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第3話:某国の陰謀と特上カルビ

 どこにでもある少し田舎の県立高校。そして、旧校舎の片隅にある歴史研究部。

 放課後。学内で唯一の静寂なるシャングリラである歴史研究部の部室で、僕は今日も定位置のパイプ椅子に深く腰掛け、オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』を読んでいた。



 ガチャリ、と無遠慮に扉が開く。

 現れたのは、ポニーテールを揺らす我が部のカオスな陰謀論者……ではなく、ひどく機嫌の良さそうな中年の男だった。



 「やあ千葉君。今日も『たった一人』で読書かね?」



 ねっとりとした嫌味な声。本校で歴史を教える柏葉かしわば先生だ。

 彼は以前、授業中にローマ時代のゲルマン人の大移動に関する歴史的背景と、それに伴う気候変動の影響について、僕が少しばかり見解の甘さを指摘したことを未だに根に持っているらしい。

 教師としてのプライドを粉々にされた彼は、僕を見るたびに苦虫を噛み潰したような顔をするようになり、今日は何故か三流悪役のような薄ら笑いを浮かべている。



 「……何かご用ですか、先生」

 「実はね、君たち歴史研究部の『廃部』が正式に決定しそうなんだよ。活動実態も不透明だし、何より部員が足りない。悲しいが、これも学校のルールでねぇ。ふふふっ」



 これ見よがしに肩をすくめ、ねちっこく最後通告を突きつけると、柏葉先生は満足げに鼻を鳴らし、我が世の春とばかりに部室を出て行った。

 ……なるほど、権力を持った小悪党というのは、いつの時代もロクなことをしないものだ。



 バンッ!!



 「千葉くん! ついに見つけましたよ! 購買のメロンパンが毎日売り切れる理由……それは国際金融資本の……!」



 柏葉先生と入れ替わるように、蝶番を破壊する勢いで里見さんが飛び込んできた。今日も元気にIQ3のドヤ顔をキメているが、あいにく今はメロンパンの陰謀に付き合っている暇はない。

 僕は本を閉じ、少し悪だくみするような笑みを浮かべて彼女を遮った。



 「里見さん。メロンパンより、もっと国家規模の巨大な陰謀を暴いてみないか?」

 「えっ!? 国家規模!?」

 「ああ。歴史の柏葉先生だが……どうも日本弱体化を画策する敵対諸国から指令を受け、偏向した歴史教育を行っている疑いがある。頻繁に『工作員』と接触している可能性があるから、素性を調査すれば、裏の顔が見えるかもしれない」

 「……っ! そういえば! 柏葉先生の歴史の授業は、いつも私の知る真実(歴史)とはだいぶかけ離れていました!!」



 純真無垢な陰謀論女子に、極上のガソリンが投下された瞬間だった。

 彼女の瞳はかつてないほどに輝き、真っ赤なリボンをプルプルと震わせながら「私に任せてください!」と敬礼し、再び嵐のように部室を飛び出していった。



 ――数日後。



 「大変です、千葉くん! 柏葉先生に、C国のハニートラップが仕掛けられています!!」



 息を切らして部室に駆け込んできた里見さんが、ドンッ! と机に数枚の写真を叩きつけた。

 そこには、繁華街のネオンを背に、派手なホステス風の若い女性と腕を組んで、いかがわしいホテルへと吸い込まれていく柏葉先生の姿がバッチリと収められていた。



 (……よし)



 僕は内心でほくそ笑んだ。以前から、柏葉先生の女性関係がだらしないという黒い噂は耳にしていたのだ。

 里見さんの無駄な行動力を誘導すれば、或いはと思ったが、期待以上の釣果である。『何とかとハサミは使いよう』なんて、良く言ったものだ。



 さらに数日後の放課後。

 廃部の手続きを進めるため、再び意気揚々と部室にやってきた柏葉先生の前に、僕は無言でその写真を数枚、扇状に広げて見せた。



 「なっ……!? き、君、これは……!!」



 先ほどまでの三流悪役の笑みはどこへやら。柏葉先生の顔面から一瞬にして血の気が引き、土気色に変わる。


 

 「誰にだって魔がさすときくらいありますよね……先生?」



 パイプ椅子に座ったまま、僕は冷徹に、そして極めて慈悲深く微笑みかけた。



 「僕らも鬼じゃない。まあ、廃部のことを『もう一度よく考え直してくださる』ようであれば、僕もこんな写真のことなんか、明日には綺麗さっぱり忘れてしまいますよ?」

 「あ……う、うぅ……っ」

 「先生、どうか勘違いしないで下さい。……僕はただ、先生の高尚で素晴らしい歴史の授業を、もっと聞いていたいだけなんです」

 「ぐぬぬぬぬ……! ふん!」



 顔を真っ青から真っ赤へと変色させ、柏葉先生はひったくるように写真を回収すると、逃げるように部室から去っていった。これで当分、この静寂なるシャングリラが脅かされることはないだろう。



 彼と行き違いで、今日も里見さんが極上のドヤ顔で部室に入って来る。



 「千葉くん! それで、あのC国のスパイの件なんですが、もっと深く調査を……!」

 「ああ、あれ。よく調べたら、どうやら敵対諸国が日本人を分断させる為に、ネットに流したフェイクニュースだったみたいだ。スパイなんていなかったよ」

 「ええええっ!? せっかく私が張り込んだのに! ひどいです!」



 真実(ただの不倫)を教える義理もないので適当に切り捨てると、里見さんはあからさまに頬を膨らませてブー垂れた。

 まあ、今回は彼女の有り余る機動力に救われたのも事実だ。



 「悪かったよ。お詫びに、今度なんか奢るから機嫌を直せ」

 「嘘!? ホントに? じゃあ私、叙情苑で特上カルビ食べたいです!」



 遠慮という概念を母親の胎内に置いてきたのか、このカオス女子は悪意ゼロの満面の笑みで、数万円単位の要求を突きつけてきた。



 (……そうだな。少し高くついたが、領収書は柏葉先生にでもまわしておくか)



 僕は小さく息を吐き、少しだけ口角を上げると、再び『ドリアン・グレイの肖像』のページを開いた。

 教育者を気取った、美しき偽りの仮面。だが、その裏に隠された醜い欲望の肖像画(写真)は、しっかりと僕のスマホの中に保存されている。



 涎を垂らしながら、高級和牛の妄想をする嘘偽りのない純真無垢な彼女を見て、僕は穏やかに微笑した。



 ああ、今日も僕の平穏な読書時間は、こうして守られたのだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

千葉くんの「少し黒い部分」と、里見さんの無駄な行動力、いかがだったでしょうか?


さて、怒涛の開幕3話連続更新はここまでとなります。


次回(第4話)からは、毎週【水曜日と金曜日】の【12:30】にお昼休みの息抜きとして定期更新をしてまいります!


もし「フフッ」と笑っていただけたり、「千葉くんの外道っぷりが好き」「柏葉先生の財布が心配……」と思っていただけましたら、ぜひ星5つ(☆☆☆☆☆)の評価と、【ブックマーク】をお願いいたします!


皆様の応援(星とブクマ)が、里見さんの『トンデモ陰謀論』を更に加速させる極上のガソリンとなります。

それでは次回、水曜日のお昼の更新で、新たな陰謀論と共にお会いしましょう!


※週のバランスを考慮し、【毎週 火曜・金曜】の更新へと変更させていただきます。

次回の第4話は【次の火曜日 4/21 12:30】に更新いたします。


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