図書館での攻防
俺達三人がいまから挑戦するのはやってもやらなくてもいいミッションだ。
内容は、文化祭で警備が薄い図書館に泥棒が入ったからそれを撃退しろ!という内容だった。報酬として学園側からお金を貰えるくらいの。
それに挑戦する理由は主人公の経験値稼ぎだ。このままだといずれくるイベントで敗北確実になってゲームオーバーになる。ゲームだとリセットできけど、この世界じゃそんな都合のいいことはない。そんな気がする。
……それと、泥棒のせいで学園祭を中止になんてさせたくないからかな。
「しかし、どうして泥棒が侵入したなんて知っているんだ?」
「実は俺、未来予知が出来るんだ!……とか言ったらどうする?」
「アッシュは小説家じゃなくて占い師だったのか⁉︎」
「冗談だよシリウス。去年の学園祭の時に怪しげな奴が図書館付近でウロウロしていたって話を聞いてな。もしかしたら今年もいるかもしれないと思って結界張ってたんだよ」
侵入を防ぐんじゃなくて、すぐに壊れて侵入者がいることを知らせてくれるセンサーみたいな結界。もちろん、ミランダ協力の元。
「そろそろ図書館だ」
教室から離れて数キロ。徐々に人気は減って、図書館付近には誰もいなかった。
「流石に正面から入るとバレるから裏から行くぞ」
「侵入者は裏口から入るものじゃないのか?」
「結界は正面にしか張ってないんだよ。裏口はデタラメにセキュリティ高くて魔法鍵がないと開けられねぇ」
「なら、オレたちが裏に回っても意味が………それは?」
「ここの鍵」
回り込んで魔法鍵を取り出し遠慮なく裏口のドアを開けた。
「言っておくけど、この鍵は図書館の司書さんと仲良くなって特別に貸して貰った鍵だからな。盗んだとかじゃないぞ」
「…………おい、静かにしろ」
何か言いたげな主人公にどういう経緯で鍵を持っているかを説明してあげようとしたらシリウスに妨げられた。
そのまま中に侵入して泥棒を探す。結構派手に物音を立てていたからあっさりと見つかった。数は四人ってところだ。
原作スタートして序盤の方だから敵は強くない。チンピラレベルだ。見た感じは普通の服装してるし、顔を見られないように布で覆っているくらいだ。
「おい、目的の本はまだかよ」
「うっせぇなぁ。見てわかるだろ?必死に探してんだよ」
「魔道書なんて普通に置いてあるもんなのか?」
「一冊でもあれば高く売れるのになぁ」
田舎のヤンキーみたいな連中だった。持ってる武器が鉄パイプとかバットってどうなの?
でも、気になるのが魔道書ってワードだ。魔道書ってのは色々な魔法の使い方や呪文が書いてあって、持ってるだけでステータスがアップするアイテムのことだ。
ゲームで主人公に魔道書を持てるだけ持たせて魔法専門の攻撃方法を試したりしたこともある。ただ、魔道書自体が貴重なのでそれなりの時間や費用が必要になるけど。
「……どうするアッシュ・ダストン」
「捕まえるしかねぇだろう。行けるか?」
「俺様にその質問は必要ない。勝つか負けるかだけだ!!」
その宣言が合図だった。
馬鹿正直にシリウスが泥棒一味に駆け寄る。
「なっ、学生だと⁉︎」
「見つかったとなれば生かしちゃおけねぇ。殺れ!殺っちまえ!」
泥棒その一、とその二がシリウスに襲いかかる。しかし、シリウスは二本の剣で難なく受け止めた。
「その程度ではこの俺様は止まらんぞ?」
流石脳筋ゴリラ。二対一にもかかわらず圧倒している。
「うぉおおおお!」
主人公も負けじと泥棒その三にくらいつく。
転入した時は俺に負けるくらいだったけど、この数ヶ月間ユーリとシリウスに鍛えられてきただけあってチンピラ相手に負けない。
「まだいやがったのか!しかも女装した変態だ!!」
「オレは変態じゃない、勇者になる男だ!」
黒髪ミニスカメイドが暴れ回る。見たくもない下着がチラチラ見えてるんですけど。
さて、俺は俺で最後の泥棒その四に。
「たかが学生だと思っていれば中々やるな。かつて『荒地の禿鷹』と呼ばれた俺の実力を見せてやろう」
前言撤回。スキンヘッドの泥棒その四から魔力のオーラみたいなのが出始めた。
こいつ、泥棒一味のボスにしてはレベル高そうだぞおい!
