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第14話 サキュバスのお礼


 魔王城・サキュバス、チュパ姉さんの部屋➖➖


「ほんと……足の踏み場がないなぁ……」

 カヅチは部屋の入口に立ち、ゴミの山を見つめていた。

 服。空き瓶。食べ終わった皿。謎の箱。謎の袋。そして……謎の何か。

「よし……まずは入口から攻めて道を作っていくか!チュパ姉さん、とりあえずゴミまとめてもらえます?」

 カヅチは頭にタオルを巻き、箒を構える。


「………何が?」

「えっ?チュパ姉?ゴミだよ?ゴミまとめて。みんな捨てちゃうよ!」

「うん。言ってることはわかるよ……でも、それが出来たら……私はもう片付けられてると思うんだな…」


 カヅチはチュパ姉を見つめ数秒黙る。


「うん。……了解です。じゃあ俺がやります」

「頼んだ……」

「はいはい。」

 

 カヅチはゴミの山へ突撃する。


「これはゴミ!」ポイッ。

「これは服!」洗濯カゴへ。

「これはゴミ!」ポイッ。

「これは……下着?布?」

「下着!しかもお気に入り!絶対捨てないで!」

「はいはい。洗濯カゴ行きっと」


 さらにゴミを掘り進める。

「んっ?これは……何?」

 カヅチがピンク色の謎の正体の分からない物体を指先でつまみ、カヅチは角度を変えながら観察した。

 用途も材質も分からない。ただ、チュパ姉さんの反応を見る限り、知らないままでいたほうが幸せな物品らしい。

「「…………」」二人で見つめ合う。

 チュパ姉さんが目を逸らした。

「あ、……それは……仕事道具だから……気になるなら、使ってあげようか♡?」

「……ゴミだな!」

「バカぁぁぁ!!それがなくなったら私、仕事出来なくなるだろ!!」


「じゃあ最初からちゃんと片付けてくださいよ!てか、これ使ったらちゃんと洗ってしまっとけよ!」

「それが出来ないから頼んでるんだろぉぉ!!」

「開き直るな!」

「開き直りじゃない!諦めてんの!」

 

 そんなやり取りをしながら、カヅチはひたすら片付けていく。ゴミを分別し、服をまとめ、食器を運び、床を露出させていく。


「……よし。ようやく床が見えてきたぞ」

 さらに掃除。「【水拭き】!」シュババババッ!!

 汚れていた床が一気に輝きを取り戻す。


「【油汚れ】!」シュッ!!ベタついていた机がピカピカになる。


「この辺は【高圧洗浄】っと!」

 ブシャァァァァァ!!

「うわぁぁぁ!ちょっ!壁まで飛んでるぅぅぅ!!」

「大丈夫!そこは【修復】します!」

「直せばいいって問題じゃない!」

「はいはい!どいてどいて!!」


◇◇◇

 

 そして……数時間後。

 カヅチは部屋の中央に立っていた。

 そこには……まるで新築のように綺麗になった部屋が広がっていた。

 床に散らばっていたゴミは一つ残らず片付き、机や壁の汚れも消えている。

 さっきまで足の踏み場すらなかった部屋とは思えない。窓から差し込む光まで、どこか清々しく感じられた。


「ふぅ~~~……!チュパ姉。何とか片付きましたね……」

 カヅチが額の汗を拭う。

「…………すごい。私の部屋じゃないみたい…」

 チュパ姉さんは目を輝かせて部屋を見渡している。


「でしょう?」

「今日からゴミの布団で寝なくていい……!」

「ゴミの布団って!?」

「ありがとうカヅチぃぃぃ!!」

 チュパ姉さんがカヅチへ抱きつこうとする。

「うわっ!ちょっと!まだ仕事残ってますから!」


 その時……ピーピーピーッ!

「おっ、最後の洗濯終わった」

 カヅチは洗濯機から衣類を取り出す。

「よし、これ干したら終わりですね」

 次々と洗濯物を干していく。そして最後の一枚。

「……これで最後っと…。しかし派手なパンツだなぁ…」パンツを洗濯バサミで挟む。


「オッケー!完璧!じゃあ、俺は帰りますね」

 カヅチは箒を肩に担ぐ。

「んっ?」

 カヅチを見てチュパ姉さんがニヤリと笑う。

「カヅチ」

「はい?」

「お礼」

「え?」

 次の瞬間。スッ。カヅチの頭に、何かが被せられた。カヅチはゆっくり頭に手を伸ばす。

「何これ?……パンツ?」

「うん。お礼の脱ぎ立てパンツ♡」

「いらんわ!!」

「あははっ!せっかくだから被って帰りなさい♡」

「せっかくだから?どんなお礼だよ!!」


 カヅチはパンツを頭から外す。

「チュパ姉……これ、すっごい匂いするよ……」

「え?失礼な…人間にはたまんない匂いでしょ?あんた何ともないの?」

 チュパ姉さんがカヅチを見て目を丸くする。


「はい?すっごい匂いはしますけど…大丈夫ですよ」

「へぇ〜、私のサキュバスフェロモン、結構強いはずなんだけど……普通なら、もっとこう……」


「……ああ…俺、元勇者ですから。そういう耐性は一応、備わってますので。まあ……魔王様の谷間には無理でしたけどね…」

 カヅチは納得したように頷き、少しだけ苦笑する。


「ぷっ……!」

 その言葉聞いてチュパ姉さんがお腹を抱えて吹き出した。

「あははははっ!!イタズラされちゃった?あははっ!」

「いや、笑いごとじゃない!あれは耐性とか関係ないですから!」

「あははっ!そうよね!魔王様のフェロモンは別格よ!」

「ですよねぇ!ほんとクラクラすんだよなぁ」

 二人は顔を見合わせて笑った。そして……


「じゃ、今度こそ帰りますね〜」

「は〜い。ありがとうねー。また汚すからよろしく〜♡」

「はいはい。その時はまた来ますよ」

 カヅチはパンツを手に持ったまま、部屋を出ていく。

「さて……魔王様の顔でも見て、部屋に帰るか」

 廊下を歩きながら呟く。


◇◇◇


 魔王城・ル・セポネの部屋➖➖

 カヅチは扉の前に立つ。コンコン。

「魔王様?いますかー?」

「…………」返事はない。

「まだ、寝てるのかな?」

 カチャッ。ドアノブを回す。扉が開いた。


「失礼しま……」カヅチは、そっと中を覗く。

 全裸で体を動かすセポネ。カヅチはそっと扉を閉めた。

 扉の向こうから響く、規則正しい掛け声。先ほどまで心配していた相手とは思えないほど、力強い声だった。

 カヅチは扉の前で数秒間、沈黙。

「……めっちゃ元気になってるじゃん」


 部屋の中から、「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」という気合いの声が聞こえてくる。

 どうやらセポネは、元気いっぱいに筋トレをしているらしい。

「……あはは、とりあえず一安心……っと」

 カヅチは小さく笑った。そして自分の部屋へ向かう。

 その手には……なぜかサキュバスパンツ。

「……これ、どうしようかな……とりあえず…分解するのは後にしよう…」


 魔王城の廊下を、元勇者は今日も歩いていく。

 清掃員として。そして、魔王の玩具として。

 今日もまた、誰かの部屋を綺麗にし、誰かに振り回され、気づけば妙な物まで持ち帰る羽目になった。  勇者だった頃には、想像すらしなかった毎日だ。

 そんなカヅチの一日は、静かに終わろうとしていた。



            続

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