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番外編 獣化の術、式神貸与 閻魔の場合

白馬の一件から数日後。


地獄の執務室。

道満は書類を片付けていた。

清明はこはくの隣。

閻魔だけが暇そうだった。


「ねぇ〜」


嫌な予感のする声。

道満は顔も上げずに言う。


「碌でもないことを考えているな」

「失礼だなぁ」


閻魔は頬杖をついた。


「俺は何になるのかなって」


沈黙。

清明が顔を上げ、視線を向けた。


「道満は猫とか蛇だったじゃん?」

「清明は白馬」

「じゃあ俺は?」


道満、即答。


「虫か何かだろ」

「虫?!」


閻魔が机を叩く。


「雑!!」

「扱い雑すぎない?!」


道満は鼻で笑った。


「貴様など羽虫で十分だ」


清明は真面目に考え始める。


「……いや、虫ではないだろう」


閻魔がぱっとそちらを見る。


「でしょ?!」


清明は腕を組んだ。


「妙に人を振り回す」

「距離感が近い」

「だが掴みどころがない」

「しぶとい」


「褒めてる?」


清明は少し考える。


「猿か」


「なんで?!」


「騒がしい」

「好奇心が強い」

「あと落ち着きがない」


「お前さらっと刺すよね?!」


閻魔はむっとしながらこはくを見る。


「こはく〜この人たち酷い」


こはくは静か。

白い視線だけ向ける。


閻魔は期待した顔になる。


「可愛いのがいいな〜兎とか」


道満が即答した。


「図々しい」


閻魔は頬を膨らませる。


「え〜可愛いじゃん、白くてふわふわで」


清明が真面目に返す。


「お前は静かではない」

「臆病でもないな」


「なんでそんな冷静に否定するの?!」



少し騒いだあと。


閻魔はふと笑った。


「まぁでも、俺はこはくになれるしね」


空気が少し止まる。

閻魔は楽しそうだった。


「動物にならなくても、こはくっぽくはなれる」


そう言うと、閻魔の姿が変わる。

時間が遡ったように少年の姿になる。

 

静かな目。

穏やかな空気。

口を閉ざした白。


一瞬だけ、本当に似る。


清明の視線が鋭くなる。

道満は露骨に嫌そうな顔。


「……確かに雰囲気は近いな」


閻魔はにやりと笑う。


「でしょ?」


こはくが静かに閻魔を見る。

白い視線。


そして、小さく首を横に振った。

全然違う。


声はない。

だが、全員に伝わった。


沈黙。

閻魔、止まる。

数秒後。


「えっそこ否定されるの?!」


道満が吹き出す。

転生後清明は真面目に頷いた。


「違うな」


閻魔は机へ突っ伏した。


「なんでぇ?!」



 

地獄の深部。

黒い岩肌の広間に、赤い業火が静かに揺れている。

熱はあるのに、不思議と不快ではない。


閻魔は執務を終え、一人で歩いていた。

遠くで火の粉が舞う。


その奥にこはくはいた。

静かに業火を見ている。

閻魔は少し笑う。


「珍しいとこいるね」


こはくは振り返る。

白い目。

静かな視線。


閻魔はその隣へ並んだ。

しばらく二人とも黙って炎を見ていた。

赤い火。

黒い地。

 

白い神。

そして、地獄の王。

妙に調和していた。


閻魔がふと思い出したように笑う。


「そういえばさ」

「この前、俺だけ動物にしてもらえなかったなぁ」


軽い声。

からかうみたいに。

こはくは静かに視線を向ける。

閻魔は肩を竦めた。


「まぁ俺、自分で化けられるけど」


そう言って、ふっと気配を揺らす。

一瞬だけ空気が変わる。

こはくに似た白い静けさ。


だが目元だけが違う。

鋭い。

獣というより、 “王”の目。


閻魔はすぐ戻った。


「ほらね」


こはくは静かに見ている。

閻魔は笑った。


「でもまぁ、動物になるのはちょっと興味あったかも」

「こはくから見た俺ってどんな感じなんだろって」


こはくは答えない。

代わりに白い指先がゆっくり動いた。


術式。

黒い地へ淡い光が広がる。

閻魔が目を細める。


「ん?」


地面の影が揺れた。

業火が大きく膨らむ。


赤。

黒。

そして、巨大な影が立ち上がる。

 

巨大な象だった。

山みたいな四肢、黒曜石みたいな皮膚。

だが普通の象ではない。

身体の隙間から赤い業火が漏れている。


呼吸するたび火の粉が散る。


長い鼻。

白金の瞳。

静かな圧。


広間そのものが、その獣の存在感で満たされる。

閻魔が止まる。


「……おぉ」


珍しく、少し感心した声。

 

影象は静かに立っていた。

暴れない。

吠えない。

ただそこにいるだけで空気が重い。


業火がその脚元へ自然に集まっていく。

閻魔はゆっくり近づいた。

象は逃げない。

白金の目で静かに閻魔を見る。


「へぇ」


閻魔が笑う。


「俺っぽい」


こはくは静か。

否定しない。


閻魔はその鼻先へ触れた。


熱い。

だが心地いい熱。

業火と同じ。

破壊の火なのに、 どこか穏やか。


すると象がゆっくり鼻を持ち上げる。

閻魔の肩へ触れるみたいに。

巨大な身体なのに動きが繊細だった。


閻魔が少し目を細める。


「……なるほどね、こう見えてるんだ」


こはくが静かに手を動かす。

すると象の身体が少し揺れた。


閻魔が気づく。


「これ俺にくれるの?」


こはくは小さく頷いた。

閻魔、珍しく少し驚く。


「貸与?」


また頷き。

閻魔は数秒黙った。

それから、ふっと笑う。


「へぇ〜」

「それ、かなり嬉しいかも」


象は静かに閻魔の後ろへ立つ。

まるで最初からそこにいた守護獣みたいに。

業火がその巨体へまとわりつく。

相性は完璧だった。


地獄の炎が、 象の身体を王の装飾みたいに彩っている。


閻魔はその姿を見上げる。

そして小さく笑った。


「確かにこれは王っぽいね」


こはくは静かにその様子を見ていた。


白い神。

地獄の王。

そして業火を纏う巨大な象。


誰も言葉を交わさない。

それでも妙に満ち足りた空気だった。

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