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同じ部活の美少女がIQ3のトンデモ陰謀論者すぎて、僕が毎日へし折ってます  作者: szk
一学期編:歴史研の里見さんは、可愛く純真で陰謀論が大好き
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第32話:期末試験と文科省の陰謀

 どこにでもある少し田舎の県立高校。そして、旧校舎の片隅にある歴史研究部。

 ここは引退した先輩たちが残してくれた、学内で唯一の静寂なるシャングリラ……。



 ――夏休みを目前に控えた放課後。



 僕は定位置のパイプ椅子に深く腰掛け、ウィリアム・H・マクニールの『世界史』のページを静かにめくっていた。

 諸文明の接触と相互作用によって人類の歩みをマクロに俯瞰する、歴史学の金字塔とも呼べる大著だ。



 緻密に編まれた人類の足跡を辿りながら、僕はティーカップを傾ける。

 ああ、これこそが僕の求めていた完璧な放課後だ。



 バァァァンッ!!



 しかし、その安寧は一瞬にして粉砕された。

 部室の扉が勢いよく開き、歴史研のカオスにして我が部の部長、里見 結菜が半泣きで飛び込んできたのだ。



「助けてください千葉くん! 私の輝かしい夏休みが、ディープステートの手によって不当に強奪されようとしています!」

「……頼むから僕の平穏を奪わないでくれ。で、今度は何が強奪されるって?」



 読書を邪魔された僕は深くため息をつき、マクニールの分厚い文庫本にそっと栞を挟んだ。



「期末試験です! 来週のテストで『赤点』を取ると、夏休みが地獄の補習授業によって厳重に隔離されてしまうんです!」

「自業自得だろ。夏休み中、大人しく冷房の効きの悪い教室で泥水をすするような補習を受けていればいい」

「そんなの絶対嫌です! このままだと、夏休みに海で『A5和牛を取り戻せなく』なってしまいます!!」

「……」



 なるほど。

 里見さんが補習で拘束されるということは、あの陽キャのチャラ井や落ち武者武石たちと結託した『IQ3のバーベキュー同盟』の海BBQが頓挫することを意味する。

 計画自体が霧散するのは僕としては大歓迎なのだが、テスト当日までずっとこの調子で部室で喚かれ、僕の平穏な読書時間を奪われ続けるのだけは、絶対に敵わない。



 ふと見ると、向かいのパイプ椅子では後輩の花見川 若葉が、里見さんの悲鳴を完全にスルーしながら、無反応でスマホのSNSチェックに没頭していた。



「ちょっと若ちゃん! もっと驚いて下さい! この国家規模の危機を共有してくださいよ!」

「……え?」



 若葉は面倒くさそうにスマホからようやく目を離すと、あっけらかんと言い放った。



「だって、里見先輩が成績良いわけないじゃないですか。今さら何を驚くんですか?」

「ひ……酷いです! 私だって全部の教科が悪いわけじゃないんです!!」



 頭悪い認定への凄まじい猛抗議を受け、僕は諦め顔で里見さんに手を差し出した。



「分かったから騒ぐな。お前みたいなアホは全教科もれなく赤点だろう。ほら、中間試験の成績表を見せてみろ」



 里見さんからひったくるように成績表を受け取り、その中身を一瞥した瞬間、僕の動きがピタリと止まった。

 横から同じように覗き込んできた若葉も、そのまま彫刻のように固まる。



「数学88点、英語82点、生物85点……」



 なんだと……白昼夢でもみているようだ。

 こいつ、変なオカルト知識に脳みそをハックされているだけで、地頭自体は普通に優秀なのか……!



