではお主が妾を守るのじゃ!」
「えっ?……はい」カヅチは少しだけ考える。
「……角って出し入れ自由ですか?」
「あははっ!当然じゃ!いつでも出して殺す。」
「殺すって…じゃあ、全然弱点じゃないですよね?」
「あははっ!出し入れ自由じゃ!」
「ちゃんと話し聞けよ!はぁ、……弱点あるわけないか…」
カヅチは深いため息をついた。
そして二人は魔法陣の中へ入る。
「さぁ、行くぞ!」パァァァァァッ!!
◇◇◇
転移した先は、南の街から少し離れた街道だった。
「……おお、やっぱ早っ!」カヅチが顔を上げる。
「ふふ、ここから歩いて少しじゃな」
セポネは角をしまい、完全に人間の姿になる。
先ほどまで漂っていた魔王らしい威圧感が、すっと消えた。目の前にいるのは、長身で少し派手な格好をした一人の女性。カヅチは見惚れる。
「よし。行くぞ!」
「は、はい。」
二人は並んで歩き始めた。
◇◇◇
そして……南の街➖➖
午後の街は、とても賑わっていた。
商人たちの呼び声。行き交う人々。露店から漂う甘い匂い。そんな中を、箒を肩に担いだカヅチと、二メートル近い長身のセポネが歩いている。
「………でか…」通行人がチラチラと二人を見る。
「……魔王様…」
「なんじゃ?」
「目立ってますよ」
「そうか?」
「はい。めちゃくちゃ目立ってます」
「ふふん。妾はめちゃくちゃ美人だからな〜」
「身長じゃないですか?」
「そこは素直に褒めろ!」
セポネが頭をペシン。
「いて……首折れるって…こっから俺一人で行きましょうか?」
「ダメじゃ!」
「即答……」
「妾も街を楽しみたい!」
「……救出作戦じゃないんですか?」
「もちろん救出作戦じゃ」
「じゃあ、なんでそんなに楽しそうなんです?」
「街歩きは楽しいじゃろう!なかなか来れないしな」
カヅチは無言で空を見上げる。
(なんかこれ…休日デートみたいでちょっと楽しいな…)
その時……
「おっ!カヅチあれ食べたい!」
「はい?」
セポネが露店を指差した。
「ほら!あれじゃ!」
「…みたらし団子?」
「そうじゃ!」
「お金はじゃんけんね…」
セポネが勝つ。カヅチは無言で団子を買う。
「はい。どうぞ」
「おおっ!」
ル・セポネは嬉しそうに頬張る。
「これ、うまいのぉ!」
「よかったですね〜」
「お主も食え!」
「あ、はい」
二人で歩きながら団子を食べる。
いつの間にか、歩く速度も自然と揃っていた。人混みの中、肩を並べて甘味を頬張る。少なくとも今この瞬間だけは、魔王と元勇者という関係を忘れてしまいそうだった。さらに……
「カヅチ!次はあれじゃ!」
「また?今度はクレープ!」
「買え!」
「次は自分で買ってくださいよ……」
「妾、今は人間じゃぞ?お金を持っておらん!」
「魔王なのに?」
「魔王だからじゃ!」
「意味分からない……じゃんけんね…」
セポネが勝つ。結局、カヅチが無言で買う。
「うまいのぉ〜♡」ル・セポネはご満悦だった。
「じゃんけんも強いって何だよ……でもこれ完全にデートだよな」
「なんじゃ?文句あるのか?お主も一口食え!」
「いえ、何でもありません。頂きます。」
(魔王と間接キス…。勇者の頃に想像もしなかったなぁ……)
◇◇◇
街を歩いていると、カヅチが突然立ち止まった。
「どうした?なんか美味そうなの見つけたのか?」
「いえ、……あそこ」カヅチが道端を指差す。
そこには、泥で汚れた石畳があった。
「……汚れてる」カヅチの目が変わる。
カヅチは肩から箒を下ろした。
「ちょっと掃除していいですか?」
「今!?」
「すぐ終わりますから」
「いや、今は魔女の救出をじゃな……」
「【水拭き】!」シュバババババッ!!
