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婚約者が病弱な幼馴染ばかり優先するので慰謝料をふんだくる  作者: リーシャ


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04子供のナニーから卒業できてスッキリ

 会場にざわめきが広がった。


「か、肩凝り……?」


「病弱で今にも死にそうというのは嘘だったのか?」


「ち、違う、違うの!本当に病弱で……ひうっ!?」


 カラメーリアが言い訳をしようと身をよじった瞬間、水の檻の水圧がドン、と一瞬だけ高くなった。嘘をつくなと警告するように。


「嘘をおっしゃると胸の補正下着のワイヤーが水圧でひしゃげて、本当に胸が苦しくなってしまいますよ?」


 至近距離でカラメーリアにだけ聞こえる超低音のウィスパーボイスで囁いた。カラメーリアの顔が恐怖で一瞬にして真っ青になる。


「マージン様」


 振り返り、呆然と立ち尽くす元婚約者予定を見つめた。


「ドレスを奪い、公の場で私を侮辱し、さらには健康そのものな女性の嘘に騙されて国家最高戦力を愚弄した罪。公爵家として、どう責任を取ってくださるの?」


 マージンの顔からみるみるうちに血の気が引いていく。溺れるのは水の中だけじゃない。自分の愚かさが招いた絶望の淵へ今、二人はゆっくりと沈み始めていた。


「ロ、ローベル……!おれが悪かった!完全にカラメーリアの嘘に騙されていたんだ!お前が国家最高戦力の魔導士だったなんて知らなくて」


 マージンはガタガタと膝を震わせ、今にもその場に跪かんばかりの勢いで私に手を伸ばしてきた顔は恐怖と焦燥で歪み、額からは滝のような冷汗が流れている。


(本日二回目の手のひらクルックルー)


 様式美にポップコーンを投げ飛ばして大爆笑している。


(騙されてた?違うでしょ。私を言いなりになる都合のいい女だと侮って、カラメーリアっていう庇護欲をそそるおもちゃを優先して悦に浸ってたのくせに!私がSSS級じゃなくても婚約者のドレス横流しした時点でアウトなの不貞男)


「マージン様、私に触れないでいただけます?地味で平凡な私の紺色のドレスに汚れた手がかかると、洗濯代が余計にかかってしまいますよ」


 喜び極まる笑みを浮かべ、すっと一歩後ろに下がったと同時にマージンの足元の空気が一瞬で冷やされ、薄い氷の膜が張られる。


「ヒッ……う!?」


 マージンは滑って無様に尻餅をついた時には公爵令息としてのプライドなど、すでにどこにも残っていない。


「う、嘘よ……マージン助けて……私、悪くないわ……うっ」


 水の檻の中でカラメーリアがガタガタと震えながら、哀れな声を上げる。周囲の貴族たちの目は氷のように冷たい。


「国家最高戦力を侮辱した」


 一事だけで国において彼らの社会的生命は完全に終わったのだ。


「見苦しいぞマージン。そこの女も」


 王太子殿下がドスの利いた声で二人を見下ろした。


「ローベル嬢は我が国の安全保障そのもの。彼女を蔑ろにし、他国のスパイとも疑われかねない不審な女を囲い、挙げ句の果てに王宮の場で冤罪をなすりつけようとした罪、公爵家取り潰しすら生ぬるい」


「な……とり、つぶ……しっ!?」


 マージンが絶望に目を見開くがここからが本番。普通を装いながら、なぜSSS級の地位を維持していたか。いざという時に合法的に、全力で相手を社会的に抹殺する特権を手に入れるため。


 懐から一枚の淡く青い光を放つ魔力契約書を取り出した。王家の紋章と魔力刻印が押された国家最高機密の書状。


「SSS級魔導士特権免責書に基づき、本日今この瞬間をもって、あなたとの婚約を破棄させていただきます」


「ロ、ローベル!待ってくれ、頼む!改める、心を入れ替えるから!」


「うふふ!お断りします。それから」


 にっこりと最高に意地の悪い笑みを浮かべた。


「私のオーダーしたドレスの代金、これまでのデートのドタキャンによる機会損失、精神的慰謝料、国家最高戦力を精神的に疲弊させた国家反逆未遂罪の罰金。あわせて公爵家の資産の約八割を請求させていただきます。分割払いは受け付けておりませんので一括で、一週間以内にお支払いください」


「は……へ?八、割……って?」


 マージンの魂が口から抜け出ていくのが見えた。公爵家は潰れずとも、資産の八割を失えば、借金まみれの没落貴族。二度と贅沢な夜会に出ることも、高級なドレスをカラメーリアに買い与えることもできない。


「カラメーリア様も」


 水の檻をパチンと指を鳴らして消滅させた。べしゃり、と床に濡れネズミのようになって倒れ込むカラメーリアに、冷たい視線を送る。


「健康的な体なら、あらくれ者の男たちが集まる鉱山の洗濯専門の奴隷メイドとして、朝から晩まで元気に働けます。胸の病も、大自然の厳しい環境なら一発で治るんじゃなくて?ねぇ?」


「いや……嫌ぁぁぁぁ!私は転生者なの!?こんなの、こんなシナリオおかしいわよぉ!」


 カラメーリアが狂ったように叫びながら、近衛兵たちに引きずられていく。最後まで自分が悲劇のヒロインだと信じて疑わなかった哀れな女。

 マージンもまた、完全に精根尽き果てた様子で兵士たちに抱えられて会場から連れ出されていった。周囲には静寂と畏怖の視線だけが残る。


「ふぅ。よし」


 小さく息を吐き、髪をかき上げた。


(あーーースッキリした!溜まりに溜まった数ヶ月分のイライラが一気に水に流せた)


 これでようやくウザい幼馴染女に邪魔されるお茶会とも、無能な男の言い訳を聞く時間ともおさらば。

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