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同じ部活の美少女がIQ3のトンデモ陰謀論者すぎて、僕が毎日へし折ってます  作者: szk
一学期編:歴史研の里見さんは、可愛く純真で陰謀論が大好き
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第27話:パーフェクトヒロイン・成田 七海の脅威 II (発動編)

 どこにでもある少し田舎の県立高校。そして、旧校舎の片隅にある歴史研究部。

 教室に充満する『同調圧力』という名の息苦しい重力から逃れ、僕はパイプ椅子に深く腰を下ろした。



 時代錯誤の落ち武者、アーバンをこじらせた女子、そしてホワイトボードで海外諜報員の割り出しに勤しむ質量の伴わない狂気。

 噛み合わない会話と、一切の責任が存在しないこの無重力空間シャングリラに身を委ね、僕はようやく安堵の息を吐き出した。



 ――コンコン。



 だが、その平穏は、礼儀正しくも無慈悲なノックの音によって破られた。

 ギギィっと扉が開き、初夏の風と共に現れたのは、一切の乱れなく夏用の白いセーラー服を着こなした我がクラスの委員長――成田 七海だった。



「千葉くん、こんなところにいたんだ。気分が悪いみたいだったから、心配で追ってきちゃった」



 誰も拒絶できない『純度100%の善意』。

 その最強の大義名分を盾にして、大英帝国(成田)は僕のシャングリラへと足を踏み入れた。

 逃げ場のない密室で、彼女は聖母のように優しく微笑み、首を傾げる。



「やっぱり、私と一緒に生徒会副会長やってもらうの……迷惑だったかな?」



(……終わった)



 僕は絶望に目を閉じた。ここで「迷惑だ」と答えれば、後々、僕は純粋な善意を踏みにじる人間のクズとして社会的(クラス内で)に抹殺される。

 これがパーフェクトヒロインの持つ絶対的な暴力だ。



「ちょっと! いきなり来てなんなんですか!」



 僕が白旗を揚げるより早く、噛み付いた者がいた。若葉だ。

 あからさまな僕の動揺を見て、強敵の出現に危機感を覚えたのか、彼女は持てる語彙力をフル稼働させて立ち塞がった。



「先輩のサステナブルなパーソナルスペースに、インセンティブなしで踏み込むのはコンプライアンス違反です!」

「ふふっ、ごめんね。千葉くんの後輩ちゃんかな?」



 薄っぺらいカタカナマウントに対し、成田は一切動じなかった。

 それどころか、スッと若葉との距離を詰め、その胸元に優しく手を伸ばした。



「セーラー服のリボン、少し緩んでるよ。せっかくカワイイんだから、こういうところもきちんとしておかないと」

「あっ……」



 綺麗に形を整え直されたリボン。そして、至近距離から向けられた圧倒的な肯定と包容力。

 それは、承認欲求に飢えたアーバンガールにとって劇薬だった。



「あ……ありがとうございます……」

「ううん。あなたみたいに聡明でおしゃれな子がいると、歴史研も華やかでいいね」

「千葉先輩……成田先輩、凄くいい方です!」



 瞬殺だった。若葉は頬を染め、脳内に花畑を咲かせながら、あっけなく大英帝国に無血開城してしまった。



「ふん、若狭(若葉)め、簡単に篭絡されおって。上総介(千葉)様! ここは家臣筆頭の武石 胤久にお任せくだされ! 朝廷(生徒会)のくのいちめ、それがしが討ち取ってくれる!」



 見かねた武石が、プラスチックの模造刀を構えて前に出る。

 しかし、成田は武石のカオスすぎる紋付き袴姿を見ても、微塵も引かなかった。



「ふーん、その格好、本物のお侍さんみたい! わざわざ放課後に着替えてるの? だとしたら、きっちり節度を持って自己表現をしてて偉いんだね」

「いや……その、これが某の正装であって……」

「それに、今って女性みたいに綺麗な顔した男の人が持て囃されてるけど、やっぱり私、コンサバで武士みたいに男らしい人って素敵だと思うな!」



 そう言って、成田はここぞとばかりに武石の着物の袖へ、あざといボディータッチを放った。



「いや……やはや、さすが朝廷のお公家様(生徒会役員)! ご立派な御仁でござりまするな!」



 一撃だった。武石もまた、顔をだらしなく緩ませて陥落した。

 なんということだ。僕の安全圏の住人たちが、成田の放つ「承認欲求のハック」という魔法によって、次々と植民地化されていく。



(これが……パーフェクトヒロインの持つ、圧倒的な盤面支配力……!)



