vol.77 女子会ミドヴァ④
こはるちゃんの「けんたろうちゃん」発言は、スタジオに地獄を召喚した。
人気YouTuber二人も、配信で頭を抱えていた。
直山
「こはるぅぅぅ……!!!
誰だよ!!
けんたろうって!!」
日本一熱い音楽系YouTuber・セブ直山は、笑いすぎて涙目のまま叫ぶ。
小泉
「こはるちゃあああああん!
ちょっと待って!
けんたろうってメンバーいないでしょ!!!
けんたろうってSynaptic Driveでしょ!!
共通点ユーロビートしかないでしょ!!」
『騎士団長が乱れてる!!』
『もしかして、Midnight VerdictとSynaptic Driveって仲いいのか?』
♪ ♪ ♪
MC岡田は、顔にかかったお茶を拭くのも忘れ、引きつった笑いを張り付けている。
「は、ははは……面白いですね!
ぬいぐるみかな!?
ペットかな!?」
目が泳ぎまくり、額には玉のような脂汗が滲んでいる。
けいとさんは、真っ赤な顔で咳き込みながら、絶望の表情でうつむいた。
あの完璧な女王が、「もう殺してくれ」と言わんばかりに震えている。
隣のあやさんは、お茶を噴いたショックと怒りで半泣きになりながら、こはるちゃんに詰め寄ろうとして――岡田に制止されている。
常にクールなかおりさんですら、眉を寄せた。
さやかさん
「こはるちゃん!
だ、だめだよ、そんなこと……」
ひなちゃん
「こはる!
マジでどうするのこれ!」
メンバーの視線が、カメラ、客席、MC、スタッフ――あちこちに散る。
けいとさんは顔を手で覆った。
クールな女王が、今だけは助けてのポーズになっている。
スタジオ中がパニックに陥る。
しかし、当のこはるちゃんだけが、ふわふわした笑顔のままだった。
何が起きているのか、本気でわかっていない顔。
彼女は、まるで自分だけの世界から、無邪気に口を開く。
「ふふふ…そんなことは置いておいて~」
置いた!?
今、核弾頭を道端に置いた!?
「ねえねえ、岡田さん!
桜木さん!
この前、みんなで美味しいケーキ屋さん見つけたんですけど、今度、番組で紹介してもいいですか~?」
その瞬間、日本中から音が消えた。
静寂の後――。
岡田・桜木
「「はぁっ!?」」
と絶句し、膝から崩れ落ちた。
「こはるぅぅぅ!!!」
けいとさんが叫びながら、文字通り椅子からずり落ちた。
怒りを通り越し、魂が口から抜けていくような、悟りの境地だ。
あやさん
「あ……あいつ……天然通り越して、悪魔だ……」
床に手をついて、笑うのか泣くのか自分でもわからない顔。
さやかさん
「こはるちゃーん!
今、それどころじゃないよ~!」
かおりさん
「……こはる、恐ろしい子……」
ひなちゃん
「マジかよ……最強すぎる……もう何も言えねぇ……」
ズコーッ!
昭和のコントのような効果音が聞こえた気がした。
スタジオ全体がひっくり返る。
カメラが下を向く。
テロップを流すスタッフの手が止まる。
前代未聞の事態。
スタッフが一斉に頭を抱える。
誰かが小声で「CM……!」と叫んだ気がした。
♪ ♪ ♪
CMが明ける頃には、SNSはすでに伝説となっていた。
『#こはるちゃん神回』
『#こはる放送事故』
『#こはるの天然は世界を救う』
トレンドを独占し、数百万件のツイートが飛び交う。
ネットの反応
@MV_Fanclub_Official「こはるちゃん、マジで神だよwwwwwあの状況でケーキ屋さんの話とか、天才かよwwwww」
@Music_Analyst「これは計算された笑いなのか、それとも純粋な天然なのか…おそらく後者だろう。いずれにせよ、こはるちゃんの天然ぶりは、Midnight Verdictのイメージをより親しみやすいものにした。まさにピンチをチャンスに変えるアイドルだ」
@Anti_Haters_Club「なんだこの番組www放送事故レベルだろwwwでも、普通に面白かったから許すwww」
そして、この歴史的瞬間の目撃者となった二人のYouTuberは、それぞれの言葉でこの夜を締めくくった。
【セブ直山 生放送中】
直山は、興奮で声を震わせながら、カメラに向かって熱く語りかけた。
「見たか、お前ら!
これが伝説の瞬間だ!
こはる爆弾投下からの、『そんなことは置いといて~』って…
天使の顔で爆弾ぶん投げるやつがいるか!
どれだけ音楽が上手くても、どれだけ可愛くても、あんな天然爆弾は作れねぇ…。
天然は才能だ。
ミドヴァ、今日も伝説!」
【ザッツ小泉(「女王の騎士団長」のチャンネル)生放送中】
一方、小泉は一度静かに目を閉じ、心を落ち着かせるように深く息を吸った。
そして、いつもの紳士的な口調で、しかしその奥に熱い情熱を秘めて、視聴者に語り始めた。
「我々が今日、目の当たりにしたものは、決して単なる『放送事故』などという陳腐な言葉で片付けてはならない、一つの『奇跡』です。
こはる様は、その天真爛漫さで、我々が知り得なかった女王様たちの人間らしい、愛らしい一面を引き出してくださいました。
嵐のあとに虹がかかるように。
我々騎士団は、今宵もMidnight Verdictへ永遠の忠誠を!」
♪ ♪ ♪
こうして、Midnight Verdictの初冠番組は、音楽と笑いと冷や汗にまみれた、伝説の夜として幕を閉じた。
僕たちの恋はまだバレていない。
……たぶん。
女子会ミドヴァ。
それは、僕の心臓を物理的に止めにかかる、恐ろしい番組の始まりだった。




