vol.304 G2(ジェネレーション・セカンド)
髪を切ったスズカが戻ってきたことで、役者は揃った。
だが、控え室のカオスは極まっていた。
腰まであった黒髪は、胸元で揺れるセミロングに整えられていた。
その姿を見た瞬間、室内の空気が凍りついた。
「……うわ」
ミナが息を呑む。
「本物そっくりじゃん。
……でも、なんか悪い匂いがする」
スズカは髪をさらりと払い、妖艶に微笑んだ。
そこにいるのは、清楚さをまとった、猛毒の華。
「お待たせしました。
……ふふ、どう?
似合ってますか?」
こうして、新生Crimson Kissのメンバー8人が揃った。
だが、その控え室は、アイドルの楽屋というよりは「猛獣の檻」だった。
一番に声を上げたのは、太陽のように明るい笑顔のアキナだ。
彼女はその豊満な胸を揺らしながら、距離感ゼロでスズカに抱きつく。
「ねえねえスズカさん!
背高ーい!
私たち絶対いいコンビになれるよっ!」
「……あらあら。
元気なワンちゃんね」
スズカは嫌がるでもなく、アキナの頭をよしよしと撫でた。
「懐いてくれるのは嬉しいけど、重いわよ?
……ふふ、でも悪くない感触」
その余裕のあしらいに、アキナは顔を赤くして「えへへ……」と照れている。
アキナが顔を沸騰させる横で、ユミが鏡を見ながら計算高く髪を直していた。
「まあまあ、アキナちゃん。
スズカさんが困ってるよ?
……ふふ、これから長い付き合いになるんだから、みんなで『仲良く』しましょ?
(その方が好感度上がるしね)」
そこに、ぬいぐるみを抱いたフウカが、とろけるような甘い声で割り込んだ。
「クマさんが言ってるのぉ。
ユミちゃんは『嘘つきの匂い』がするってぇ~」
「……あ?
なんだその汚いぬいぐるみ」
「あらぁ、クマさんを汚いなんて……中綿、出しちゃうぞぉ~?」
一触即発の空気に、唯一の常識人であるシホが悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっとみんな!
ストップストップ!
初顔合わせなんだから喧嘩しないで!
フウカちゃん、ハサミしまって!
アキナちゃんも服がはだけてるから直して!」
リサが声を張り上げる。
「ちょっと、みんな聞いて……!」
しかし、喧噪にかき消される。
圧倒的な個性の暴力。
これでは統率どころではない。
リサが途方に暮れかけた、その時だった。
カチャン。
ソーサーにティーカップを置く、硬質な音が響いた。
それだけの音なのに、なぜか室内の空気がピリリと凍りついた。
レナが、静かに立ち上がった。
彼女は優雅な足取りで、一番騒いでいたフウカとアキナの間に割って入った。
「……あら。
賑やかで結構だけど」
レナはニッコリと微笑んだ。
だが、その目は笑っていない。
大人の女性だけが出せる、絶対零度の威圧感。
アキナが「ヒッ」と息を呑み、フウカがぬいぐるみを隠す。
「お茶が不味くなるわ。
……少し、黙りましょうか?」
静寂が訪れる。
猛獣たちが、本能的に「逆らってはいけない」と悟った瞬間だった。
場を完全に制圧したレナは、くるりとリサの方を向くと、先ほどの威圧感を消して一礼した。
「申し訳ありません、リサさん。
出しゃばりました」
「え……あ、いや……」
「私の紅茶より、あなたの言葉のほうが大事ですもの。
……さあ、どうぞ?」
レナは一歩下がり、あくまで「自分は脇役」という位置に戻った。
汚れ役は自分が引き受け、場が整ったところでリサにバトンを渡す。
リサの顔を立てたのだ。
(……すごい。
これが『年齢』ってやつか)
リサはレナに目配せで感謝を伝え、居住まいを正した。
「みんな、席について。
プロデューサーがお待ちよ」
今度は、全員が素直に従った。
その様子を一部始終見ていた美咲は、口角を吊り上げて笑った。
美咲はパンッ!
と手を叩き、全員を見渡した。
「いい顔になったわね。
これまでのCrimson Kissは、ただのセクシーなアイドルだった。
でも、今日からは違う」
美咲はホワイトボードに、黒々とした文字で大きく書き殴った。
『Crimson Kiss G2』
「G2(ジーツー)……?」
ミナが呟く。
「ジェネレーション・セカンド。
あなたたちは、第二世代にして、最強の捕食者よ」
美咲は宣言した。
「過去の栄光も、敗北も、すべて飲み込んで進化する。
さあ、行くわよ。
音楽業界という戦場を、私たちの色で染め上げるのよ!」
「「「はいっ!!」」」
8人の声が重なった。
新たな時代の幕開けを告げる、産声だった。




