表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/8

第4話:活動的な陰謀論者と金属探知機にご用心

 どこにでもある少し田舎の県立高校。そして、旧校舎の片隅にある歴史研究部。

 ここは引退した先輩たちが残してくれた、学内で唯一の静寂なるシャングリラだ。



 放課後。僕の平穏な読書時間は、ドイツの文豪によって彩られていた。



 定位置のパイプ椅子に深く腰掛け、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの『格言集』のページをめくる。

 十八世紀を生きた偉大なる詩人が遺した、人間の本質や愚かさを突く鋭い言葉の数々。

 なるほど、時代がどれだけ進歩しようと、人間の業というものは根本的に変わっていないらしい。



 僕は静かな部室で一人、歴史の真理に舌鼓をしていた。



 バンッ!!



 「千葉くん! 学校の裏の調整地には、戦時中に墜落したUFOが隠蔽されています! 政府の陰謀です!!」



 蝶番の悲鳴と共に、我が歴史研のカオス、里見 結菜が今日も意気揚々と飛び込んできた。

 彼女は漁師が着るようなつなぎを着て、田植えでもしてきたみたいに顔や手に泥をつけている。

 そして、その手にはなぜか、工事現場で使う本格的な業務用の金属探知機と、泥のついたスコップが握られていた。



 嫌な予感しかしない。僕はゲーテを閉じ、こめかみを押さえた。



 「いつから歴史研は、オカルト研究会になったんだ?」

 「ちちち……」



 里見さんは得意げに人差し指を振り、今日も元気にIQ3のドヤ顔をキメた。



 「私がそんな宇宙人とか、非科学的な事を言うなんて思いました? 戦時中に、既に旧日本陸軍が開発した特殊円盤型戦闘兵器の試験機に違いありません!」

 「いや、ある意味宇宙人より荒唐無稽だぞ……。大体、なんだそのガチすぎる機材は?」

 「誕生日におじいちゃんに買ってもらいました! さっき裏の調整地周辺を調査してみたら、地中深くにものすごい金属反応があったんです! さあ、千葉くんも一緒に歴史的真実を掘り起こしに……」



 ――ピタリ、と。

 僕の思考が停止した。



 裏の調整地。……確か、旧日本軍の施設跡で、ずいぶん長く開発もされていないはず。地中深くの大きな金属反応。そして、彼女の手にあるスコップ。

 歴史研究部として、いや、この地域に住む人間として、ある『歴史的ファクト』が脳裏をよぎる。

 このあたりは太平洋戦争末期、田舎にも関わらず、米軍の空襲に遭ったエリアだ。



 (だったら、地中に埋まってる金属って……いやいや、待て待て。流石にそれは……)



 彼女の狂気に免疫のあるはずだった僕の顔から、サーッと血の気が引いて行く。

 我が歴史研の救いようのない陰謀論者、里見 結菜。

 彼女の本当の恐ろしさは、IQ3のトンデモ陰謀論の数々などではなく、たまにマジもんのヤバいネタを釣り上げてきてしまうってことだ。



 「……里見さん。お前、まさかそのスコップで、すでに掘り始めたんじゃないだろうな?」

 「え? はい! 思ったより細長い形状で、あと少しで装甲の表面が見えそうだったんですけど、固くてスコップの刃が立たなくて。ガンガン叩いてみたんですけどダメで、千葉くんも手伝って――」

 「バカッ!! 動くな!! 息もするな!!」

 「ひゃっ!?」



 僕はパイプ椅子を蹴り飛ばし、震える手でスマホを取り出すと、迷わず『110番』をタップした。





 ――明くる日。県下屈指の伝統校である我が東總とうそう高等学校は、建学以来最大のパニックの渦中にあった。



 ああ、こういうときの僕の悪い予感ていうのは、良く当たるものなんだ。



 校庭は完全に封鎖され、立ち入り禁止を示す黄色いポリスラインが張り巡らされている。

 上空ではけたたましい音を立てて地元テレビ局の報道ヘリが旋回し、マイクを持ったリポーターと野次馬が殺到していた。



 立ち入り禁止区域から十分に離れた安全圏――避難先として指定された別棟の教室の窓――からグラウンドを見下ろすと、物々しい防護服に身を包んだ自衛隊の爆発物処理班が、先の大戦の負の遺産(特大の不発弾)をクレーンで慎重に運び出しているところだった。

 当然、僕ら高校の生徒たちも、スマホ片手に興奮冷めやらぬ様子でざわつき、その異様な光景を騒然と眺めていた。

 校長に至っては顔面蒼白で、マスコミのフラッシュを浴びながら天を仰いで拝むようなポーズをとっていた。



 「おいおい、マジかよ……」

 「誰が通報したんだ?」

 「うちの学校、ニュース速報でテロップ流れてるぞ!」

 「見つけたの、歴史研らしいよ?」

 「ちょっと、恐くない? ていうか、何で歴史研が爆弾見つけてんの?」



 無理もない。平穏な田舎の高校の裏の調整地から、全長一メートルを超える本物の航空爆弾が出てきたのだから。

 まさかあの本物の不発弾を、祖父から誕生日に買ってもらった金属探知機とスコップでガンガン叩いて掘り出そうとしたアホが身内にいたなんて、ここにいる誰もが夢にも思わないことだろう。



 しかしながら、もし僕が全力で止めなければ、彼女はあのままスコップで爆弾の信管を叩き割り、少なくとも学校中の窓ガラスと歴史研のある部室棟くらいは道ずれにして、歴史の塵となっていたことは間違いないだろう。

 いや、その方が世界の為だった気もしないでもないが……。



 「あぁぁー! 見てください千葉くん! 自衛隊の特殊部隊ですよ! やっぱりあれは旧日本陸軍のオーパーツだったんですよ! くっそー、あと少しで歴史的真実に辿り着けたのに、政府に先を越されました!!」



 本物の爆弾を前にしても尚、一人だけスパイ映画の主人公のような顔をして、コミカルに地団駄を踏む里見さん。

 僕は窓の外の光景から目を逸らし、震える手で『ゲーテ格言集』を開き直すと、ある一文に視線を落とし、今日一番の深いため息を吐いた。



 ――『活動的な馬鹿ほどタチの悪いものはない』



 ……さて、ゲーテの周りにも、こんな破天荒な陰謀論者でもいたのだろうか?

 いずれにせよ、何だか他人とは思えない切実さだな……。



 ああ、今日も僕の命と平穏な読書時間は、こうしてギリギリで守られたのだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

里見さん(活動的な陰謀論者)の本領発揮(ガチの狂気)は、いかがだったでしょうか?


次回(第5話)は、金曜日の【12:20】に更新予定です!


さて、次回はいよいよ歴史研に、待ちに待った新入部員が!?


少しでも「フフッ」と笑っていただけたり、千葉くんの寿命と胃腸が心配になった方は、ぜひ星5つ(☆☆☆☆☆)の評価と、【ブックマーク】をお願いいたします!


皆様の応援(星とブクマ)が、里見さんの『トンデモ陰謀論』と千葉くんの胃痛を、更に加速させます。

それでは次回、金曜日のお昼の更新でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