 僕がパイプ椅子の上で震え上がった、その時だった。

 ホワイトボードの前で海外諜報員を割り出していた歴史研の厄災が、マーカーペンを手にしたまま振り返った。



「……なるほど。千葉くんがディープステートの闇から逃れてきたと思ったら、闇の政府から追手が来ましたか」



 全てを悟ったかのようなIQ3のドヤ顔に、成田は一瞬たじろいでしまう。

 もちろん、成田とて『セーラー服の悪魔』を知らないわけはない。だが、そんな風評ごときで引き下がる大英帝国ではなかった。



「えっ? 里見さんって面白いね。私は闇の政府じゃなくて、ただの生徒会の書記だよ」



 七海がいつものように、完璧なロジックと優等生の微笑みで対応しようとする。しかし、里見さんは鼻で笑った。



「なるほど! 学校を牛耳る裏生徒会の総書記というわけですね!」


 

 七海の笑顔が、ほんの少しだけ引きつった。



「……ふふっ、里見さんって本当に想像力が豊かだね。私は信任投票で選ばれた普通の生徒会役員だよ」

「ははん……私はそんなナラティブには騙されませんよ! 独裁者お得意の不正選挙で、権力の座についたというわけですね。対立候補を事前検閲で排除した上での信任投票なんて、完全に民意をコントロールした恐怖政治です!!」



 今まで慈悲深さで綺麗にコーティングされていた彼女の語気が、少しずつ剥がれて棘が出てくる。



「ただの定員割れだよ。不正選挙って……生徒会選挙で、どんな不正をするのかな?」

「ふふふ……あなたたちの息の掛かった業者に発注を行い、投票数の改竄が可能な投票・集計システムにしていることは、丸ッとお見通しです!」



 国家レベルの陰謀が、予算数万円の田舎の県立高校の生徒会に直撃した瞬間だった。

 完璧なヒロインの脳内で、凄まじい処理落ちのエラー音が鳴り響くのが見えた気がした。



「え……? 投票用紙の集計は、全部手作業だよ?」



 成田が困惑気味にファクトを提示する。

 しかし、質量ゼロの陰謀論者には、物理攻撃など一切通用しない。



「手作業……! なるほど、集計係の生徒たちを事前にマインドコントロールしているか、あるいは……闇の資金を使って買収していたんですね!」

「なわけないでしょ! 買収っていくらかかると思ってるの!? 生徒会の予算は年間――」

「ボロを出しましたね! ムキになるということは、つまり裏金があることを認めるんですね!」

「言ってない! ちょっと待って、論理が飛躍しすぎ!」



 バグだった。

 七海の持つ「社会性」「論理」「善意」という最強の武器が、里見さんというブラックホールに吸い込まれ、すべてが陰謀論のエビデンスとして無慈悲に誤変換されていく。

 


 IQ3の相手に真っ向から反論しようとした結果、聡明な優等生のIQも急激に低下していく。

 そしてついに、七海の「完璧な聖母の仮面」が音を立てて砕け散った。



「ああもうっ! は? だから手作業だって言ってんじゃん! 本当にバカなの!?」



 素だった。年相応の、いや、それ以上にガラの悪い等身大の「負けず嫌いな女子高生」がそこにいた。

 その瞬間。



「えっ……」

「おや……?」



 脳内お花畑でフワフワと浮かれていた若葉と武石の顔から、スッと表情が抜け落ちた。

 完璧なヒロインが本気でブチギレる姿を目の当たりにして、見事にドン引きしたのだ。

 自爆によって、成田はせっかく洗脳した手駒を一瞬にして失った。



 盤面は完全にカオスと化した。ムキになって裏金を否定する成田と、一切譲らない里見さんの異次元レスバトルの決着は、誰にも予測不可能に思われた。



 ――タッタラ、ラララ、ラーラララー。



 不意に、校内放送のスピーカーからノスタルジックな『蛍の光』のメロディが流れ始めた。



 ――『生徒の皆さんに連絡します。完全下校時間となりました。速やかに下校してください』



 事務的な放送委員のアナウンスが、シュールな地獄絵図に無情な終止符を打つ。



「ああっ……! ああもう、時間じゃない!」



 成田はギリッと歯噛みし、乱れた息を整えながら悔しそうに扉へと向かった。



「……里見さん、今日は時間だからこのくらいにしておくけど、次はこうはいかないからね!」

「さすが裏生徒会総書記! 独裁国家の秘密警察なみに執拗ですね!」

「誰が総書記か!」



 勝ち誇る里見さんをキッと睨みつけ、七海は部室から撤退していった。

 嵐が去り、再び静寂を取り戻した歴史研の部室。

 僕は安堵してクンデラの文庫本を閉じ、深い感慨と共に目を閉じた。



 ――成田 七海の重力を振り切ったとき、僕は狂気の陰謀論者に救われたことに気が付く。

 それが、彼女の最強の(イージスシステム)としての役割に繋がった。そう言う意味では、確かに歴史研に希望はあったのだ。



 僕の愛する平穏なモラトリアムは、こうして守られた。

 明日からもまた、このくだらなくも愛おしい無重力空間で――



 ギギィッ。



「それと千葉くん。私、諦めが悪い方だから、よろしくね!」



 不意に開いた扉の隙間から、本性を隠そうともしない七海が、獲物を狙う肉食獣のような笑顔で言い放った。



 ゾゾゾッ……!



 僕はパイプ椅子の上で、今日一番の恐怖に慄いた。

 大英帝国の侵略は、まだ始まったばかりだったのだ。



 ああ、今日も僕の質量ゼロの軽いモラトリアムは、こうして守られたのだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、パーフェクトヒロインの『圧倒的な同調圧力(重力)』が、歴史研の『質量ゼロの陰謀論ブラックホール』に真っ向から衝突し、見事に粉砕される【第27話】、いかがでしたでしょうか。


次回【第28話】は、来週火曜日に更新予定です!


もし「里見さんがニ〇ータイプ過ぎるww」「なんだかんだ歴史研が、人類(千葉くん)第二の故郷になってて草!」と少しでも思っていただけた方は、

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