vol.76 女子会ミドヴァ③
Midnight Verdictの冠番組『女子会ミドヴァ』は、ビジュアルの強さと、飾らないトークで視聴者を掴んでいた。
MCのゴリマッチョ岡田と桜木麗子が場を回し、スタジオはいい感じにあったまっている。
「さあ、続いては視聴者からの質問コーナー!」
岡田がフリップをめくる。
『メンバー同士、普段はどう呼び合ってるんですか?』
岡田
「さあ、皆さん、これはファンの方々が一番気になっていることかもしれませんね!
まずは、リーダーのけいとさんからお願いします!」
けいとさんがマイクを持つ。
笑顔はクールで、答えはあっさり。
けいと
「普通に、あや、さやか、かおり、ひなた、こはる、です。
変わった呼び方はしてないですね」
岡田
「さすが、クールビューティー!」
あや
「私も、けいと、さやか、かおり、ひなた、こはる…ですかね。
たまに、ひなたには『ひな!』とか、短く呼んだりもしますけど。
あとは…そうですね…プライベートでは…」
そこで、言葉がふっと止まった。
桜木が、その間を逃さない。
桜木
「おや?
プライベートでは特別な呼び方があるんですか?
気になりますね~」
あや
「いえっ!
なんでもないです!」
あやさんは慌てて。ブンブンと手を振った。
その必死さにスタジオが沸いた。
さやか
「私は、けいとちゃん、あやちゃん、かおりちゃん、ひなたちゃん、こはるちゃん……かな。
ひなたちゃんは、たまに『ひなちゃん』って呼ぶこともあります」
桜木
「さやかさん、癒し系~!」
かおりさんは、マイクを持つなり短く切った。
かおり
「けいと、あや、さやか、ひな、こはる」
岡田
「潔い!
かおりさんらしい!」
そして、ひなちゃんがマイクを握ると、空気が一段明るくなる。
ひなた
「私は、けいと、あや、さやか、かおり、こはる!
みんな呼び捨て!
そのほうが仲良しって感じしない?」
笑いが起きる。
最後に回ってきたのは、こはるちゃん。
ふわふわした笑顔のまま、マイクを持った。
桜木
「さあ、最後はこはるちゃん!
こはるちゃんは、みんなのことどう呼んでるの?」
こはるちゃんは、少し考えるように首を傾げ、そして、とんでもない一言を放った。
こはる
「えっとね…けいとちゃんでしょ?
あやちゃんでしょ?
さやかちゃんに…かおりちゃん!
ひなちゃんにけんたろうちゃん!」
――けんたろうちゃん?
時が、止まった。
スタジオの歓声も、BGMも、僕の鼓動さえも、すべてが消失した。
けんたろう、ちゃん?
それ、僕のことだよね?
今、全国放送の電波に乗って、僕の名前が?
静寂を切り裂いたのは、奇妙な水音だった。
「ぶふぉっ!!!」
優雅に紅茶を飲んでいたあやさんが、毒霧のように液体を噴射した。
茶色い霧が、MC岡田の顔面を直撃する。
「ごほっ!ごほっ!!」
けいとさんが、今まで見たこともない形相でむせ返り、椅子から崩れ落ちそうになる。
あの鉄壁の女王が、だ。
「……おい!
こっ……こはる!!」
あやさんの顔は真っ青だ。
だが、当のこはるちゃんはキョトンとしている。
「え?
なに?
みんなお腹痛いの?」
スタジオは阿鼻叫喚のカオスに叩き落とされた。
スタッフが慌てふためき、カメラが意味もなく天井を映す。
MC岡田は、顔を茶色く濡らしたまま硬直している。
MCに二人は笑いで押し切ろうとする。
押し切るしかない。
「い、いや~!
こはるちゃん、面白いですね!
けんたろうちゃんは仲良しの……ぬいぐるみか何かかな!?
ははは……!」
「そ、そうよね!
可愛い名前!」
だが、その声は裏返っている。
動揺は隠せない。
隠せるわけがない。
テレビの前の僕とユージ、綾音さんは、石像のように固まっていた。
冷や汗が背中を伝う感触だけが、生々しい。
スマホが震えた。
いや、震え続けている。
SNSのトレンド欄が、とんでもない速度で更新されていく。
『けんたろうちゃんってだれだ??』
『こはるちゃんやらかした』
『けんたろうって……まさか』
こはるちゃんの無邪気な一言は、瞬く間にネットの海を駆け巡り、拡散されていく。
初回放送の女子会ミドヴァ。
ここから綱渡りのように危うい、そして伝説的な展開へと転がり落ちていくのだった。




