vol.75 女子会ミドヴァ②
けいと・あや・さやか・かおり・ひなた・こはるの6人は、スタジオ中央へ駆け寄り、笑顔でカメラを見つめる。
「女子会ミドヴァ♡」
次の瞬間、スタジオに割れんばかりの歓声が響いた!
女子会ミドヴァ、初回放送スタート!
銀テープが舞い、装飾がきらきらして、照明が波みたいに揺れる。
目が忙しいのに、視線は結局、彼女たちに戻ってしまう。
「いよいよ始まる……!」
僕は画面に手をかざし、息を呑む。
ユージも拳を握り、綾音さんも微笑んで画面を見つめている。
佐藤梓はスマホでコメントを打ちながら、「もう、心臓バクバク……!」と興奮を隠せない。
6人は衣装も表情もばらばらで、でも並ぶとひとつの絵になる。
けいとが締め、あやが温度を上げる。
さやかが整え、かおりが支配する。
ひなたが弾けて、こはるがふわっと包む。
始まったばかりなのに、もう「らしさ」が全部ある。
だが、その華やかな空気は一瞬で塗り替えられる。
【ヒット曲「ETERNAL BEAT」披露】
その華やかさを切るように、照明が落ちた。
鋭いシンセのイントロ。
「ETERNAL BEAT」だ。
背中に鳥肌が走る。
けいとさんの指が、鍵盤の上を嵐のように舞う。
テレビのスピーカー越しでも分かる。
音の粒立ちが違う。
さっきまでニコニコしていた「女子会」の顔はもうどこにもない。
そこにあるのは、音楽の女神に憑依された、冷徹なまでのプロフェッショナルの顔だ。
「すごい……音の粒立ちがCD音源と全然違う……!」
YouTuberたちの実況も熱を帯びる。
直山
「やべぇ!
イントロで涙腺きた!
生演奏の迫力ハンパねぇ!
今日のMidnight Verdict、絶対伝説作る気だぞ!」
小泉
「……あの視線。
女王様が心から演奏を楽しんでる顔、拝めるのは生放送だけです。
全騎士団(Midnight Verdictファン)、正座し直せ!」
直山
「サビの転調、ヤバすぎだろ!!
生バンドでここまで一体感あるアイドルグループ、今の日本で他にないよ、ほんと……。
みんな鳥肌立っただろ?」
小泉
「けいと様のキーボード、指の動きまで見えるこのカメラアングルは……。
もう拝むレベルです。」
僕の隣で、ユージが息を呑んだ……わかる。
さやかさんの叩き出すビートは、心臓の鼓動と直接シンクロし、かおりさんのベースラインは地を這うように身体の芯を震わせる。
そして、あやさんのボーカルが突き抜ける。
【♪ 永遠に鳴り響け ETERNAL BEAT ♪】
甘いのに強い。
抱きしめられるみたいで、同時に引きずられる。
スタジオの客が我慢できずに手を上げ、サビを合唱する。
ひなたとこはるのコーラスとダンスが、曲の輪郭をきれいに縁取っていく。
6つの才能が噛み合うと、こんな音になるのか。
曲が終わったあと、音が消えたのに、耳だけがしばらく震えていた。
気づいたら、息を止めていた。
【MCトークスタート】
続いて、MC陣の登場。
人気お笑い芸人のゴリマッチョ岡田と、元グラビアアイドルの桜木麗子が登場し、明るく番組を盛り上げる。
岡田
「いや~皆さん、本当にキラキラしてますね!
普段もこんなに綺麗なの?
いや、楽屋でせんべい食べてるとか……。
ないよな?」
ひなた
「ちょっ!
何それ!
バレたら女子力ゼロよ!」
あや
「あはは、ひなたが隠し持ってるんですよ!」
客席が波打つ。
画面越しに伝わる彼女たちの柔らかさと機転に、思わず微笑む。
桜木が、少しだけ口角を上げた。
嫌な予感がする種類の笑い方。
桜木
「ねえ、みんな、恋の話ってどうなの?
リーダーけいとさんとか、あやちゃんとか……」
けいとさんとあやさんが、ほんの一瞬だけ目を合わせた。
間。
短いのに、やけに長い。
けいと
「うーん……。
どうでしょうね?
私たちも、一応、女性ですから……。
秘密はありますよ」
あや
「そうですね~。
でも、私たち、いつもメンバーと一緒にいるから恋愛してる暇もないんですよね~?
ねっ、みんな!」
さやかさんは困ったように微笑み、ひなちゃんは目をそらす。
かおりさんは無言で一点を見つめる。
空気の隙間に、こはるちゃんが、けいとさんへふわっと顔を寄せた。
こはる
「ねぇ、けいとちゃん。
けんたろうちゃん見てるかな?」
岡田
「ん?
こはるちゃん何か?」
けいと
「いえっ!
……なんでもないです」
声が、少しだけ早かった。
MCが苦笑いで受け止め、話題はそのまま次へ流れていく。
流れた、はずだった。
♪ ♪ ♪
YouTuber・ネット民の反応
生放送を見守る直山は、熱のこもった声で、よりテクニカルな視点で語る。
「うおおお!
今のトークの切り返し、あや上手いな!
完全にMCを手玉に取ってるぜ!
これ、台本じゃなくてアドリブだろ。
彼女たちの地頭の良さがわかるな!」
『恋愛トーク、ヒヤヒヤしましたね』
「いや、あれは見事なプロレスだよ。
けいとが一瞬あやを見たろ?
あれで『あんたが処理しろ』ってアイコンタクト送ってんだよ。
阿吽の呼吸ってやつだ。
こういうグループ内の連携プレイが見れるから、生放送は面白いんだよな!」
小泉団長に至っては、『見ましたか、今のけいと様の間!MCの言葉を受け止める女王の品格!』と、別の意味で感動している。
『団長、マニアックすぎますw』
SNSは、Midnight Verdictの華やかさを称賛する声と、あやさんのトークスキルを絶賛する声であふれる。
しかし、不穏なツイートが一つ、タイムラインを流れていった。
@Koharu_Angel「こはるちゃんが何か言った時、けいとさんは焦ってなかった?」
放送が始まったばかりなのに、もう夜は加速している。
画面越しに、確かに届いてくる。
Midnight Verdictの熱も、笑いも――そして、妙なざわつきも。




