vol.302 サバト
ONYX TRAX主催、Crimson Kiss追加オーディション。
コピーは『その色気、武器にしろ』。
そこは今、欲望と香水の匂いが充満する、一種の戦場。
欲望を煮詰めた、るつぼ。
社長との「賭け」によって引き出した莫大な予算。
それを使った大規模オーディションには、数千人の応募者が殺到する。
だが、審査員席に座る美咲の目は冷ややかだった。
「……違う。
これじゃない。」
美咲はプロフィールシートを次々と弾いていく。
隣に座るリサとミナも、あくびを噛み殺す。
「可愛い子はいくらでもいるんすけどね……」
「パンチが足りない。
Synaptic Driveや一条零に対抗するには、『普通』じゃダメなのよ」
美咲はマイクを手に取り、会場全体に響く声で言った。
「いい加減にして。
私が欲しいのは、泥をすすってでもトップに立ちたい『魔女』だけよ。
プライド?
羞恥心?
そんなものを持ってる奴は、今すぐ帰りなさい!」
会場がどよめく。
多くの候補者が怯えて帰る。
しかし、その言葉に不敵な笑みを浮かべて残った者たちがいた。
最初に飛び出してきたのは、服の生地が悲鳴を上げそうなほどの巨乳を持つ少女。
「はいはーい!
私、泥でも何でも飲みますよっ!」
アキナ(19歳)。
底抜けに明るい笑顔。
圧倒的なプロポーション。
彼女が動くたびに、その豊満な胸が重力に逆らうように揺れる。
「あのさ、私、有名になりたいの!
見てよこの身体!
世に出さないなんて人類の損失でしょ?
男たちをみんな、落として見せるんだから!」
自信満々な物言いに、リサが「うわぁ……すごいのが来た」と引く。
だが、美咲は口角を上げた。
この「無知ゆえの突撃力」と「暴力的なまでのビジュアル」は、間違いなく大衆の目を引く。
次に現れたのは、清楚な制服姿の少女。
「私……親の借金があって……アイドルになれないと……」
涙ながらに語るユミ(18歳)。
黒髪ロングに薄化粧。
どこからどう見ても、守ってあげたくなる「清純派」そのものだ。
そのあざとい上目遣いに、審査員たちが同情しかけた瞬間、ミナが机を叩いた。
「おい。
今、舌出してただろ」
「……さすがですね(バレたか)」
ユミは表情を一変させ、ニヤリと笑う。
「でも、騙された男はみんな私の虜ですよ?
私みたいな『毒』、欲しくないですか?」
美咲は即決した。
この二人は、対照的だが強力な「矛」になる。
続いて、ゴスロリ衣装でぬいぐるみを抱いた少女、フウカ(18歳)。
フリルたっぷりの衣装に身を包み、まるでお人形のように愛らしい。
「フウカですぅ~、よろしくでぇ~す」
その甘ったるい声は、聞く者の脳を溶かすような中毒性があった。
しかし、彼女はアキナを見るなり毒を吐く。
「うわ、頭悪そうな乳牛がいるぅ~」
「ああん!?
なんだコラ、そのフリフリ!」
一触即発の空気になったその時。
凛とした、よく通る声が響いた。
「はいはい、そこまで。
喧嘩はダメですよ」
割って入ったのは、柔らかな雰囲気の女性、シホ(20歳)だった。
彼女は暴れるアキナをいなし、フウカの口を塞ぐと、乱れた自分の呼吸を整えることもなく、美しい立ち姿で一礼した。
「ここはオーディション会場ですよ。
……すいません、審査員の方々。
お見苦しいところを」
その見事な手綱さばき。
何より、とっさの動きに見えた体幹の強さと、よく通る発声。
美咲はうなずく。
基礎スキルが高く、この動物園の「ブレーキ役」になれる逸材だ。
そして、騒ぎを冷ややかに見つめる美女、レナ(24歳)。
彼女は静かにリサたちの前に進み出ると、妖艶な流し目を送った。
「私はトップに立つ器じゃない。
でも、誰かを支える影にはなれます」
その言葉通り、彼女が少し踊ってみせると、派手さはないが、洗練された大人の色気が漂った。
リサとミナのような「主役」を引き立てる、絶妙な「脇役」の才能。
これで5人。
戦える駒が揃った。
しかし。
決定的な「何か」が足りない。
欲しい。
あと一人。
美咲がそう思った時——
ドアが開き、最後の候補者が入ってきた。
「……失礼します」
「え、うそ……」
リサの目が見開かれた。
美咲の背筋に、震えるほどの電流が走った。