「シリウス、ヤマト!このハゲが一番強い!!」
「三人目か。だが、俺の敵ではない」
ハゲが魔法を使う。水の玉やら風の刃が飛び交い始めた。
「魔法使いタイプか。俺様と相性が悪いぞ!」
「オレも魔法は使えるがあそこまでのレベルじゃない」
手下その一からその三まではわずかな時間で気絶させられていた。二人の実力なら当然の結果だけど、
「俺が使えるのはマッチの火とかそよ風くらいだっつーの!こんなんだったら教師にチクってたわ!!」
本棚や机を盾にしつつ後退する。シリウスは力づくで魔法をはたき落としているけど、いつまで保つか。
「ほら、勇者様。ここが活躍所だ。覚醒して剣からビームでも撃てよ」
「無茶を言うな!勇者専用の聖剣だって持ってないのにそんなことができるか!!逃げるぞ」
「逃すかよ。全員ぶっ殺してやる!」
誰だよ簡単なミッションだから三人で行こうぜとか言ったやつ!俺だよ!!
「抵抗しないんならこのまま嬲り殺してっ⁉︎」
ハゲの攻撃が止んだ。
何事かと、恐る恐る本棚の陰から顔を出す。
「全く。帰りが遅いと思って追跡魔法を使ってみれば……何をしていますの?」
「随分と暴れていたようだね」
「本がボロボロになってるわ。アッシュくん、大丈夫だった?」
図書館正面から見知った三人が現れた。
どうやらハゲはミランダの魔法で吹っ飛ばされたようだ。
「助かったぁ〜」
「くっ!カッコいいタイミングで登場とは流石我がライバル……」
主人公とシリウスも無事だな。
「なんだお前ら、ぞろぞろと揃いも揃って……こうなればこの図書館ごと吹き飛ばしてやる!」
起き上がったハゲは自爆魔法の呪文を唱え始めた。マズい!自爆は命と引き換えに広範囲を巻き添えにする。まさかそんなものを使うなんて!
「させないわ!……凍りなさい」
サテラが魔法を発動させる。彼女が得意の氷属性の魔法は一瞬にしてハゲ男とその周囲を凍らせた。そして一体の氷像が出来上がった。
「呪文を唱えずにこの威力の魔法。相変わらずデタラメですわねエルフというのは」
「しかし、サテラさんのおかげで巻き込まれずに済んだじゃないか。危なかったら僕が飛び込んで首を跳ねるしかなかったようだし」
「一応、手加減しているから氷を溶かせばまだ生きてる。あとは先生達に任せましょ?」
俺達が苦労していた相手をこうもあっさりと。流石だよサテラ!
「では、与えられた仕事を放棄してまでこんなところで何をしていたか洗いざらい吐いていただきましょうか」
パチン、とミランダが扇子を鳴らした。その目はサテラの氷魔法より冷たかった。
♦︎
「いやー、泥棒と戦うより疲れるとは」
「自業自得だよ、アッシュ」
あの後、ミランダに事情を説明して折檻され、騒ぎを聞きつけてやってきた教師陣に説教され、図書館の掃除をさせられた。
教室に戻ったら、看板娘と執事がいなくて大変だったとクラスメイト達からも責められた。
本当ならサクッと終わらせて何もなかったかのように作業に戻る予定だったのに……。もちろん、学園側から報酬金もなし。反省文の提出はあったけど。
「それに僕は少し怒っている」
「俺が弱いのに危ないことをしたからか?」
「いいや。シリウスやヤマトくんを連れて行ったのに僕を誘わなかったことだよ」
そう言ったユーリは少し寂しそうだった。
「僕だって弱くないはずだ。相手に魔法使いがいても僕なら同じように魔法を使って対処できるし、ヤマトくんよりは剣の腕も上だった」
ユーリがいればあのハゲも楽勝だったかもしれない。魔法を相殺しつつ近づけば倒せただろう。ハゲは武器を持っていなかったし。
「君には信頼されていると思っていたんだけどね」
「俺だって信頼してるけどさ…………でも、今回はお前に頼りたくなかった」
「どうして?」
「だって、せっかくユーリやサテラが楽しんでるのに水を差すような真似したくなかったんだよ。卒業したらユーリはこうやってふざけて遊ぶ機会もなくなるだろ?だから」
「僕は将来、民を守る騎士を目指している。アッシュ。大切な友人一人を守れないのならば、僕は騎士になんてなることはできない。だから、僕のことを考えるのなら迷わずに誘ってくれ」
「……そういうやつだよなお前は。わかったよ。次から問題発生したら真っ先にお前を誘うよ。その結果として危ない目にあっても知らないからな」
「望むところだよ親友」
青臭い発言すら絵になるよなこいつ。
ふっ、とお互いに顔を合わせて笑った。まさかユーリから親友認定されるとは思わないんだよなぁ。照れ臭い。
こうして、文化祭は思いのほか盛り上がって終了した。
騒ぎのせいでうちのクラスの売り上げが伸び悩んだりもしたが、ラストで男女逆転から普通のメイド喫茶にするという暴挙に出たおかげで、一度来た客が再びユーリの執事姿やサテラのメイド服を見に来るために行列を作ったため、なんとか売り上げ一位で表彰されることになった。
この情報や図書館での激闘、喫茶店での裏話を書いた俺の記事は好評となって、学園側から貰えなかった分のお金くらいにはなってくれた。




