小さな田舎の村で
昔の話。今より十年くらい前の話。
アタシは村でも可愛いと評判の子供だった。物覚えも良かったし、愛想もいい、愛されていた自覚もあった。
そんな私と同い年の子が村長の所にいると聞いて、アタシは興味本位でその子に会いに行った。
「アンタが村長の子供ね!」
「誰だお前?」
今と変わらない死んだ魚のような目をしていて、覇気もない暗い子がいた。
「アタシはフローラよ」
「ふーん」
その子はアタシのことなんか見向きもせずに必死に本を読んでいた。
「そんな分厚くて難しい本読めるの?」
「………そうか、この年なら読めないのが普通なのか」
男の子が読んでいた本は漢字や外国語が書いてあってひらがなとカタカナしかわからないアタシにはちんぷんかんぷんだった。
「アンタ、頭がいいのね」
「流石にこの年になるとなぁ」
まだ同い年だから六歳よね?それとも六歳にもなって漢字が読めないって馬鹿にしているの?
「ふん。アタシだってすぐにそれくらい読み書きできるようになるんだから」
「そっか。じゃあ頑張ってな」
再び何事もないかのように本を読みだす少年。
それに対してムキーと腹をたてる少女。
これがアタシとアッシュの出会いだった。
それからアタシ達は村にある教会でシスターから読み書きや勉強を教わることになった。同年代くらいの子達も集まって賑やかで楽しかった。
「あーあ、また男子が悪い事してる!」
「うるさいなぁ。女には関係ないだろ」
ある日、男の子達が度胸試しで近くの山に入って遊ぼうとしていた。山は獣道くらいしかなく、危ないので子供だけで入ることは禁止されていた。
正義感の強いアタシは男の子達が山で悪さをしないようについて行くことにした。本来なら止めるべきだったけど、好奇心の方が高くてそれはしなかった。
アッシュは子供達の輪から離れた所でひっそりと本を読んでいた。
「ねぇ、そろそろ帰ろうよ」
「ばーか、まだ山の奥まで行ってないだろ?度胸試しなんだから一番奥まで行かなきゃだめだろ」
子供数人でずんずん進んで行く。早めに折り返さないと日暮れまでに村に戻れなくなることも忘れて進んで行った。
しばらく進むと開けた場所に出た。そこで他の子供達は遊んでいたけど、アタシはちょっと用を足したかったので一人で近くの草むらに入った。
花を摘んで元いた開けた場所に行くと、さっきまで一緒にいた子達がいなくなっていた。
「あれ?みんなどこ?」
突然独りぼっちになったアタシはわけもわからなくなって、どこに行ったかわからないみんなを捜すために先へ進んだ。
後からわかった話だと、子供達の一人が怖気付いたため村に戻ることにしたらしい。アタシはしっかり者だから自分で帰ってこれるだろうと置き去りにされたのだ。
「ねぇー、いたら返事してよー」
心細くなったアタシはその場に留まるという選択をせずにひたすら歩き続けた。
そして迷子になった。
日が傾き始めた頃にはアタシは泣きながらうずくまっていた。
「ごめんなさい……もう、こんな悪い事しません。神様助けてください……」
「泣くくらいなら最初から行くのやめとけよな」
「誰⁉︎」
ガサゴソと草むらを掻き分けて現れたのはアッシュだった。
「見つけたぞフローラ」
「う、うぇえええええん!!」
鼻水を流しながら号泣してアタシはアッシュに抱きついた。怖かったのだ。
「良かった。これで助かった……」
「喜ぶのはまだ早いな。実は俺もお前探すために適当に山の中探していたから迷子なんだよ」
「えぇっ⁉︎それじゃあ、二人揃って仲良く遭難したってことなの⁉︎」
「そーなんだよ」
トボけた顔して寒いギャグを言ったので、思わず怒ってビンタした。これが今のスキンシップの最初なのかもしれない。
「これからどうするの?さっきの川沿いに降って行く?」
「それ悪手って知ってたか?降っているつもりがどんどん深い所に行くってやつ。だから目指すのは山の頂上だよ」
アッシュは物知りだった。食べれる木の実や水を安全に飲む為のろ過装置や動物の糞が多い方へ進まない方がいいことなどを教えてくれた。
「よくこんなこと覚えているわね」
「こういう知識があれば話のネタになるからね」
「ネタ?いつも本とか読んでるけど、小説家になりたいの?」
「小説家になりたいというか、どうしてもこの目でみて体で体感して書き残したい物語があるんだ」
離れ離れにならないように二人手を繋いで山を登って行った。その途中でアッシュが自分の知っている色々な物語を教えて貰った。
その中には学園にやってきた選ばれし勇者が数々の苦難や強敵を乗り越えて学園の仲間と共に悪いモンスターを倒す話もあった。
「いつか俺はその物語みたいに感動する話を書きたいんだ。最高の騎士と美しい妖精の女王様とのラブストーリーってのを」
「へー、面白そう。書けたらアタシにも見せてよ!」
「いいけど、俺は学園に行くから見せるのは何人か後だぞ」
「それでもいいわ。素敵な恋の物語だったらいつでも大歓迎よ」
そんな話をしながら山の頂上へ着いた。
日はとっくに沈んでしまって、真っ暗な中で肩を寄せ合って話をした。水は水筒があったし、食べ物は拾った物を食べた。
翌朝になると村から大人達が総出で捜索して見つけてくれた。なんでも通りすがりの白いローブを着た魔法使いが一発でアタシ達の居場所を探し当ててくれたらしい。
こっぴどく怒られたアタシ達は村に戻ると二人で楽しかったね?と笑い合った。
そこからアタシは用もなくアッシュの所に遊びに通うようになった。
村の中しか知らないアタシに色々な話をしてくれた。町よりもっと大きな時代が進んだ『にっぽん』の話をしたりもした。
それに喜ぶアタシに気を良くしたのかアッシュは自分が『げえむ』の世界に転生した『にっぽん人』だと言い始めた時はちょっと妄想が過ぎると思ったけど。
ある時、仲がいいアタシ達の様子を見て村長と両親が将来二人が大きくなったら結婚しないか?と聞いてきた。今のうちに許嫁にしておこうという狙いだった。
アタシは恥ずかしかったけど、村の子供達の中では一番アッシュと仲がいいし、夫婦になっても友達と変わらない感覚でいられると思ってOKを出した。
でも、アッシュがそれを断った。
「俺はいつか村を出て学園に行くつもりなんだ。そしたらどこかからスカウトもらったり、都会の方に移り住んだりするかもしれないだろ?それに俺は奥さんとか彼女のことなんて考える余裕ないからハナコは別の相手を探せよ」
こうしてフラれたアタシは、その後も未練たらしくアッシュの世話を焼いて暮らしていた。
それが去年、アッシュが無理だと思っていた学園への入学を決めていなくなって、村の子供達は次々に結婚したり子供を産んだりして、アッシュ以外に親しい男子がいなかったアタシを心配して両親がお見合いを用意したりしてくれた。
そうして今回、アタシは見ず知らずの貴族の人と婚約することになったのだった。