「うおおおおお!?」石畳が一瞬で磨かれていく。
「よし!」
セポネは無言で呆然とする。
「お主……どこでも掃除するのか?」
「汚れを見つけたら気になるんですよ」
「病気じゃろ、それ」
「清掃員の性です」
「それ言うなら勇者の性じゃないのか!?」
「ふっ!今は清掃員です」カヅチは胸を張る。
「……まあ、綺麗になったし良いか」
セポネも歩き出す。
そして……
「カヅチよ…」
「はい?」
「なら、次はあそこじゃな?」
「……え?」
ル・セポネが指差した先には、露店の裏に大量のゴミ。カヅチの目が無言で輝く。
「魔王様……ちょっとだけお待ちを!」
「あはは!お主、楽しんでおらんか?」
「気のせいですよ」
「顔が笑っておるぞ!」
結局、二人は街の一角を綺麗にしてしまった。
「ありがとうございました!」街の人が頭を下げる。
「いえいえ」
「あははっ!魔王に掃除されてありがとうって、なんじゃ、この街……」
セポネは呆れながらも笑っていた。
魔王が人間の街を歩き、元勇者が箒を振るって道を磨く。少し前までなら、誰も想像できなかった光景だ。けれど、そこにあるのは争いではなく、ただ誰かの役に立てたという小さな満足感だった。
◇◇◇
しばらくして、二人は街外れへやって来た。
人通りが一気に減る。セポネが足を止めた。
「ここじゃな」
目の前には、大きな建物。しかし、看板はない。窓も少なく、周囲から隔離されるように建っている。
「……ここって…オークション会場?」
カヅチは建物を見上げる。
「オークション?なんじゃそれは?」
「はい。商品を出して、それを欲しい人たちがお金で競り合う場所です。基本掘り出し物探しにしか来ないですけどね…。ここにはいい噂もないし」
「ほぉ……ならば……人間のルールに従ってやるか」
セポネも建物を見つめる。
「……え?」
「売っているなら正面から入って、金を出して買えばよい」
「魔女を?」
「そうじゃ」
「いや……救出作戦ですよね?」
「うむ!もちろん!」
「なんで普通に買おうとしてるんです?」
「その方が平和じゃろ?」
「まあ……確かに」
カヅチは頭を抱えながらも少し納得してしまった。
「でも、そもそも……魔女がここにいるって、どうやって分かったんです?」
カヅチはセポネを見る。
「…………」
「魔王様?聞いてます?」
「…………勘じゃ」
「えっ?勘!?いやいやいや!そんな重要な情報を勘で!?」
カヅチが目を見開き騒ぎ出す。
「騒ぐなっ!嘘じゃ」
「………嘘?」
困惑するカヅチを見て、セポネがニヤリと笑う。
「妾の眷属なら、集中すれば大体の場所は分かる。まあ、探すのに少々時間はかかったがの」
「……最初からそれ言ってくださいよ」
「あはははっ!お主を揶揄うのは楽しいからのぉ」
セポネは楽しそうに笑う。
「さあ、行くぞ!」
「はい」
二人は建物の入口へ向かう。
カヅチは箒を握り直した。
(……つくづく、この人……無敵だよなぁ)
ふざけているようで、必要な情報はきちんと掴んでいる。しかも、眷属の居場所を探り当てる能力まで持っている。カヅチは改めて、隣にいる女性が魔王なのだと思い知らされた。
元勇者と魔王。本来なら決して並んで歩くことのない二人が、今は一緒に人間の街を歩いている。
そして……ガチャッ。重い扉が開く。
「いらっしゃいませ」中から聞こえた声。
二人は顔を見合わせる。
扉の向こうから、わずかに人の話し声が漏れてくる。ここに捕らわれた魔女がいる。
そう考えると、先ほどまでの賑やかな街歩きが、遠い出来事のように感じられた。
「……さぁ、始まるぞ」
「……はい」
二人は静かに、オークション会場の中へ足を踏み入れた。
その先に待つのは……一人の、捕らわれた魔女。
そして、思いもよらぬ騒動だった。
続