「う……嘘でしょ!? 里見先輩がこんなに高成績なこと自体が、よっぽど文科省の陰謀ですよ!」

「エッヘン! これでも私、中学の頃はいつも学年10位圏内をキープしていたエリートなんですから!」



 涙を引っ込め、ふんぞり返ってこれ以上ないドヤ顔をキメる里見さん。

 しかし、成績表を下に向かってスクロールしていた僕の目が、一番下の項目でピタリと止まった。



 そこには、燦然と輝く『12点』という壊滅的な赤点。



 僕はこめかみを強く押さえ、限界寸前の低い声で問い詰めた。



「……おい。歴史研の部長のクセして、何でお前は歴史(世界史)の試験だけ赤点なんだ。ちゃんと勉強したのか?」

「し、しました! 寝る間も惜しんで勉強したのに、私の答えが全部間違っていたんです! これはもう、真実を隠蔽しようとする文科省の陰謀としか思えません!」



 里見さんは涙ながらに猛抗議してくるが、僕は容赦なく、彼女が持参した世界史の答案用紙を広げた。

 そこには、採点した教師の深い絶望が伝わってくるような赤ペンの雨と、教育要綱を完全に超越した「迷回答」の数々が並んでいた。



【問:古代の四大文明をすべて答えなさい】

 回答――『四大文明はGHQの洗脳です。世界最古は、1万年前に存在した超古代日本文明です』



「……ちょっと待て!」

「ファクトです! 教科書が都合よく改竄されているだけです!」


 

 全く悪気もなく、いつものようにドヤ顔を決める里見さん。

 僕は額に手を当てながら、次の問題に目を移した。



【問:ローマ帝国による支配に反発して起きた『ユダヤ戦争』により、パレスチナを追われたユダヤ人はどうなったか】

 回答――『古代日本に逃れて、現在の日本文明の様式や神社仏閣の構造に多大なる影響を与えました』



「……お前、日ユ同祖論を高校のテストの答案に書く奴があるか!」



 日ユ同祖論の過激な拡大解釈……。

 間違いない。こいつ、勉強のソースが学校の教科書じゃない。



「……お前、テスト勉強を教科書じゃなくて、ネットのオカルト掲示板や怪しいまとめサイトでやったな?」

「当然です! 学校の教科書なんて、政府が都合よく編纂したただのプロパガンダ本じゃないですか!」



 堂々と胸を張り、邪気のない綺麗な瞳で言い切る里見さん。

 


「なら、夏休みも大人しく学校へ来て補習を受けるんだな。じゃあな」



 僕が冷酷に成績表を突き返すと、彼女のIQ3のドヤ顔はみるみるうちに半泣きの物乞いと化す。


 

「う……ごめんなさい! 見捨てないでください、教えてください千葉くん!」

「嫌だ。陰謀論でいっぱいなお前の脳みそにまともな歴史を叩き込むなんて、エネルギーの無駄だしタイパが悪すぎる。自分で教科書を丸暗記しろ」



 部室の床に突っ伏して絶望する里見さん。

 その時、部室の扉が厳かに開き、紋付き袴に烏帽子姿の武石が満を持して堂々と入ってきた。腰にはいつものおもちゃの模造刀。



「ご安心下され、安房守(里見)様! 歴史は某の最も得意とする学問! 上総介(千葉)様のお手を煩わせるまでもござりませぬ! この某が、付きっきりでご指南奉りまする!」

「本当ですか、武石くん! やっぱり持つべきものは頼れる同盟相手ですね!」



 一転して救世主を見る目になる里見さん。

 得意げに鼻を鳴らした武石は、机の上に置かれていた世界史の教科書をひょいと一瞥した。

 ――そして、数秒でその顔面がみるみる土気色に変わっていく。



「あ……せ、世界史……? 某、戦国(国内)の戦には通じておりますが……南蛮の歴史はさっぱり分かりませぬ故……これにて御免仕りまする!!」



 武石は言うが早いか、脱兎の如き速さで部室からフェードアウトしていった。



「そ……そんなぁぁぁーーっ! 同盟の裏切りですぅぅっ!!」



 再び地獄に突き落とされた里見さんは、「A5和牛のBBQを取り戻すんです!」と涙ながらに訴え、必死に僕の机にしがみついてくる。

 その凄まじい執念に負け、僕は頭を抱えながらついに折れた。



「いいか里見さん。テストで点数を取るためには、まずその脳みそから『真実(陰謀論)』を完全に排除しろ。これから試験までの一週間、お前には『政府の言いなりになる、知性を放棄した従順な羊』になってもらう」

