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婚約者が病弱な幼馴染ばかり優先するので慰謝料をふんだくる  作者: リーシャ


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08ビジネス病弱女を連れてた男がウザい

 周囲にいるのは百戦錬磨のゴリラのような洗濯係。元あらくれ冒険者たちであるから、通用するはずがなかった。


「ああん!?胸の病ぉ?だったら無駄に鍛え上げられた洗濯板を叩き割るほどの背筋は何なんだい!言い訳してないで洗濯籠を川まで運べ!」


「いやあああ細い腕がぁ!筋肉でバキバキになっちゃう!」


 毎日毎日。山のような泥汚れと格闘させられた結果、カラメーリアの身体は劇的な進化を遂げていた。

 守ってあげたい儚い私を演出していたはずの身体は、プロレスラーも顔負けのシックスパックの腹筋と大木のような上腕二頭筋を完備。


 少しでもサボろうとしてお得意の嘘の発作を起こすと、洗濯係から気付けの冷水という普通の冷たい水をバケツごと脳天にぶっかけられるため、今では嘘をつく暇すらなかった。

 ちなみに元婚約者のマージンは借金取りに追われながら、カラメーリアの横で手洗いの泡立て係として一日中冷水に手を突っ込んでいる。

 ひたすら石鹸をこするだけのマシーンと化しているらしい。お似合いの夫婦である。


 王太子の幼馴染だったクラリスは、さらに過酷な環境にいた。照りつける太陽、見渡す限りの白い塩、吹き荒れる塩分を含んだ強風。


「あああ。お肌が、水分がぁ!」


 クラリスは顔にボロ布を巻き、泥にまみれて巨大な木製の鍬(くわ)を引いていた。塩田の仕事は激務。海水を汲み上げ、敷き詰め、太陽の熱で乾燥させて塩を収穫する。


「おいクラリス!手が止まってるぞ!今日中にあと三面分の塩を回収しないと、夕飯は抜きだからな!」


「そ、そんな……!監守さん私、本当に頭がクラクラして……発作が……!あああ」


 クラリスがその場にバタリと倒れ込み、お得意の悲劇のヒロインの失神を披露した。が、監守は冷ややかに彼女を見下ろして、持っていた書類に目を落とす。


「はははは。王宮医長からの通達通りだ。クラリスが倒れたら、肩凝りの悪化かサボりであると。肩の凝りをほぐしてやるから今すぐ立て」


「ひっ……!」


 監守が取り出したのは残していった魔法道具のスクロール。広げるとクラリスの足元からシュパァァァ!と高圧の水流が噴き出し、彼女のコリ固まった肩甲骨をピンポイントで激しく強打でマッサージした。


「いだだだ!痛い痛い痛い!痛いですぅぅぅ!肩凝り治りました!絶好調です!いだだだ!?」


「よしなら働け」


 親切な治療魔法水圧マッサージのおかげで、クラリスも絶対に病気になることを許されない究極の健康体を維持させられていた。

 過酷さに夜、ルファード殿下(※水道水から自分の悲鳴が聞こえる呪いにかかりながら徹夜)に宛てて「助けて」と血書を送ったらしいが。

 ルファード自身が書類の山に埋もれて生死の境を彷徨っているため、手紙が読まれることは永遠にない。


「ぷっ……アハハ!最高あの二人!」


 手紙を読み終えお腹を抱えて笑った。あんなにイライラさせた病弱幼馴染という最強の盾が、絶対にサボれない健康体という呪いになって彼女たちを縛り付けている。これ以上あるだろうか。


「ローベル様、次のおかわりをお持ちしました」


 ラッコ型の魔物が小さな両手で器用にグラスを運んできてくれる。


「ありがとう。世界を救えるレベルの力は、こういう平和のために使うべき」


 嘘つきな幼馴染も無能な男たちも視界には入らないのが平和平和。


 *


 南の島での生活にもすっかり慣れたある日。自分のコテージのテラスでお気に入りの水魔法を使ってコーヒーを淹れていた。

 コーヒー豆の成分を一番効率よく抽出する水の温度を活用した、自分だけの至高の一杯。香ばしいアロマが南国の風に乗って広がるのを満喫していた。


「噂の奇跡の癒やし手だな!頼むこの子の病を今すぐ治してくれ!」


 テラスの柵を乗り越える勢いで、絵に描いたような金髪チャラ男の冒険者風の男が駆け込んできた。腕にはこれまた見覚えのある雰囲気の、儚げな美少女がぐったりと抱えられている。


(はぁぁぁ?)


 コーヒーポットを片手に特大の盛土をひっくり返した。


(何?観光地によくある野生の病弱幼馴染男付きがポップした?人の神聖なコーヒータイムに土足で踏み込んでくんじゃない!奇跡の癒やし手って誰のことだ。私は永遠の休暇済み魔導士)


「どちら様でしょうか。私有地なのですが?ね?」


 営業スマイルを貼り付けて、コーヒーをカップに注ぎながら問いかけた。


「おれはAランク冒険者のケビン!で、こっちが幼馴染のルミウーラ!ルミウーラは生まれつき魔力伝導不全による胸の激痛を抱えていて、医者からも長く生きられないと言われているんだっ!水を操って人を癒やす凄い魔導士だって聞いて、はるばる海を渡ってきた」


「お、お兄ちゃん……私もうダメかも……胸が、きゅ、苦しくて……お姉様にご迷惑をかけちゃ、ゲホッ、ゴホッ」


 ルミウーラとやらは、ケビンの胸元に顔を埋めながらチラリと盗み見てきた。その瞳には「早く私を心配して、可哀想がって無償で治療しなさい」という強欲な輝きが透けて見えている。


(出た本日の一件目、百パーセント純度の病弱ビジネス入りました)


 心の中で淹れたての熱々コーヒーをケビンの顔面にぶちまける妄想をしながら、水流レーダーを起動した。

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