「くっ……! 悔しいですが、夏休みに霜降り肉を解放するためです……! 私をいくらでも調教(洗脳)してください、ハンドラー(千葉くん)!」

「よし。まずはヨーロッパの中世史だ。ヨーロッパのカオスな暗黒時代を、お前のカオスな脳みそに相殺させる形で叩き込む」



 こうして、地獄のスパルタ思想統制(勉強会)がスタートした。

 しかし、数分後には部室に僕の怒号が響き渡ることになる。



「――お前! なんで十字軍の遠征理由が『フリーメイソンの初期組織による資金洗浄の陰謀』になってるんだ! さっき僕が教えた、セルジューク朝の圧迫に対するビザンツ帝国からローマ教皇への救援要請のくだりはどこへ行った!?」

「ふふふ……甘いですね千葉くん」



 里見さんは不敵な笑みを浮かべ、人差し指をチッチッと振った。



「救援要請なんてものは、あくまで大衆を欺くための表の理由。そこに隠された闇の調停者の真実は――」

「真面目にやらないなら、もう二度と教えないからな」



 僕が世界史の教科書をパタンと閉じ、冷徹な目を向けると、里見さんは形振り構わず床に平伏した。



「ひ、ひぐッ! ご、ごめんなさい! ビザンツ帝国です! 教皇万歳です! 嘘の歴史を脳に刻みますからァッ!」



 高校の試験勉強とは思えないその凄惨な光景に、若葉が冷え切った目で僕たちを見つめボソッと呟く。



「……宗教裁判か何かですか、これは?」

 





 そんなこんなで、僕による徹底的な「思想統制」が行われた結果、期末試験本番で里見さんは何とか平均点レベルの普通の答案を提出し、無事に赤点を回避した。



 ――しかし。



 普段の授業態度や突飛な発言からは到底考えられないほど、「理路整然とした政府寄りの模範的回答」が並んでいたため、世界史の担当教師から『逆に不自然すぎる』と、普通にカンニングを疑われて職員室に呼び出されたらしい。



 遥か遠くの職員室から、「私はディープステートの犬を演じただけです!」「A5和牛を取り戻すんです!」などと訳の分からぬ供述をして、さらにドツボにハマっている里見さんの声が、この部室まで聞こえてくる。



 僕はそっと、分厚いマクニールの『世界史』を開き、心の奥底で絶望的な独白をこぼす。



(どれほど緻密に『文明間の相互作用』を解き明かそうとも、オカルト掲示板の怪しい書き込みと脳内で勝手に相互作用を起こす、この『野生の陰謀論者』の前では、あらゆる歴史学の権威もただの紙屑に等しい……)



 ああ、今日僕は、人類の壮大な歴史を冒涜する一人の厄災を、図らずも救ってしまったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


【第32話】は、夏休みのA5和牛BBQを懸けた、里見さんと文科省(期末試験)の壮絶な戦いをお届けしました!


まさかの地頭は良いのに、陰謀論にハックされているせいで世界史だけ「12点」を叩き出す歴史研部長の里見さん。そして、秒速で裏切る同盟相手の武石。

最終的にディープステートの犬を演じきった彼女ですが、職員室での戦いはまだまだ続いているようです。


次回【第33話】は、金曜日に更新予定です!


もし「里見さんの迷回答ww」「宗教裁判ww」「カンニング疑われてて草!」と少しでも笑っていただけた方は、

ぜひ、ページ下部から【ブックマークに追加】や、

【☆☆☆☆☆】の評価を【★★★★★】へポチッとお願いいたします!


皆様からの温かい応援(ブックマークや評価、ご感想)が、職員室で尋問を受けている里見さんを救い出し、IQ3のバーベキュー大会を実現させます!

今後ともよろしくお願いいたします!

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